第25話 継承争い
「では、私の方から両親に聞いた先祖の事を話しましょう。その内容がビクト様の知っている内容と同じであれば、それが私が真実を語っていることの証拠にはなりませんでしょうか?」
ビクトから話を聞くという目的で戻ってきたけど、確かに当のグレイから聞いた方が早いね。
それならビクトが真偽を確認出来るし、グレイを信用する理由にもなる。
互いの知っている話の内容が同じであれば、というのが前提ではあるけど。
「それで良いかしら?」
「私は問題ありません。ただ、お嬢様には少々辛い話になるやもしれませんが……」
どういう事?何でグレイの先祖の話で……リサに関係があるって事?
「グレイ、話してちょうだい」
「かしこまりました。まず私の先祖であるドーヴィルという人物は、今のエドワード王から数えて二代前のロイシャン王の弟にあたります。ヴァルハラ王家は代々長男が国王の座を継ぎ、その弟たちは王の補佐を務めるのが習わしとなっておりますので、本来であれば後継争いなど起こらないのです。
それが例えどうしようもない兄であったとしても、表面上は立派な王として取り繕い、あくまでも王が
「グレイ殿、その物言いは――」
「ビクト。今は黙って聞いていて頂戴」
「失礼いたしました……」
「続けます。そしてそうすることで貴族たちが分裂することを防ぎ、不毛な後継者争いが起こらないようにしていたのですから、この事が建国以来、長年に渡って守られていたということは奇跡的な事だったのではないでしょうか。
ですので、本来であればロイシャンとドーヴィルの間にも争いなど起こるはずがなかったのです。二人の兄弟は例に倣い、幼い頃からロイシャンは王としての帝王学を、ドーヴィルはそれを補佐する為の様々な知識を学びました。そしてロイシャンが二十歳になり正式な皇太子に就任。聡明だったロイシャンは周囲の誰もが認める次代の王として期待されていました。しかし、ここで誰も想像していなかった事が発覚したのです。
ドーヴィルの母である王妃エルメシアは東の隣国であるノルディア王国の侯爵家から嫁いできていたのですが、どうやらその時すでにロイシャンを身ごもっていたのではないか?という噂が貴族の間で囁かれ出したのです。その噂の出所については不明ですが、もしそれが本当の事であるならば、ロイシャンはヴァルハラ王家の血を全く受け継いでいないということになります。
王も王妃も噂はデタラメであるとし、風聞を汚す者は厳罰に処すと貴族たちに通達したのです。しかし、それは悪手でした。すでにその頃のヴァルハラ王家は今ほどではありませんが、徐々に全盛期の力を失い始めていた頃で、大貴族の中にはその命令を隠蔽工作だと捉える者も出てきました。噂は真実であるのだと。
彼らは自分たちの支持者を秘密裏に増やし、ついには第二王子であったドーヴィルこそが次の王に相応しいと声高に宣言しだしたのです。しかも自分こそがロイシャンの父であるというノルディアの貴族子息を引き連れて」
昼ドラみたいなどろどろした展開になってきた。
本当にその人の息子なのかは判らないけど、少なくともエルメシアと関係を持っていたという可能性は高いんだろう。
輿入れ前の令嬢が他の人と関係を持ったということ、そしてその人が他国の王子と結婚したということ、それ自体が結構なスキャンダルなんだと思う。
その上、皇太子に任命した王子が正当な血筋ではないということになったら……。
「ドーヴィル自身に王になるという野心はなかったと聞いています。しかしまだ成人前のドーヴィルは、貴族たちに担がれるように反王太子側の旗頭として立たされることになります。
そして王太子を擁立する国王側と、第二王子を擁立する貴族たちの継承争いが起こりました。当然話し合いなどで解決するような問題ではなく、やがてその争いは国を二分するような大きな戦争へと発展しました」
「ちょっと待って。そんな大事になったのだったら歴史書に載っていないはずがないわ。少なくとも私が知る限りそんな継承争いの歴史は聞いたことがないわよ」
当然私はそんな裏設定は知らないけど、王国の歴史を学んだはずのリサの記憶の中にも無いなんておかしい。
「リサ様。先ほど申し上げたように、この国は、建国以来、継承争いが起きないように定めたルールを守ってきたのです。つまり、一度たりともそのような争い事は起こっていないのです」
実際に大きな戦争が起こっている……でも、一度も起こったことが無い……。
消されたの?
そんな事実なんて無いと、歴史上からも抹消された?
でもそんなことが可能なんだろうか?
多くの貴族や兵たちが戦争には加わっている。そんな彼らの口を塞ぐことなんて出来るんだろうか?
「お嬢様。ロイシャン王のお父君は、慈王と呼ばれたアスコット王でございます」
アスコット……。
そうか、ロイシャンの名前に気を取られて気付かなかった。
あったわ。その頃に起こった事件の記憶が。
「……ニューマット侯爵」
「その通りです。アスコット王の治世で起こった『ニューマットの乱』」
当時のエルデナード地方を治めていた大貴族であるニューマット侯爵が起こした反乱。
彼を支持する貴族たちが各地で一斉に蜂起し、王国を乗っ取ろうと企んだ大事件。
しかし、その首謀者であるニューマット侯爵が早々に暗殺された事で終わりを迎えたと記憶にはある。
「あの事件こそが、歴史の闇に葬られた継承者争いなのです」
多くの証人がいるにも関わらず無かったことにされた……侯爵の暗殺……早々に終わった戦争……ニューマットの乱……。
「……全ての罪を侯爵になすりつけたのね」
「その通りです。侯爵に付いた貴族たちは、その罪を許される代わりに絶対に他言しないことを誓わされました。そうすれば爵位を子供に継承することも許すと。命も家も助かるのです。彼らは生涯に渡って沈黙し、子供たちにも伝えることはなかった。もし伝えれば、子供たちが危険に晒されることになりますからね。
そして兵たちの多くは戦争の目的を知らずに参加していた者が多く、国王側が発表した事を信じ、反乱を知らずに参加した者は罪に問わないと宣言しました。そうすることでアスコット王は慈王と称えられることになります」
「もし知っていた者がいたとしても公言出来ないわね」
「はい。それを聞いた者が密告すれば、その者は処罰されますから。それに勝った側の言い分に逆らうような者はいなかったでしょう。噂くらいはあったかも知れませんが、ニューマットの乱と名付けたことで全ては侯爵の企んだ謀反だったということにされました」
歴史を作るのは常に勝者。
まあ、そういうことね。
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