第28話 王家の血脈
ギャランは最初から裏切っていたわけじゃなかった。
裏切ったふりをして侯爵を油断させ、自分が反乱軍と国王軍との間に入ることで余計な犠牲を減らそうと考えた。
そしてその計画通りに事が進んで、ニューマットの暗殺に成功した。
しかも敵方の貴族たちが自軍と合流して逃げられないようにしてから。
それなら宴会を開いている周辺に公爵軍の兵士がいたとしても怪しまれることはなかっただろう。
そして諸侯に対して半ば脅迫ともとれる密約を交わさせた……。
断れば無事に帰ることは出来なかったはず。
それでもかなり危ない橋を渡った印象は拭えない。公爵家としては王国を護るのが当たり前だから、ギャランは多少の危険を冒してでも実行しようとしたのかもしれない。
では何故ニューマットはギャランをそこまで信用したんだろう?
公爵家の王国内での位置づけを考えた時、彼が国王を裏切るような行動を取るなんて考えられないはず。
さっきの(おそらく)リサの言葉にもあったように、噂程度で反乱軍につくなんてどう考えてもおかしい。
それでもギャランが裏切った事をニューマットに信用させる事が出来た……。
ということは――
「ああ、その計画自体が国王側の仕組んだことだったのね。ロイシャン様が本当にヴァルハラの血を受け継いでいないという事をギャラン様に伝えた上で、ギャラン様はそれを理由として侯爵側に寝返ったことにした」
「その通りでございます。王はギャラン様にロイシャン様の出生の秘密を打ち明け、その上でどちらにつくのかの決断を迫りました」
「ギャラン様にとってそれは究極の選択ね。侯爵暗殺計画はギャラン様が味方となる事を前提としていた。もしギャラン様が王国の事ではなく、王家の血筋を護ろうと考えていたなら失敗していた。その場合、現国王を廃してでも正当な後継者であるドーヴィル様を次の王に据える判断をしていたでしょうから」
「おそらくはそうなっていたでしょう。しかしギャラン様は迷うことなく国王側につくと返答されたとのことです」
「侯爵側につくとは考えなかったのかしら?それ程までの信頼があったということ?」
「それについては何とも……。しかし、その場合は仕方なしと考えていたのではないでしょうか?元を辿れば王家の失態が招いた事態ですので」
「どうせ駄目だった場合のシワ寄せは自分たちにくる、か」
「はい。ギャラン様に秘密を打ち明けなければならないほどに、当時の王家は追い詰められていたのでしょう」
「結果的にギャラン様の判断は犠牲を最小限に留める事になった、か」
それがどんな考えでの判断だったのかは判らない。
でも彼は血筋よりも王家の慣習を取った。それは歴代の王たちと同じく、未来に起こるかもしれない争いを憂いての判断だったのかもしれない。
「そして国王より計画が伝えられ、ギャラン様は侯爵につくという手紙を送ったとされております。残念ながらその内容については分かっておりませんが」
「大体の想像はつくわ。調査の結果、ロイシャン殿下に関する噂が真実だと判った。自分はヴァルハラの正統な後継者であるドーヴィル殿下を支持する。どうせそんな内容でしょうね。
本来の皇太子を護ろうとするのは、王国に忠誠を誓っている公爵家が寝返るのに十分な理由だわ」
「……お嬢様はあまり、というよりも全くショックを受けておられないのですね」
どういうこと?
別にここまでの話に私が関係していることなんて……ご先祖様が暗殺をしたこと?
戦争で人を殺すのが良くて、敵の大将を暗殺するのが悪いとは思わないけど?
元の世界ならそんな簡単に割り切って考えられないんだろうけど、ここは世界も違えば時代も違う。実際に各地で争いによって人は死んでいる。その全てを悪だと捉えて断罪する事なんて出来やしない。
「お忘れのようですね。お嬢様のお婆様であらせられるアメリア様は、ロイシャン様とドーヴィル殿下の姪にあたる方でございますよ」
うん。それは知ってる。
婿養子だったお爺ちゃんは数年前に亡くなったけど、アメリアお婆ちゃんは隠居して今も元気ハツラツ。
たまに王都に遊びに来ることがあったから、リサもその時は普通の女の子みたいに楽しそうに接していた記憶がある。
仲の良い祖母と孫で良かった良かった。
「アメリア様の母君であるエルメダ様はロイシャン王の妹君。そして公爵家は建国以来、一定の世代を空けて王家から婚姻相手を迎え入れてきました。つまり、お嬢様はグレイ殿同様に、ロイシャン様の直系であらせられる今の陛下や殿下よりも正統なヴァルハラ王家の血を受け継いでいるのですよ」
「……ああ」
そういえばそうだわ。
エドワード王もアルバート王子も、ロイシャンの直系の子孫であるなら、ヴァルハラ源流の血はひいていないことになる。
その血統というのがどれほど大事なものなのかは解らないけど、王家の血筋は大事なんだろうなくらいの感覚はある。
「お嬢様とアルバート殿下の婚約を強く望んだのはエドワード陛下です。陛下は自身がヴァルハラ王家の血を受け継いでいないことをご存じですので、おそらくはお嬢様とアルバート殿下を結ばせ、再び正当な王家の血を取り戻そうと考えたのでしょう」
「……私はてっきり公爵家と王家の繋がりを強化するための政略結婚だと思っていたのだけれど」
「誰もが表向きはそう捉えるでしょう。当人である殿下ですらそう考えて他の女性に――失礼いたしました」
「……もし殿下がその事を知っていたのであれば、今回の婚約破棄なんていう馬鹿げた茶番は起きなかったでしょうね。殿下がアリアナの事を好きになっていたとしても、私とは表向きだけでも付き合っていたでしょうし」
まあ、そうだったとしたらゲームとして成立しないんだけどね。
どこの世界の乙女ゲームに、王子が悪役令嬢と結婚してヒロインがその側室になりました。めでたしめでたし。なんて終わり方があるのよ。
それこそ大炎上するわ。
「あのお……」
グレイが申し訳なさそうな声を出した。
「そのような大事な話……私が聞いてしまってもよろしかったのでしょうか?」
それを聞いて目を合わせる私とビクト。
言えない。
話に夢中になって、すっかりグレイがいた事を忘れていたなんて絶対に言えない!
だって、元々は過去に何があったかって話だったし、グレイが本当に王家の血筋の者かどうかを確認するって目的で連れてきてたんだし。
そこからまさか自分がグレイと同じ正当な血筋が云々な話になるなんて思ってないじゃない……。
どうする?
何て返す?
グレイを傷付けずに、この場を収める為には――
「……良いのよ。貴方は私の味方になると決めたからこそ秘密を打ち明けてくれたのでしょう?それなら私もそれに応える義務があるわ。だからこれは私から貴方への信頼の証だと思ってちょうだい」
……これでどや???
「会ったばかりの私にそこまで……。リサ様の信頼、しかと受け取りました!このグレイ、今後何があってもリサ様を裏切らず、粉骨砕身この身をリサ様の為に捧げることを誓います!」
よっしゃあぁぁぁ!!
乗り切ったぁぁぁぁぁ!!
グレイの好感度上がってて良かったあぁぁぁ!!
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