第29話 告白

「このことを知っているのは?」

「現国王エドワード陛下とフィッツジェラルド公爵家現当主のマイヤー様。リサ様のお婆様であらせられるアメリア様。それとこの場にいる三人のみでございます」

「ビクトの言う闇の一族の他の者たちは知らないのね?」

「はい。この話は当主となった者にしか伝えられておりませんので」


 でもお婆ちゃんは知ってたんだ……。

 自分のお兄ちゃんがお父さんの子供じゃないって事を……。


「公爵家が王家と血縁関係にあるということは世間も承知の事なので、その辺についてはこれまで通り振舞っていけば問題なさそうね。ただ、私だけじゃなく、グレイの事についても話が漏れた場合は……」

「今の王国の状況からして、お二人のどちらかを口説いて良からぬことを考える者が出てきてもおかしくありませんね」

「私はそのような誘いになど乗りません!」

「分かっているわグレイ。私だって同じよ。誰かの手駒にされて良いように使われるなんて死んでもごめんだわ。ビクトだってそれを理解した上で話してくれたのだから」

「え、あ、その通りでございますとも」


 やっぱりビクトもグレイがいたことを忘れたのか……。

 でも、結果的に互いの信頼関係を深めることが出来たということで無罪!

 あとは――


「それで、どうしてビクトは自分の正体を明かしてくれたのかしら?グレイがドーヴィル様の名前を出した時だって、貴方は知らないふりをして、他の人がおそらくもつだろう疑念をグレイに向ければ良かった。でも貴方はそうしなかっただけでなく、自らグレイの話の真偽を確かめる為に、王家の秘密を私に話そうとまでしていた。

 グレイに聞かれる事には抵抗があったようだけれど、私には話してくれるつもりだったんでしょう?それを話すことで、私が何故その事を貴方が知っているのかという疑問を持つ事が分かっていたのに。

 貴方が言うには、ここに来る時にすでに私に伝えようと決意していたようだけれど、それは何故?そうする理由が分からないわ」


 ビクトはリサが生まれた時からずっと傍で見守ってくれていた大切な存在。

 その事でリサに情が移ったから、と考えるのは少し都合が良すぎるか。

 仮にも暗殺業まで請け負う闇の一族だというのであれば、その当主がそんな甘っちょろい感情に左右されるはずがない。

 正直に話してくれるかは分からないけど、きっともっと違う思惑が――


「……お嬢様に情が移ったからでございますよ」


 チョロかった!!

 闇の一族の当主、思いの外チョロかった!!

 いや、これが本心だとは限らない!


「私はお嬢様が生まれた時から、ずっと傍で見てまいりました。最初は次の監視対象候補にしか思っておりませんでしたが、それがいつからか……親心のようなものが私の中に芽生えていたのでございます。そして今回、アルカディアへと追われ事を受け、私はお嬢様を最後までお傍でお支えしようと決心いたしました。

 そして自分の正体を偽ったままでいることに耐えられなくなってしまったのです。

 すでに私は闇の一族の当主としての想いよりも、お嬢様のいるこのアルカディア家の家令としての想いの方が遥かに強いのですよ」


 何か本心ぽい!

 普通に良い人みたいな事言ってる!

 向こうを裏切ってまで私の味方になるって言ってくれてる!

 ……裏切って?


「ビクト……貴方、この事がバレたら仲間に命を狙われるんじゃあ……」


 正体を他人に明かし、最重要国家機密のような事を喋ってしまった……。

 それが例え自分たちの当主であったとしても許されるはずがない。

 さっき、私が全てを知った時に傍に居られなくなると言っていたのはそういう事なんだろう。

 ビクトはその事を承知で全てを話してくれた……。

 やっぱり今の言葉は本心に違いな――


「はて?どうして私が命を狙われるのでしょうか?」


 承知してないんかい!

 どうしてもこうしても、それが組織の掟ってもんじゃないの!?

 知らんけど。


「どうしてって……。だって自分の正体を私に明かして、王家の秘密まで洩らしたのよ?そんな事をして何も無いわけないでしょう?」

「ああ、お嬢様は本当に私などの事を心配してくださっておられるのですね」

「そりゃあ……そうでしょ。心配するのは当然じゃない」

「いえいえ、普段の冷静なお嬢様でしたら、そのような勘違いをなさることは無いでしょう」

「……勘違い?私が?」

「はい。よく思い返してくださいませ。私ども闇の一族は代々王家に仕えていると申しました。正当な王家の血筋であるお嬢様に正体を明かしたところで何の問題がございましょう」

「それは詭弁だわ。私が王家の正統な血筋だというのを知っているのは一族の中でも貴方だけなのでしょう?だったら――」

「正体を明かした事を知っているのも私だけでございますよ?」

「――な!?」

「それにお嬢様が今ご自身でおっしゃったではないですか。お嬢様が王家の正統な血筋だということを知っているのは一族の中でも私だけなのだと。なら、その事を話したとしても、誰もそれが秘密の漏洩だとは気付かないのではないでしょうか?」


 あ―言えば、こー言う!

 Forever are you!

 でもそうかも知れない!

 自分たちに都合よく解釈すれば――だけどねえ!!


「……本当に大丈夫なのね?」

「はい。問題ございません。我々闇の一族は、ヴァルハラ王家の忠実なる眷属ですから」

「……今さらっと一族って言ったわね」

「そちらを気にされますか。私としては結構格好つけたつもりだったのですが」

「どさくさに紛れさせて大事な事を言ったのでしょう?」

「いつものお嬢様に戻られたようで何よりでございます。おっしゃる通り、私だけでなく、すでに一族郎党に及ぶまで、闇の一族全員が今のヴァルハラ王家ではなく、リサ=アルカディア様個人に忠誠を捧げております」


 ――ガ!――ギ!

 落ち着け!冷静になれ私!

 たとえ今のやり取りが全て無駄になるんだとしても!

 ビクトが仲間を説得させそうな理由――

 それまでの掟を破ってまでそうさせる理由――

 それほどまでにリサの事を溺愛という程に愛しているビクトが言いそうな事――


「……ビクトが私の味方だというのは解ったわ。でも、今の流れでどうして一族全員が私の味方につく事になるのかしら?」

「これはお嬢様もお人が悪い。解っていて聞いていらっしゃるのでしょう?」


 ――グ!――ゲ!

 落ち着け!落ち着け!落ち着け!落ち着け――


「……秘密は貴方しか知らないんじゃなかったの?」

「はい。ロイシャン様がヴァルハラ王家の血を受け継いでいないということは一族の中では私しか知りません」

「じゃあ、貴方が仲間に言ったのは――」

「フィッツジェラルド家も正当なヴァルハラ王家の血を受け継いでいる。今の王国を護ることが出来るのは今の王家ではなく、であり、ヴァルハラに降り立った一羽の白鳥、誰もその能力を推し量ることすら出来ない孤高天才であるリサ様だ、とだけ。仲間にはそう真実を述べたまででございます」


 ――ゴォォォォォォ!!!



 

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