第26話 真相、更なる深層
「肝心のドーヴィル王子はその後どうなったの?貴方が彼の子孫だというのなら、その戦争で亡くなったというわけではないのでしょう?」
「はい。戦争の後、王子は国王軍に捕まりました。例え本人に謀反の意思が無かったとしてもその責任は重大で、処刑を免れる事はないのですが……」
「継承争いがあったという事実を表に出したくない」
「そうです。アスコット国王はそのような醜聞を曝すことを嫌って侯爵に罪を押し付けたのですから、そこで第二王子を処罰した事が公になれば全ての意味が無くなります。処刑するにも理由が必要ですし、王子を処刑するとなると、それこそかなりの大義名分が必要となりますからね。国王や兄王を暗殺しようとしたくらいの理由が。
結果、王子は王国軍として反乱軍鎮圧の為に出兵、その陣中にて病死したということにされました。
実際は王族としての地位を剥奪され、二度とヴァルハラ性を名乗ることを禁じられた上で追放されたのです。
何故処刑されなかったのかについては何も聞かされていないので解りかねますが、元々王になどなる気のなかった王子は処分を受け入れ、数名の従者と共に流れ着いた辺境の地でその生涯を終えたのです」
周囲の人たちに振り回された人生……なんだか可哀そうだとは思うけど……。
すぐに終わったとはいえ戦争で亡くなった人たちもいるだろうし、王子の立場であった以上、貴族たちの暴走を止められなかった責任は取らないといけないんだとも思う。
人は産まれる場所を選べない。なら、ドーヴィルが王子に生れてしまった以上はその責任を果たさなきゃいけなかったんだろうね。冷たい言い方だとは思うけど。
じゃあリサに生まれ変わった私の責任は?
リサの計画を引き継いでこの国を守る事……本当にそうなのかな?
それなら私よりも実際に計画を立てたリサがやった方がずっと良い。
ゲームの知識はあるけど、ここは私の知っているキミツグの後の世界。知識チートなんて全く役に立たない。
私がリサに生まれ変わった理由……。
「ビクト。今の話に間違っているところはあるかしら?」
「……ほぼ私の知っている内容に間違いございません」
「なら、グレイが王家の血をひく者であると認めても良いのね?」
「……グレイ殿。一つ質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「貴方はロイシャン王が本当にヴァルハラの血を受け継いでいなかったとお考えでしょうか?ランベルス村で、貴方は経済によるこの国の支配を目指していた、とおっしゃっておりましたが、それはドーヴィル閣下の無念を晴らそうとしていたのではないですか?」
「違います」
即答だった。
「私には先祖の無念も、ロイシャン王の事もどうでも良いのです。私は私自身の人生を歩む。その中で商人として立身出世を目指した先の目標が国の経済を支配出来るほどの大商人だというだけの事。仮にそれが成ったからといって、自身が王になろうなどとは考えておりませんでした」
これはどこまで信用して良い言葉なんだろう?
エピローグでは反乱を仕掛けて最終的に王になったはず。
それは全てグレイの考えていた事ではないんだろうか?
それともこれから先の未来。大商人となった後にグレイの考え方が変わったのか?
私に都合良く考えるならそうなるけど、もしこれが嘘だった場合、私たちは反逆の種を自分たちに植える事になる。
その場合、民衆を操れるほどの才能をもつグレイ。いつ背後から背中を刺されるともしれない危険な相手だ。
「私はグレイール=ヴァルハラではなく、ただのグレイです。ヴァルハラ王家の血をひいてはいますが、過去を辿るならばそのような者はこの国に多く存在するでしょう。貴族の中にも、すでに平民として暮らしている者の中にも。私はそんな多くの者たちの中の一人にすぎません。今は私の力を少しでもリサ様の為に役立てたく思っている事に嘘偽りはございません」
「……分かりました。私も貴方の事を信用いたしましょう」
「ありがとうございます」
グレイはそう言ってビクトに頭を下げた。
私もグレイの事を信用しよう。
少なくとも今のグレイが嘘を言っているようには思えない。
それに今の私たちには彼のような男が必要なんだから。
「――そういえば、ビクトはさっきグレイの話はほぼ間違いはないと言ったわね。どこか違う点があるのかしら?それに何故貴方はこれほど重要な話を知っているの?王家でも限られた人しか知らない事なのに」
公爵家に長年仕えていたからといって、使用人であるビクトがそんな事を知っているはずがない。それに、いつかは公爵からリサに伝えられるはずだったと言っていた。ということは、公爵家にも代々伝えられているということだ。
しかし、それだからといってビクトに話したとしたら辻褄が合わなくなる。
いくら献身的に使えていたからといっても、この内容は聞かせて良い話じゃない。
「……お嬢様に付いてアルカディアに行くと決めた時、いつかは全てをお話するつもりでおりました。しかしなかなかその決心がつかずにいたのです。もしお嬢様が全てを知った時、おそらく私はお嬢様の傍にいることは出来なくなるだろうと思ったからでございます」
「……貴方、本当は何者なの?」
ビクトの言葉の裏を読むなら、彼はリサに対して後ろめたい何かを隠したまま仕えていたということになる。
リサが生まれた時からずっと傍にいてくれたビクトが、今の私にとって何物にも代えがたい味方であるはずの彼が。
「……まず順番にお話しいたしましょう。
グレイ殿の話の中にあった少し違う点でございますが、ロイシャン陛下がヴァルハラの血を受け継いでいないという噂があったという事でございます」
一番肝心な部分!!
そこが違うなら、グレイの血筋云々が全部間違ってることになっちゃうじゃない!!
「あれは、噂などではなく――真実でございます」
……噂じゃなくて本当の事?
じゃあ今のヴァルハラ王家は、本当はノルディア王国の貴族の血筋だって事?
いやいや、そんな事をどうしてビクトが断言出来るの?
「ビクト、それはどういう事かしら?どうして貴方がそう言い切れるの?」
「……その理由が、お嬢様のもう一つの質問の答えです。
お嬢様は、私には諜報を主とする部下がいることはご存じでしょう。今はアルカディアの不正について調べされている者たちです」
ビクトにそういう事に長けた部下たちがいる事はリサも知っていた。
直接的に会った事も無いし、その人たちが何人いるのかすら知らなかったみたいだけど、これまでも公爵家を陰で支えてきていた人……た……。
「ビクト……貴方……」
「……その者たちはこの国の陰。
暗殺から情報収集まで、王家の方々の手を汚すことないように裏の任務を請け負ってきた闇の一族。そして私は、その者たちの現当主を務めております」
「……お父様を監視していたのね?」
「御意にございます。私は先代国王陛下よりの
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