第7話 次なる事件
「おはようございます、シャルル様」
リベルタの楽しそうな声で、シャルルは目を開けた。
満面の笑みを浮かべたリベルタが立っている。
「朝食の用意が終わりました。先に着替えますか?」
「いや、先に食事にしよう」
ベッドから下り、テーブルへ向かう。すると、リベルタがすぐ後ろをくっついてくる。
先日、彼を特務警察部隊隊長付き隊員に任命した。要するに、シャルルの付き人である。
彼を通常の新入隊員と同様に扱うわけにもいかず、特例として、シャルルの身の回りの世話を任せることにしたのだ。
今のところ、リベルタはよくやっている。言われた仕事は少なくとも覚えようとするし、拙いが、敬語を使えるようになった。
「シャルル様、今日の朝食は焼き立てのパンですよ」
一般の隊員は食堂で食事をとるが、シャルルをはじめとする身分が高い者は部屋まで食事を運ばせる。
以前は他の者に頼んでいたが、最近は食事の用意もリベルタに任せている。
そして、彼と食事を共にするようになった。
「今日も美味しそうですね」
リベルタは朝から大量に食べる。ここへきて食料に困ることがなくなったからか、やせ細った印象は日に日になくなりつつある。
こうしていると、普通の男だ。
のんびりしたところはあるが、リベルタは素直で元気がいい。打算的なところもなく、シャルルは彼と過ごす時間を心地よく感じ始めている。
「なあ、リベルタ」
「はい?」
「今日の髪型はどうするのがいいと思う?」
シャルルの髪は長く、腰まで伸びている。そのため、様々なアレンジが可能だ。
「そうですね。どこかへ行ったり、訓練の予定がないなら、下ろしたままでもいいんじゃないですか?」
真剣な表情でリベルタは答えてくれる。
マルクスやヘリオスに尋ねてもなんでもいい、としか言われないし、ヒューに聞けばそんなことを気にするなら髪を切ってはいかがですか、なんて言われてしまうのに。
ただの話し相手としても、リベルタは悪くない。
改めてそう実感したところで、激しく部屋の扉がノックされた。
もちろん、誰かなんて決まっている。
「ヒュー、入っていいぞ」
扉が開き、ヒューが中へ入ってきた。ヒューはリベルタを見ると、一瞬だけ引きつった顔になる。
彼はリベルタを恐れているのだ。その上、性格的にもあまり相性がいいとは言えない。
「隊長、事件です」
「だろうな。今度はどんな事件なんだ?」
「行方不明事件です。最近、王都で若者を中心に、男女を問わず行方不明者が増えていると」
「……ほう?」
行方不明者が出ただけなら、特務警察部隊の仕事ではない。特務警察部隊に仕事が回ってきたということは、かなりの数の行方不明者が出ているのだろう。
「とりあえず、いつも通り二人を会議室へ集めてくれ」
「分かりました。では、食事が済んだらいらしてください」
「分かった」
今すぐ動き出さなければならないほど急ぎではないのだろう。現行犯逮捕の案件ではなく、きちんと調査が必要そうな案件だ。
ヒューが頭は頭を下げ、急いで部屋を出ていった。相変わらずせわしない男だ。
もう少し落ち着けばいいのに、とシャルルはいつも思うのだが、おそらく性格なのだろう。
それに、報告や連絡が早くて困ることはない。
「リベルタ」
「はい」
「お前がきてから、初めての事件だ。お前も手伝ってくれるな?」
「ご命令とあらば、なんでも」
満面の笑みでリベルタは答えた。
俺の言うことを聞くのがお前の仕事だ、とシャルルが伝えて以来、彼がシャルルの要求を拒んだことは一度もない。
「食事が終わったら、一緒に会議室にこい」
「分かりました」
今まで、リベルタはシャルルの付き人として彼の身の回りの世話だけをしてきた。
しかし事件の調査に参加することになれば、シャルル以外の人間とも関わらなければならない。
大丈夫なのか、こいつは。
シャルルはそう心配し、そして、心配した自分に少しだけ驚いた。
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