第12話 わたしの記憶?

帰り道がわからない。というか自宅が何処なのかわからない。

いや、そもそもわたしは誰?

ぼんやりとした記憶はあるにはあるのだけれど、それは夢のようでいまひとつ判然としない。


所持品を確認してみる。

財布。カードケース。名刺入れもある。ああ、これなら大丈夫だ。

自分の氏名を確認したとたん、わたしの記憶はよみがえった。今まで記憶があいまいだったのが嘘のよう。なんだ、わたしはわたしじゃないの。あたりまえ過ぎて、なんだか笑える。


電車を乗り継ぎ帰宅する。

自宅の最寄り駅で降り、歩く。20分くらいかかるけど、わたしは歩くのが好き。

帰り道がこんなにも愛おしいなんて、ふしぎな気分。


住宅地が見えてくる。

そうそう、あれが我が家。

家の門扉を開くと庭先に犬がいた。もう10年も飼っているわたしの大切な家族。

けれど、犬はわたしを見て威嚇し吠えはじめた。来るな! 出ていけ! 


ひょっとして、わたしがわからない? え? わたしはわたし……じゃないの?

わたしはわたしである自信がぐらついてきた。


犬は吠えつづけている。

見知らぬ人を追い立てるように。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超短篇3(2024) 板里奇足 @itarikitari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る