第30話 参入計画

「……よく解ったわ。ビクトがどれだけ親馬鹿なのかって事がね」

「痛み入ります」


 実際に親じゃないし、年もどちらかといえば孫とお爺ちゃんほども離れているんだけども……。


「じゃあこれで話は終わりにしましょう。心配無いでしょうけど、二人ともここでの話は他言無用でね」

「もちろんです」

「あの……お嬢様。私の処遇についてはどのように?」


 私の処遇……とは?

 仲間の人が消しに来ないなら何も心配いらないんじゃないの?


「何の事か分らないわ」

「……それは全て許すということでしょうか?お嬢様に対する私の罪を全て許していただけると!?」


 どれの事おぉぉぉぉぉぉ!!

 貴方の罪ってどれぇぇぇぇぇぇ!!


 自分の正体を黙っていた事?

 家令として公爵家に潜り込んで父親を監視していた事?

 今の王家が本当はヴァルハラ王家の血を継いでいなかったのを隠していた事?

 それでリサがその失われた本当の血筋の一人だって事を突然発表しちゃった事?

 それとも――


 親馬鹿の曇りまくったすりガラスみたいな目で見たリサの誇張されきったイメージで仲間を焚きつけた挙句に私にとんでもないプレッシャーを背負わせた事かあぁぁぁぁ!!!


 めんどくさ……。

 リサだったら何か思うところがあるだろうけど、理沙にはそんな気持ちは無い。

 最後のだけは無かった事にしてもらいたいけども。


「私は分からないと言っただけよ。それをどう受け取るかは貴方の自由。私には分からない理由でここを出て行くのも良し、今まで通り私の力になってくれるのも良し。貴方がどうしてアルカディアにまで来たのか?よく考えて答えを出せば良いわ」

「……ありがとうございます」


 ビクトはそう呟くと、大粒の涙を流して泣き崩れた。

 そして翌日からもビクトはいつも通りの優しい笑顔で私を迎えてくれたのだった。



 グレイが屋敷を訪れた三日後、再び領主邸の応接室に集まった私とビクトとグレイ。

 変わり映えのしない絵が続く。


「今日グレイに来てもらったのは、魔石の出荷の目途がついたからよ。初回に市場しじょうに出す分としては十分な準備が整いました。すでにいつでも運搬出来る準備は出来てますが、まずは流通ルートを開拓してもらわないといけないわ。

 その件について何か貴方に伝手があるかしら?」

「魔石については取り扱った事がございませんが、ティルナにいる専門の商人には心当たりがございます。ただ、その者たちはロジェストからの魔石を主に扱っておりますので、簡単にアルカディア産の魔石に手を出すかどうかは当たってみないと何とも言えません。

 もう少し北へ行けば他の地域の魔石を扱っている商人もおりますが、そちらは名前を知っているという程度でして……」

「その商人で良いわ。むしろロジェスト産の魔石を取り扱っている者の方が都合が良いのよ」

「お言葉ですが、ロジェストはエルデナード地方のみならず、アルカディア全体でも一、二を争う魔石の産出量を誇っております。それと勝負するとなるといささか分が悪いかと存じます」

「同じエルデナードで魔石を売ろうというのだから、近領であるロジェストを相手にしないといけないのは最初から分かっていた事よ。違うかしら?」

「それはそうなのですが……」

「それにうちで採れる魔石がロジェストのものに劣るとでも?」

「い、いえ、そんな事はございません。サンプルを確認させていただきましたが、どれも一級品の魔石でした。ただ、ロジェスト産よりも特段に優れているという事ではなく……」

「ええ。ロジェストの魔石の品質が優れている事はこれまでに王都でも嫌という程見てきたから知っているわ」


 この領主邸の悪趣味なシャンデリアや照明設備でもね。


「同じような品質のものを持ち込んだとしても、それまでの関係があるから乗り換える事は難しいと思っているのね」

「その通りでございます。商人は売り手、買い手、世間を大事に考えます。何も利のみを追っているわけではありません。

 今回のような場合、これまでの売り手であるロジェストから乗り換えるということは買い手としての義理を欠く行為となります。その噂が広まれば商人としても信頼を失う事になりますので、それを正当化させるだけの理由が必要となります」

「理由なら用意しているわ。グレイだって、本当は考えがあるのでしょう?」

「……はい。一応はございますが……」

「市場へは相場の七掛けで卸します」

「――な!?お嬢様、それはいくらなんでも――」

「それくらいじゃないと印象が薄いでしょう?どうかしらグレイ」

「……私の考えも同じでございます。それであれば乗り換えた事への批判も出ないかと。むしろ乗り換えなかった方が商人としての資質を疑われます」

「そう考えていたのに言わなかったのは成功する自信が無かったからかしら?」

「いえ、それで上手くいくという自信はございます。しかし、もし他にこれより少しでも利の上がる方法があるのではないかと思案しておりました」


 私としても他にもっと良い方法があるのなら検討したいところではあるけど、今は少しでも時間が惜しい。

 今の時点でグレイに代替案が無いのであればこれでいくしかない。


「私は商いに関しては素人ですので解りかねます……。相場通りの値段で卸せるところを探した方が良いのではないのですか?」

「駄目よ。今から探していたのでは先にうちの財源が尽きてしまう。それとも私にまたあのシモーネに泣きつけと言うのかしら?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「ビクト様。七掛けで卸すと損をしているように感じるかもしれませんが、実のところ違うのです。

 これまでロジェスト産を扱っていた商人がアルカディア産の魔石を仕入れたとして、それまでと同量の魔石をロジェストから仕入れますでしょうか?」

「それは……仕入れ量は減らすことに――ああ!そういう事ですか」

「流石にご理解が早い。そうです。当然ロジェストからの仕入れ量は減ります。いくら魔石が貴重とはいえ、市場の規模が急激に拡大するわけではございません。

 もし半々の量を同額で仕入れたとしても、市場の支配率は半分。しかし、一方が七掛けで卸したとなると、その支配率が単純に七割という事にはならないでしょう」

「それにうちがそんな値段で卸していた事がロジェスト側に知られれば、あちらも同じ価格まで落としてくるでしょうね。そして卸しきれなかった分が、これまでとは違う商人の下にも回ってくる。

 そうなると単純にこれまでの倍の量の魔石が市場に出回る事になる。結果魔石の値段は半額近くまで下がる事になるでしょう。

 だからそれまでに少しでも多くの利益を上げる為に、最初に一気にロジェストを押し込むのよ。向こうが値段を下げるまではうちが市場に出る魔石の全てを扱うようにね。

 その為には商人たちにはこちら側についてもらわなければならない。彼らの体裁を保てるだけの理由をつけるのに必要なのが七掛けでの卸し価格なのよ。

 まあ、実際に半額で売ったところで相当な利益が出るんだけれども」


 元の世界の電気代とかに比べて、こちらの世界のエネルギーは高すぎる。

 これで値段が半分になったとしても、普通の庶民が買って使えるようなものじゃない。

 魔石を使う魔道具もかなり高価な物だしね。

 枯渇したらどうなるんだろ?

 ゲームの世界だから関係ないのかな?



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