第14話 計画の第一歩

「ビクトの言う事はもっともだと思うわ。今後は無理をしないように気を付けます。でも今回だけは、誰にも知られないように動きたかったの。あなたに詳しく伝えなかったのもそうだし、今後もしばらくはこの情報が外に漏れないようにしたいの」

「そのお気持ちは分かりますが……。これから本格的な発掘が始まるとすると、どうしても鉱夫の口から流出してしまうかと思いますが……」

「魔石が見つかるまで隠匿出来れば良いわ。その後から口を挟んでくるような貴族はいないでしょうからね」

「……ダウントン侯爵を警戒されていらっしゃるのですね」

「不正に関して今のところ一番怪しいのはあの方よ。もし本当に侯爵が黒幕だとしたら、どんな難癖をつけてこの地を取り上げようとしてくるか分からないわ。そうなった時、今の私たちではどうすることも出来ない。

 でも自分たちで見つけて産業として立ち上げた後なら、さすがに無理やり取り上げようとは立場が許さないでしょうからね」

「侯爵が黒幕だとしたら、最悪武力行使ということも考えられますが」

「そこは多分大丈夫。一応まだ私には元公爵家の娘という肩書があるから、フィッツジェラルド家との関係性が不明の状態でそこまではしてこないと思う。

 実際にお父様が私の為に兵を出して救援にくることは無いのだけれど、その事を侯爵は知らない。やるとすれば政治的な策。例えば、元々はルイスがその場所を見つけていたから無断で発掘することは許さない。とかね。でも発掘した後なら権利は産出された領にある。だから見つかるまでは絶対に知られるわけにはいかないの」


 正直言えば、侯爵が強硬策を取ってくる可能性はもう少し高いと思っている。

 貴族同士で戦争なんてして良いのかって?

 良いんです!

 てか、結構あちこちで頻繁に起こっているのが今のヴァルハラ王国の現状。

 王都で暮らす人たちも当然そのことは知っているけれど、自分たちには関係ないとばかりにのうのうと暮らしている。

 私の感覚としてはかなり変なんだけど、そうじゃないと王都を舞台にした、あの甘ったるい恋愛シュミレーションの雰囲気が作れないんだから仕方ないのかもしれない。

 でも、その裏では着々と「反乱」バッドエピローグの下地が作られているのだ。


 貴族同士の争いに関して王家は不介入を貫いていて、全てはその地方をまとめている上級貴族の裁量で処理されている。

 そしてその結果だけが伝えられているのだから、真の正義がどこにあったのかなんて勝った側の都合でどうとでもなる。

 それが例え、上級貴族が自身の領地拡大を企んでの行動だったとしてもだ。

 死人に口なしとはよく言ったものだと思う。


 それだけ今のヴァルハラ王家の力が弱まっているということなんだけど、それでも大きな反乱が起こらないのは、リサの実家であるフィッツジェラルド家や、王子の取り巻き連中の実家の治めている領地が王都周辺に集中していることが大きいのだと思う。

 それでも……十年後に起こる「反乱」エピローグでは、一斉蜂起した周辺貴族によってヴァルハラ王国は滅亡してしまう。

 アルバート王子やその側近たち。そして聖女アリアナ。

 彼らの結末については触れられていないけど、それは察して然るべき結末なんだろうと思う。

 反乱後にそれまでの王族の血を残しておくとは到底思えないし、抵抗した貴族一族に関しても同様の処置がとられているだろう。

 プレイヤーはみんなそのことを想像して鬱になるのだ。


 今いるこの世界が、十年後にどのようなエピローグを迎えるのかは分からない。

 リサが止めようとしているのは、その「反乱」エピローグでの結末についてだけだ。

 他国からの「侵略」や、他の「疫病」、「天変地異」、「蝗害こうがい」などに関しては想像もしていない。

 いくらリサが優秀だったとしても、自然発生する厄災に関してはどうしようもないし、平和な王都で暮らしていては他国の情勢なんて知りようもないのだから仕方ない。


 じゃあそのことを知っている私なら止められるのか?

 それは無理だろうと思う。

 私にあるのは「キミツグ」と現代社会の知識、それとこれまでのリサの記憶。

 それで出来る事は実際問題多くないと思う。

 私には医学の知識もなければ、兵を操る能力もない。

 それはリサも同じだ。

 「疫病」や「侵略」エピの場合は手の打ちようがないし、何種類かある「天変地異」なんて今からの十年の努力が全て無駄になるレベル。

 でも「反乱」を阻止する策だけはある。

 上手くいくか分からないけど、リサがこのアルカディアを発展させて力をつける。そしてエルデナード地方を任されているダウントン侯爵との関係を強くすることでフィッツジェラルド家との繋がりを強くさせる。そうすればヴァルハラ西部全体に睨みを利かせることで反乱の抑止力になると考えたのだ。

 少なくとも反乱に参加していたダウントン侯爵と東側諸侯を止めることは出来る。


 でもまさか、そのダウントン侯爵が最初から敵に回る可能性があるとは考えてもなく。

 それでも今の私にはリサの計画に従うしか道はなかった。


「まず鉱夫を集めてちょうだい。魔石のことは伏せて……そうね、鉄鉱石の発掘作業とでも言っておけば良いわ。最初は百人程度で掘り進めていって、魔石の発掘が本格的に始まったら規模を拡大する感じにしましょう。

 それと鉱夫たちの生活する家もあの近くに建てるよう手配を。魔石が出るまではそこから離れないように鉱夫たちに最初に了承をとって、一応周辺には兵を警備の名目で配置するように。絶対に目的が他領に漏れないようにして」

「かしこまりました。すぐに手配いたします。しかしその経費についてはどのようにいたしましょう?鉱夫百人に住まいの整備となりますと、初期投資だけでも結構な金額がかかりますが」

「代官のシモーネに手紙を出して、懇意にしている商人たちから借りれないか聞いてみて。農地整備に資金が足りないから貸してほしいと言えば手配してくれるはずよ」

「借金でございますか……。果たしてこれ以上の借り入れが出来ますでしょうか?」

「手紙は出来るだけこちらが困っている感じの文面で、相手が私の事を憐れむように書けば大丈夫よ。

 シモーネは一昨日の件で帳簿上のおかしさに気付かなかった私たちを甘く見てるわ。数字も分からない、借金だらけの領地に飛ばされた世間知らずの可哀そうな令嬢くらいに思っているはず。ならそれを利用する。

 私は元とはいえ公爵家の娘。私が返せなくても実家から取り立てられると考えるだろうし、これをきっかけに公爵家に貸しを作って更なる甘い汁を吸おうと考えるはず。だから絶対に何としても工面してくるわ。ため込んだ自身の資財を使ってでもね。あれはそういう種類の小悪党よ」


 とにかく今は全力でこのアルカディアを発展させるしかないのだ。

 多少ずる賢い手段を用いたとしても、正義を振りかざして生き残れるほどリサの置かれている立場は甘くないのだから。



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