第11話 王子、捜査を始める
聞き込み調査で分かったことを記した報告書を見ながら、紅茶を飲む。こうしているうちにいい考えが思い浮かべばいいのだが、そう上手くはいかない。
リベルタとアレク以外の隊員にも命令し、貧民街だけでなく王都での聞き込み調査を行った。
その結果、判明した事実がいくつかある。
・最近、貧民街も王都も妓楼が賑わっている
・貧民街で新しくできた飲食店が人気になっている
・行方不明者同士は無関係の者もいるが、親しい友人と共に行方不明になった者もいる
・高価な衣服や装飾品の売上が増えている
などだ。
「景気がよくなっていることと、行方不明事件は関係があるのか?」
溜息を吐き、紅茶の入ったカップに手を伸ばす。既に冷めていた残りの紅茶を一気に喉へ流し込んだ。
「リベルタ、おかわりを……」
言いかけて、リベルタが部屋にいないことを思い出す。
現在彼は、戦闘班員として訓練に参加中なのだ。
聞き込み調査をきっかけに、リベルタはシャルルの付き人以外の仕事もこなすようになった。
相変わらず周りには馴染めていないようだが、困らない程度にはアレクが面倒を見てやっているらしい。
指導料をたっぷり渡してやったからだろうが、アレク自身の生い立ちも影響しているのだろう。
リベルタと同様、彼も貧民街で育った男だ。
今すぐ、リベルタがアレクと友情を築けるとは思っていない。けれど、いずれはそうなってほしいと思う。
「とりあえず、今は捜査だな」
ソレイオにばかり任せているわけにはいかない。隊長として、シャルルもできる限りのことをしなくては。
「まずは、景気がよくなっている理由を調べてみるか」
国全体の景気がよくなった、なんて報告は聞いていない。王都で暮らす住民全員の所得が増えたわけでもないだろう。
ただ、一部の人間が自由に使う金が増えているのだ。
ちら、と窓の外を眺める。既に日は暮れかけていた。
◆
「俺はあまり、こういうところは好きじゃないんだが」
「せっかく経費で遊べるんだから、楽しめばいいのに」
不満げな顔をしたマルセルに対し、ヘリオスが貧乏くさいことを言って笑う。ヘリオスは大金持ちなくせに、金には意地汚いところがあるのだ。
シャルルたちは今、王都の繁華街……中でも、妓楼が立ち並ぶ通りにきていた。
目的は楽しむためではなく、あくまでも調査のためである。
「マルセルの代わりにここへきたがっていた子なんて、いくらでもいたんだから」
「俺は何度も遠慮しただろう。そもそも、捜査は俺の仕事じゃない」
「僕が強く推薦したんだよ。せっかくだからね」
ふふ、と楽しそうにヘリオスが笑う。真面目とは程遠い態度だが、いつものことだ。
相変わらずな二人を横目で見つつ、シャルルは振り返ってリベルタの顔を見た。
「お前、こういうところは初めてか?」
「はい。貧民街から出たことはありませんでしたし」
「貧民街にも妓楼はあるだろう?」
「それはそうですが。お金もなかったですし、どうせ行っても、不気味がられるだけでしょうから」
そう言って、リベルタは頭からかぶったマントの裾をぎゅっと握った。
今から四人が向かうのは、高級妓楼である。貴族ですらなかなか手が届かないような店だ。
「シャルル様は、よくこられるのですか」
「……いや。立場が立場だ。気軽にはいけないな」
特務警察部隊を設立したことをきっかけに、シャルルは宮殿を出て暮らしている。そのため比較的自由に身動きはとれるが、それでも第二王子という立場は重い。
そのため今日も、ウィッグで変装済みだ。ヘリオスとマルセルが同様の変装をしているのは、特務警察部隊だとバレないようにするためである。
こちらの立場を明かさずにいた方が、ありのままの事実を喋ってくれるだろうから。
「ここでは、俺の名前を呼ばないように」
気をつけます、とリベルタは真剣な顔で頷いた。
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