第18話 魔石

「リサ様!」

「ご領主様!」

「みんな、魔石が見つかったことは内密にお願いね。少なくとも後少しの間は」

「え?あ、ご領主様はこれが魔石だと信じてくださるんですか!?」

「もちろんよ。その為にあなたたちをここに呼んだんですから」

「は?え?それはどういう……」

「言葉通りよ。最初からこの鉱山は魔石を発掘する為の場所だったということよ」


 私の言葉に門番の騎士を含めたその場の全員がぽかんとした顔になる。


「もしかして……ご領主様はここに魔石があることを知ってらっしゃったのですか?」

「ええ。知っていたわ」

「そんな……どうしてそんなことが……」

「詳細は言えません。でもこのホープス鉱山にはまだ多くの魔石が埋まっています。あなたたちのところだけじゃなく、カーチスたちのところにもね。というわけで、このことは他言無用――というか、ここから外に漏らさないようにしてちょうだい。もちろんそれに対する対価はちゃんと支払うわ。だから今は魔石の発掘に集中して欲しいの」

「……分かりました。そういうことでしたら俺たちとしてもやる気が上がるってもんです!」

「あら?今まではやる気がなかったのかしら?」

「あっ!い、いえ!そういわけではなくてですね――」

「冗談よ。じゃあ引き続きよろしくね」

「分かりました。おい!お前たち!今の話を他の奴らにも伝えろ!気合い入れていくぞ!」


 マッソがそう発破をかけると、後ろにいた他の鉱夫たちは一斉に気合いを入れるように声を上げた。


 ジェームズがマッソから採れたばかりの魔石の原石を受け取る。

 ボーリングの玉ほどの大きさで、重さはそれよりもありそうだ。


「これが魔石……ですか?大きすぎやしません?」


 自分の手の中にある魔石を不思議そうな顔で見ているジェームズ。


「それは魔石の原石よ。そのままでは使えないから、そこから均等に魔力が放出されるように研磨して形を整えたらもう少し小さくなるわ。それでもかなり大きなものになるでしょうけどね」


 屋敷にある魔光灯シャンデリアに使われている魔石はビー玉サイズ。

 それでも点けっぱなしで数か月は使用できるだけの魔力が込められている。

 それがこれだけのサイズとなれば、その含有魔力は相当なものだろうと推測される。

 もしこれを兵器に使用しようものなら……まあ、そんな兵器はこの世界に無いんだけどね。

 城壁を一撃で吹き飛ばす魔導砲!!なんて魔導兵器も、いにしえのドラゴンを召喚!!なんていう召喚魔法なんてものも存在しない。

 もちろんそれを作ることが出来たとしたら、簡単にこの大陸を支配することが出来るだろうけど、これからその研究を始めたとしても私が生きている間に完成するとは思えない。そもそも残された時間は10年しかないのだから。



「と、いうことで、これは使いやすいサイズに砕いて流通させてちょうだい」

「いや、何が「と、いうことで」なのか解りかねますが……」


 ビクトは巨大な魔石を前にきょとんとした顔をしている。


「それにしても見事な……いいえ、そのような言葉で表すのもはばかられる代物ですな……。本当に砕いてしまってよろしいのですか?」

「だって、そうしないと売れないでしょ?いくら立派な魔石でも使うことが出来て初めてその価値があるんだから」

「それはそうでございますが……。何やら勿体ない気がしますな」

「まあ、そのサイズのは多く採れているようだから、いくつか置いておいても良いわ。もしかしたら何かに使えることがあるかもしれないから。今のところは何も思いつかないけれど」

「そう、ですな。これまではこのような物が採れることが無かったですから、それを生かす魔導具も考案されておりませんでした。これを機に魔道具開発の新たな未来が開かれるかもしれません」

「大袈裟ね。そもそもそれを表に出すつもりが無いんだし、うちにはそれを研究出来る者もいないわ。その未来とやらが訪れるのはかなり先になるわよ」

「いなければ呼べばよいのでございますよ」

「あら?その口ぶりだと誰か当てがあるのかしら?」

「ふふふ。伊達に年は取っておりません。王都の工房に古くからの知り合いがおりますので、そちらを当たれば誰か紹介してもらえるやもしれません」

「その知り合いは口が堅いのかしら?」

「昔気質な男で、魔道具の研究にしか興味がありませんので大丈夫でございます」

「……任せたわ。ただし、その人に連絡を取るのは魔石の流通が上手くいってからよ」

「心得てございます。折を見て手紙を出しておきます」

「それが上手くいって、何か商業的に利益の上がる物が出来たなら良し。駄目でも特に懐は痛まないしね」

「いえ、開発にかかる諸経費はそれなりの額になるかと思いますが……」

「――え!?……まさか、魔石の売り上げの利益が吹き飛ぶ、なんてことはないわよね?」

「さすがにそこまでは。それに経費に関してはこちらで決めておいて、その範囲内でやってもらえばよろしいかと」

「ああ……そうね。研究にかかる費用はどれくらいが目安なのか分からないから、それも手紙を出す時に聞いておいてちょうだい」

「かしこまりました」

「その話は一旦置いておいて。まずは魔石の販売ルートについてなんだけど」


 アルカディアに出入りしている商人は借金のことがあるので使えない。絶対にこちらの足下を見てくるだろうしね。

 となると、新しく独自の販売ルートを作るしかない。


「その件ですが、やはり我々が直接取引するしかないかと」

「やっぱりそうなるわよね。本来なら市場しじょう全体に浸透するまではアルカディアの名前を出したくなかったんだけども」

「当家にはお抱えの商人が現状おりませんので。それにフィッツジェラルド家に出入りしていた商人を使うにはアルカディアは遠すぎますし」

「まあ、いないものは仕方ないわ。でもそうなると誰に任せるか、ということね。今の私が信頼を置けるとなると、一般の兵士たちはよく知らないから、あなたたち使用人とウィリアムやジェームズとか数人の騎士たちだけ。その中に商いの心得のありそうな人はいるかしら?」

「おそらくはいないかと……。少なくとも私の知る限りでは、ですが」

「まあそうよね。商人からの転職で騎士になったなんて話が広まらないはずないもの」


 他のゲームでよくある転職の神殿とかあれば別だけど、この世界はそういうものじゃないしね。

 レベルもステータスも無いし、職業は元の世界と同じで自分で就職活動(?)をして決めるタイプ。

 流石に商人やってましたって人が騎士に転職するとは考え難い。


 さて、どうしたものか……。




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