第14話 理解できない
ヘリオスが医者を呼んでくれたおかげで、破落戸たちはなんとか一命をとりとめたという。
もちろん、騒ぎにならないように、彼らにシャルルたちの身分は明かしていない。
「まったく……! だから反対だったんですよ、彼を部隊に加えるのは!」
ヒューが溜息を吐く。
眠っていたところを起こされ、しかも面倒な事務処理を再び押しつけられたのだから無理もない。
「……リベルタは、悪気がなかった。俺のためにと思っただけだ」
「それが問題なんです! 悪気がなく、あそこまでやれるんですよ。そもそも人を殺していた時も、どんな気持ちでやっていたのやら」
ヒューに言い返せず、シャルルは下を向いた。
現在、リベルタは部屋に軟禁状態だ。手足を拘束しないことにも、ヒューにはかなり文句を言われたものだ。
ヘリオスとマルセルは既に部屋で休んでいる。リベルタに関することは、シャルルに全て任されているのだ。
あいつは頼まれて人を殺していたと言っていた。
他人に利用されたのだと納得し、俺は、あいつの気持ちを考えることを放棄していた。
人を殺す時、リベルタはなにを思っていたのだろうか。罪の意識はあったのだろうか。
「隊長」
ヒューが近づいてきて、シャルルの顔を覗き込む。
「今からでも遅くはありません。彼は除隊すべきです」
「……除隊して、どうするんだ? 今さら役所に差し出すのか? 事件の真相を隠蔽していたと明かして?」
リベルタは、ここにいられることを喜んでいた。今さら彼を突き放そうとすれば、彼はどんな顔をするのだろう。
「殺すべきです」
苦々しい表情で、ヒューはそう言った。
「彼はエクシティウムの生き残りです。欲しがる連中も多いでしょう。しかも追い出せば、彼は我々に……貴方に恨みを持つことになる」
「……だろうな」
「もし彼を、第一王子派の人間が手に入れたらと思うとぞっとします」
第一王子・プルグス。シャルルの異母兄である。
第一王子である彼が後継者となるのが通常だが、まだ正式に王太子に定められてはいない。
そのため、第一王子と第二王子は王位をめぐって不仲である……というのは人々の間に流れている噂だが、事実でもある。
「隊長。私は、彼を殺すべきだと思います」
「……あいつはエクシティウムの生き残りだぞ」
「食べ物に毒でも仕込めばいいでしょう。貴方が与えた物なら、彼は油断もせずに食べるのでは?」
ヒューの言う通りだ。いくら彼が強くても、毒には敵わないだろう。
「ヒュー」
「はい」
「この考えは、他言しないように。リベルタの様子を見てくる」
隊長! とヒューに叫ばれたが、振り返らずシャルルは部屋を出た。
◆
「アレク。見張り、ご苦労だったな」
「いえ。中へ入られますか?」
「ああ。一応、扉の前に控えていてくれ」
アレクに命じ、部屋の扉を開ける。ベッドの上で膝を抱えて座っていたリベルタは、シャルルを見ると目を輝かせた。
「シャルル様!」
「……リベルタ」
「あの、俺、すいません。全然、悪気なんてなくて。でもその、次からはしないように気をつけますから。ちゃんと手加減するっていうか、その……」
リベルタは深々と頭を下げた。
「リベルタ、お前に一つ、聞きたいことがある」
リベルタの隣に腰を下ろし、小さく深呼吸をする。
今大切なのは、冷静になることだ。
「お前は今まで……人を殺した時、なにを考えていた? どう感じていたんだ?」
祈りながらリベルタの反応を持つ。
頼むから、苦しかったと言ってくれ。
人に頼まれて、生きるために、自分の居場所を作るためにやったことだと。
「俺って生きてるんだなあって、そう、感じました」
ぽつり、とリベルタはそう呟いた。
「初めて人を殺した時、思ったんです。ああ、これが、生きてるってことなのかって」
少しずつリベルタの声は大きくなり、瞳が熱を帯びていく。
それと裏腹に、シャルルは自分の身体が冷えていくのを感じた。
「俺にはなにもなくて、俺に見える世界は灰色で、でも……血は、すごく赤くて。なんだかそれも、俺には綺麗に見えて」
リベルタは、人に利用されて人を殺していた可哀想な男ではなかったのかもしれない。
むしろ、その逆だったのではないか?
リベルタは、人を殺す理由を、他人からもらっていただけなのではないか。
頭の中に、そんな考えが浮かんだ。浮かんでしまった。
戦闘民族、エクシティウム。戦争で大活躍した一族。
建国時には大活躍だったが、平和な世の中が続くと徐々にその存在感は薄れ、滅びてしまったという。
戦を好む彼らの扱いに平和な時は悩んだ……という記述を見かけたこともある。
リベルタは、争いが……人を殺すことが、好きなんじゃないか?
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