第5話 新しい家
「また貴方は……! どうして厄介ごとを次々と起こすんですか。ああもう、もしこんなことがバレたら、というかこの事件の事務処理だって私が……!」
ぶつぶつと呟きながら、ヒューが部屋の中を歩き回る。
エクシティウムの生き残りを部下にしたと告げてから、彼はずっとこの調子だ。
「まあ、いいんじゃないの。面白そうだし」
そう声をかけたのはヘリオスである。
「……エクシティウムの生き残りというのは、さすがに俺も興味があるな」
マルセルがそう続ける。すると、いい加減にしてください! とヒューは叫んだ。
「隊長もお二人も、厄介ごとは全部私に押しつけて! どうするつもりなんです? エクシティウムの生き残りだろうとなんだろうと、彼は殺人犯なんですよ?」
ヒューは頭を抱えて椅子に座り込んだ。
確かに彼の言う通りだ。
少年が殺した男を連続美少女殺人事件及び連続殺人鬼殺人事件の犯人として処理することにした。
死人は喋らないが、どこから情報が出回るかは分からない。
特務警察部隊が加害者をかばっている、なんて言われたら大変な騒ぎになるだろう。
しかし……。
「あいつを役所に送ったとして、正当に裁かれると思うか? 物好きの誰かが役人に金を渡して手に入れるに決まっている」
「だからって、うちで保護しなくたっていいでしょう!」
「もうこれは決まったことだ。あいつはここで面倒を見る」
シャルルが断言すると、分かりましたよ、とヒューが諦めた声で言った。
「じゃあせめて、隊長が責任を持って管理してくださいよ。私は殺人鬼のお守りなんてできませんからね」
では、とヒューが部屋を出ていった。きっと、すぐに事務処理のあれこれを進めてくれるはずだ。
「君がお守りなんてできるの?」
くすくすと笑いながら言ったのはヘリオスだ。
馬鹿にするな……と言いたいところだが、正直自信があるわけではない。
「……話は通じると信じるしかない。少なくとも、美的感覚はまともだったからな。俺を綺麗だと褒めたんだから」
目を閉じて、彼のことを考える。彼は現在、宿舎の一室に閉じ込めている。手足は縛ったままで、見張り役の隊員が複数名一緒にいるはずだ。
「あいつの様子を見にいってくる」
覚悟を決めて立ち上がった。少々気が重いが、彼を部下にすると決めた以上、きちんと向き合う必要がある。
「気をつけろよ、シャルル」
「分かっていますよ、叔父上」
マルセルは心配そうな顔をしたが、その横でヘリオスは楽しそうに笑っている。
「酒でも飲みながら待ってるから、後で話を聞かせてね」
ああ、と頷いて、シャルルは少年のもとへと向かった。
◆
「隊長、お待ちしてました!」
少年をとらえている部屋にやってくると、見張り役の隊員たちが一斉に頭を下げた。
「あいつの様子はどうだ?」
「おとなしくしています。といっても、縛っているからかもしれませんが」
隊員たちの目には怯えの色がある。当たり前だ。
箝口令は出したものの、人の口に戸は立てられない。部隊内では既に、少年が今回の事件の犯人だと広まっているはずだ。
「中へ入る」
扉を開けると、手枷と足枷をつけられた少年と目が合った。
少年はシャルルを見つめて、にっこりと笑う。
恐ろしいほど無垢な笑顔だ。
明るい部屋で見ると、少年の華奢さがよく分かる。ただ、骨格が華奢なわけではない。おそらく栄養不足のせいだ。
頬もこけているし、髪もべたついている。きっと、かなり貧しい暮らしをしていたのだろう。
「きてくれたんだ」
嬉しそうに少年は言った。それと同時に、室内にいた見張りがびくっと肩を震わせる。
「お前たち、一度部屋から出てくれないか」
「え? いや、しかし……」
「二人で話したい。大丈夫だ。こいつは動くこともできない」
特務警察部隊で使用している手枷と足枷はかなり頑丈で、鍵がなければ外すことはできない。
「なにかあればすぐに声を上げる」
シャルルがそう言うと、隊員たちは不安そうな顔で部屋を出ていった。
扉が閉まったのを確認し、シャルルは少年の前に立つ。
今日から、俺がこいつの面倒を見る。
そのためには、こいつのことをちゃんと知らなくてはいけない。
「お前、名前はなんという?」
「リベルタ」
「そうか。いい名前だな。俺はシャルル、この国の第二王子だ」
シャルルはそっと手を伸ばし、リベルタの肩に触れた。
恐怖心を悟られぬよう、いつもと変わらない笑顔を浮かべる。
「ここは、特務警察部隊の宿舎だ。隊員は全員、ここで暮らしている。だからな、リベルタ」
シャルルはしゃがみ、座っているリベルタと目線を合わせた。
「今日からここが、お前の新しい家だ」
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