第24話 真偽
「――なっ!?ロイシャン王といえば、今のエドワード陛下の祖父にあたる御方……。貴方はその王弟であるドーヴィル様の子孫だというのですか!?」
ビクトがこれまた聞いたことのないような大きな声を出す。
この驚き方は、王家の血筋だと名乗る者が現れたからなのか、それともそのドーヴィルという人に何か特別な事があるからなのか。
リサはロイシャン王の事は王国の歴史としては知っている。それどころかリサの曾祖母であるエルメダは、そのロイシャンの妹なのだから。でもアメリアにドーヴィルという叔父がいたことや、ロイシャンとドーヴィルの間に何があったかまでは知らないようで、その詳細についての記憶は無い。
私だってエピローグで流れてきた内容を読んでいたから、グレイが王になった事の裏に過去の継承権争いがあったことを知っているだけで、やはりそれ以上の知識は持ち合わせていない。
「ビクトはそのドーヴィル様という方を知っているの?」
「……存じております。しかし……その内容についてはこのような場所で話すことではございませんので……」
あのビクトがそこまで言うのであれば、ロイシャンとドーヴィルの間に起こったのがただの継承争いということだけでは無かったんだろう。
それにリサが知らないということは、その継承争い自体が歴史から消されているという可能性もある。
では何故ビクトは知っているのか?
公爵家令嬢のリサが知らなくて、家令のビクトが知っている……。
「グレイ殿、その話を他に知っている者はおりますか?」
ビクトの声のトーンが低くなる。
まるでグレイに対して脅しをかけているような雰囲気すら感じる。
「いいえ。この事を知っているのは私の両親だけです。もしこの事が王家に知られたらどうなるかは十分に承知しておりますので」
そう言って顔を上げたグレイの表情に変化はない。
……多分ない。
「成程……。確かにそうですね。例えそれが真実かどうかということを別にしても、王家がそのようなことを見逃すはずがありませんから」
「ビクト、今度は私が話が見えていないわ。ここで話せないと言うのであれば場所を変えましょう」
「ああ、これは失礼いたしました。そうでございますね……出来れば屋敷に戻っての方がよろしいかと思います」
「分かりました。グレイ、貴方の意向はどうかしら?」
「私もそれで問題ありません」
「なら、ちょうど時間も遅くなってきたことですから、まずは屋敷に戻りましょう」
そう話がまとまり、グレイは荷物を自分の乗ってきた馬車に積み込み、その馬車で領主邸へと付いてくることになった。
陽も落ち、外はすっかり暗くなった。
グレイに今日は領主邸に泊まっていくよう告げ、迎えに出てきたアンにグレイ用の夕食と客室の支度をするように伝えた。
私とグレイ、そしてビクトの三人は応接室へと入る。
ビクトと隣同士でソファに座り、正面中央にグレイが座る。
エマが三人分の紅茶を淹れて部屋を後にした。
「それで、ロイシャン様とドーヴィル様。その二人に何があったのか説明してもらえる?」
私はビクトの方を軽く振り向きながら言った。
「……これはお嬢様にはいずれ旦那様から直接伝えられることだったのです。しかしこの内容はヴァルハラ王家においても限られた者しか知らない話なのです。ですので、その……」
ビクトは言い淀みながらグレイに視線を送る。
「グレイが本当に王家の血を引いているのか疑っているのね?」
「……はい。ドーヴィル様のお名前が出た時点でその可能性は低いとは思っておりますが、それでも本物だと確証がなければ聞かせて良い話ではありませんので……」
「ああ、それなら安心して。彼が王家の血をひいている本物であるということは私が保証するわ」
だってエピローグにそう書いてあったし。
本編が終わった後の話に、そうかもしれないとか曖昧な設定を組み込んだところで意味ないからね。
だからグレイが王家の血をひいた子孫なのは間違いない。
「リサ様がそうおっしゃるのであれば信用したいのはやまやまなのではありますが……」
「――あの、すいません」
「ごめんなさい。みっともないところを見せてしまったわね」
「いえ、その、どうしてリサ様は私の話を信じてくださるのでしょう?」
「どうして?貴方がそう言ったからじゃない。それとも全部嘘だったとでも言うのかしら?」
「いえ!滅相もございません!しかしこのような突拍子もない話を聞けば、普通はその者を疑います。そしてその真偽を確かめようとします。もしくは最初から嘘だと思って相手にもしないのが当たり前の反応でしょう。
しかしリサ様はそのどれに当てはまるでもなく、私の話を聞いた時から一切疑うような素振りを見せません。初めて会った人間の言った事を素直に鵜呑みにする、それとは最も遠いところにおられるような聡明なリサ様がです。
リサ様は私が平民ではないことを見抜かれました。しかし王家に連なる者だということまでは判らなかったはずです。貴女はドーヴィルという名も、私の先祖の過去に何があったのかもご存じないのですから当然ですよね。
では何故、私の事をそこまで信用する事が出来るのですか?」
本当はグレイが王家の血筋だという事も知っていたんだけど、「ゲームで見たから知ってたんだって」とは口が裂けても言えない。
多分言おうとしても都合よく翻訳されて言えないのだろうけども。
でもグレイの言ってることは正論だ。
私はグレイの話からキミツグの事を思い出して、自分の中で勝手に解決してしまっていた。
それはさっきのビクトへの言葉にも現れている。
何の根拠もなく安心してなんてよく言えたもんだわ……。
そうだよね。普通はもっと怪しむもんだよね。
でももう手遅れ。
ここから、じゃあドーヴィルさんの子孫だって証拠を出してくれなんて言った日には、グレイだけでなくビクトからの信用も失いかねないお馬鹿発言になってしまう。
ヤバい!何て返事しよう!
リサの記憶を辿るんだ!彼女ならきっと何か良い知恵を持っているはず!
助けてリサ!
………………
しかし何の返事もない。ただの現実逃避のようだ。
「……勘よ」
「え?」
「私の勘が、貴方が嘘を言っていないと告げているのよ」
「勘、ですか?」
「……お嬢様?」
「グレイ。貴方は自分の勘を信じて私に付くと決めたのでしょう?それなら私が勘で貴方を信じても良いのではないかしら?」
「お嬢様……いくらなんでもこのような大事な事を――」
「――ふはっ!ははははははは!――こ、これは失礼を致しました!」
突然笑い出し、その事に気付いて頭を下げるグレイ。
「そうですか、成程!リサ様は私が考えていたよりもずっと大物だったというわけですね。聡明なだけでなく、これ程までに肝が据わっているお方だったとは!」
何か壮大な勘違いが発生している気がするけど、ギリギリ乗り切った?
大丈夫そ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます