第23話 獅子身中
私が想像していた以上の回答を返され、逆にどうしたものかと考えていたのだけど、私の中のリサの部分がGOサインを出してきた気がした。
彼で問題ない、と。
それでも私は素直にそれを受け入れることが出来ない。
簡単に人を信じることが出来ないのは、私がひねくれているとかではなく、現代社会の荒波に揉まれた経験のせいだ。
そうに違いない!
「分かりました。それが貴方の出した答えなのですね」
「はい。どうでしょうか?私の返答はリサ様の期待に沿えましたでしょうか?」
はいはい。
私が最初から試していたのもお見通しって事ね。
何か全部見透かされてるようで、これ以上話するの怖くなってきちゃった……。
どうしてこんなに頭の回転の速い人が商人なんてやってるのかしら?
その気になればどこかの貴族に士官して……いや、頭の回転が速いから商人なのか?将来的にどっちが儲かるかといえば、貴族に士官しても平民から一代貴族になるのが精一杯。成功した大商人の方が間違いなくお金は持っているし、何なら下手な伯爵クラスよりも発言力すらあるかもしれない。
国のあちこちで戦が起こっている現状では、どこの領主も軍事費を捻出するのにヒーコラ言っているらしいので、資金力のある大商人の存在は何物にも代えがたいものがある。
これだけ頭の切れるグレイならば、そういう事情を見越した上で商人という道を選んでいる可能性は高い。
「……もう一つだけ私から質問があります」
「何なりと」
「貴方こそただ商人をやっていたわけではないのでしょう?行商で稼いで店を構える。そんなことを目標にしていたとは思えません。貴方の目的は何ですか?」
もしそれが私の考えているようなものであれば正直にここで答えるとは思えない。
それでも確認しておかなければいけない。
最悪、懐にとんでもないモノを抱え込んでしまう危険があるから。
「……リサ様が考えている通りでございます。私の目的は――
――経済によるこの国の支配」
――ツッ!?
正直に答えちゃった!
私が考えていた通りのことをさらっと言っちゃった!
「キミツグ」のバッドエピローグ――反乱その3。
地方貴族の台頭により王都への収入は激減。
国王側は大商人への借金で何とか体裁を保っていたが、その代償として大商人たちに大きな発言力を与えることになってしまった。
そして彼らは相場を無視した値段で商売を始める。それにより王都周辺の領地の物価の高騰は留まることを知らず、困窮した民は徐々に王都を離れて地方へと流れていく。そのことで民を大きく失ったフィッツジェラルド大公家を含めた王都周辺に領地を持っていた攻略キャラの実家の力は削られ、どの家も大商人の力無くして成り立たない状態へと追い込まれる。
価格の高騰は徐々に周辺領へと広がっていき、民衆の不満は限界を迎えることになる。
しかしその怒りの矛先は値段を釣り上げていた商人に向かうのではなく、そういう事態を引き起こした王家へと向けられる。
民衆は王家が借金をしているなんて想像もしていなかったのだから、むしろ高値で商売をして利益を上げていた商人からの税収で潤っているくらいにしか思っていなかったのだろう。
起こるべくして起こった民衆の一斉蜂起。
それはヴァルハラ全土で発生し、あっという間に戦火は広がっていく。
圧倒的な民衆の数に、旗色が悪いと感じた領主の中には早々に寝返る者もおり、王国側としては誰が敵で誰が味方かすら分からない状況が続いた。
そんな反乱を資金的に支援していたのが一人の大商人。
彼がこの反乱の全ての絵を描き、民衆たちの怒りを裏から煽り、王国側の戦力などの情報を流していた。
反乱の発生から一年。
エンディングからちょうど十年目。
ついに反乱軍は王都の占拠を果たす。
フィッツジェラルド家や攻略キャラの実家も最後まで必死で抵抗したのだが……。
反乱軍は一人の男を新王として立てる。
それこそが彼らを支援していた商人の男。
彼はかつて継承争いに敗れた王弟の子孫という設定だったはず。
そしてヴァルハラ王家は滅び、新たな王を頂いた新ヴァルハラ王国が誕生する。
新ヴァルハラ王国って……。
もっと別のちゃんとした名称はなかったのかと思うけど、いちエピローグにそこまでの力を入れる気がなかったのかもしれない。
本編は異常な量のテキストだったのになあ……。
「――でした」
ん?何が、でした?
「そんなことを考えていたのも先ほどまでです。今は別の目標が出来ました」
経済による支配という目標は無くなったという事?
「これからの目標は、リサ様がこの国をどのようにしていくのかを傍で見たいと考えております。その為には私の力をお好きにお使いください」
方向転換がエグイ!
どうして勘に頼ってそこまで考えを変える事が出来るの!?
追放された悪役令嬢に付き合うよりも、この国の経済を支配することの方がよっぽど大きな目標じゃない?
それにもし仮にそれが出来たとしたら、あの反乱エピみたいにこの国を奪う事だっ……て……。
「……グレイ。貴方の気持ちは大変ありがたく思います。ではその気持ちが本物であるか確かめさせてもらえるかしら?」
「私の気持ちを……」
「ええ。先ほどもう一つと言いましたが訂正します。これが最後の質問です。それに正直に答えてくれるなら、今の貴方の言葉を信じましょう」
「……分かりました。嘘偽りなく答えることを誓います」
「グレイ。貴方の
「……流石でございます。まさかそこまでお気づきになられておられるとまでは思っておりませんでした」
グレイはその場に膝をついて臣下の礼を取る。
ああ……やっぱり……。
「お嬢様……これはどういう……」
ビクトは急に理解の及ばない話になったからなのか、冷静な彼には珍しく目に見える動揺を見せていた。
「リサ様のおっしゃる通り、今はグレイの名を名乗っておりますが、元々の名は別にございます。私の真の名はグレイール=ヴァルハラ。かつての王、ロイシャン=ヴァルハラが王弟、ドーヴィルが子孫でございます」
あの反乱起こさせたのはお前かあぁぁぁ!!
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