第27話 反乱の結末
すでに何らかの覚悟を決めたのか、そう言ったビクトの表情は冷静そのものだった。
でも――
キャラ盛りすぎぃぃぃぃぃ!!
グレイにしてもビクトにしても、本編に立ち絵どころか名前すら登場しないキャラなのに、何なのその裏設定!?
片や本当のヴァルハラ王家の血族。
片やその秘密を監視する闇の一族の当主。
何なら攻略対象のメインキャラたちよりもキャラが濃い!!
そんな二人に囲まれた私にどう対処しろと!?
「……その事をお父様は知っていたの?」
「おそらくは気付いておられたかと思います。私は先代のロックス様の代よりフィッツジェラルド家に仕えておりますが、元々は王家より派遣された身でございます。マイヤー様がロイシャン王の話をロックス様より伝えられた時点で私の事を怪しんでおられたかと思います」
「直接は訊かれなかったと?」
「はい。もちろん訊かれたからといって正直に答えるなどということは致しませんが、逆に怪しんでいたにもかかわらず訊かれなかったということが肯定の意味と捉えております」
「そうね。お父様も同じことを考えたでしょうね。それなら訊いても意味が無い。そうでなくても貴方は家令としてとても優秀な人だわ。自分が他言しなければ良いだけなのであれば、下手な事をして貴方にいなくなられる方が公爵家としては痛いもの」
「そのような過分な評価、いたみいります」
「貴方がその闇の一族の人だという事は分かりました。ということは、ロイシャン王がヴァルハラ王家の血をひいていないということを突き止めたのも貴方たちなのね」
年代的にビクトは当然関わっていない。
それでも情報召集を得意とする一族なのであれば、当然動いただろう事案。
「そう伝え聞いております。王妃エルメシア様の母国であるノルディアにおいて、父親だと名乗り出た貴族との関係の裏を取った、と。そしてヴァルハラへの輿入れまでの期間、結婚後のロイシャン王の誕生までの期間を合わせて考えれば、間違いなくロイシャン王はエルメシア様がノルディアにて身ごもった御子であったと」
「それでも王と王妃はその事を認めず、本来ならば正式な継承者であったドーヴィル様を擁立する貴族たちを反乱軍として見做した」
「はい。正当な血筋を継続させるか、それともかねてよりの慣習を守るかという選択において、王家は後者を選んだのです」
「ヴァルハラ王家の血がそこで途絶えるのが分かっていたのに、どうしてそんな選択を……」
王家において普通は最も優先させるべきことじゃないのかな?
それまで自分の息子だと思っていた子が、実は他の男との間に出来た子でしたってなったら、それこそ男側にとっては一大事でしょ?
その相手の男との関係がいくらロイシャンとの結婚前の話だったとしても、ヴァルハラ王家に嫁ぐ話はもっと前から決まっていたはず。違う国の者同士でスピード婚とか有り得ないでしょうし。
「当時の王家は、ヴァルハラの血が続くことよりも、先の未来において国の存続が危ぶまれる可能性のある前例を作りたなかったのだと思います。あの戦争がその例です。長男ではない者を王に据えようとする継承争い。一度認めてしまえば、それは血筋云々に関わらず、後世において同じような争いを生む危険性をはらんでおります。
ヴァルハラ王家はこれまでも、如何なる才の者であれ国を継ぐのは長男のみ。その掟を皆に守らせることで王家は貴族諸侯の力が分散される事を防いできたのですから」
「だからドーヴィル様が本当の息子であると承知の上で追放した、と?」
「これは私の想像にすぎません。さすがに王の心中までは我らであっても調べることは出来ませんので」
ビクトの言っている事の意味は分かる。
でも理解は出来ない。
王家を守るという事と、国を守るという事。その二つは同じようで実は違うのかもしれない。
だから普通の生活を送ってきた私には解りようもない。
ビクトの推測が合っているのか合ってないのか。
どのみち今となっては知る術も無いことだけども。
「これが私がドーヴィル様の事を知っていた理由でございます。そして旦那様が知っていた理由ですが――」
ああ、その件もあった。
もう王家のどろどろの人間関係とビクトの濃いキャラ設定で胸やけしてきてるんですけど。
「当時のフィッツジェラルド家の当主であったギャラン様は、王家側ではなく、第二王子を擁するニューマット侯爵側についていたのです」
「嘘よ!そんなはずはないわ!うちの――いえ、フィッツジェラルド公爵家はヴァルハラ王国を護る事を宿命づけられている家系なのよ!それが噂の真偽も分からないままで反乱軍につくなんてありえないわ!」
――!?
今のは私の言葉じゃない!
確かに私は公爵家がほいほいとニューマットにつくのはおかしいんじゃないか?とは思った。
だってこの時点ではロイシャンが王の本当の息子じゃないなんて知らないはずだから。
だからビクトの話の続きを聞こうと思って、何も喋るつもりなんてなかった。
まさか――リサ?
私の中にまだリサの魂が残っているの?
「お嬢様落ち着いてください。私の話はまだ終わっておりません」
「……ごめんなさい。少々取り乱しました。――続けて」
「ヴァルハラ王家にとって公爵家が敵に回ったのは非常に大きな痛手でした。公爵家の所領は王都と隣接しておりましたので。最後の砦であり、最大の戦力と考えていた公爵家が反乱軍に加わったことで、王都の主力部隊のほとんどを公爵軍へと向けなければならなくなりました。
そしてその事が王国全土に伝わると、それまで抵抗していた貴族たちは続々と降伏し始め、遠方から進軍してきたニューマット軍はほぼ無傷のまま王都へと軍を進めることが出来たのです。
そして第二王子派は勝利を確信し、王都を包囲していた公爵軍と合流、その末に国王に対して降伏勧告の使者を送ります。
そしてその夜、勝利の宴の最中にニューマット侯爵は暗殺されました。――ギャラン様の手によって」
はい?どういうこと?
せっかく勝った側についてたのに、最後の最後に裏切ったわけ?
ご先祖様?
「ギャラン様は最初から侯爵側についていたのではなかったのです。公爵家の存在の大きさを理解していたギャラン様は、自らが敵側につく事で他の貴族たちに反乱軍への抵抗を諦めさせ、少しでも無駄な犠牲を出させないようにと考えたのです。
そしてその目論見通りに諸侯は降伏していき、ニューマット侯爵は王都へと早々に到着することになりました。
絶対的な勝利が約束されたと浮かれた侯爵は、勧告の使者を出した後にギャラン様を始めとする味方の貴族を呼び寄せて勝利の美酒に酔いしれました。完全に油断していた侯爵は、本来なら禁止のはずの帯刀にすら気を配ることなく、酔いが回った頃に遅れて現れたギャラン様の一振りによってその命を散らしたのです」
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