幕章 オタクはこう思うらしい1

ついにオタクが登場しました。幕章なので一応読まなくても本編に支障はないようにしますが、読んでおくとオタクの解像度が上がるのでおすすめです。

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俺はラノベが大好きだ。毎日読んでも飽きず、むしろ他のことよりも時間を使いたいくらい愛している。だが、学校には行かなければいけないのが一番辛かった。ラノベ読む時間減るじゃん?だから朝はめっちゃ早く登校して、読むことが日課になっている。


 授業中にラノベ読む勇気はないから、ちゃんと授業は聞いている。俺は真面目ちゃんだから先生に怒られたら泣いちゃうかもしれないし。


 それに人見知りという特大デバフを抱えているので、朝礼までの時間も昼休みもずっと本を読んでいる。本を読んでると時間ってあっという間なんだ(現実逃避)


 そもそも自分から話しかける勇気がないのに、話しかけられても対応できんのよ。結局はあたふたするだけで惨めな姿を晒すんだ。あー悲しい。だから俺は本と友達になっている。


 現実で友達を作るのはもう諦めた。無理無理。誰かなってくれたりしないかなぁ。中学の時まではいたんだけど、別の高校行っちゃったしなぁ。募集中って机に書いとこうかな?…いや、目立つからやめよう。


 それと俺も年頃な年齢なので恋人は欲しいけど、それも諦めるしかなさそうだ。どうやってリードすんねん、相手すらいないのに。過去に片思いをしたことがあったけど、彼氏がいると知って虚しくなった経験がある。その時は脳破壊されたよね。あんまり思い出したくない記憶だな。


 だから結局はアニメとかラノベの女の子を推すことにしている。みんな美少女だし、付き合うことになっても主人公とかだから許せるなって。お前なら任せられるよ(親目線)

あとコスプレイヤーとか最近ハマっている。なんでコスプレしてる女の子はみんな可愛いんだろうか、メイクとかで変わるのだろうか。俺もイケメンだったらコスプレして、可愛い女の子とイチャイチャしながらコミケとか行きたいな。あいにくフツメンだからやる勇気もないんだけれども。そもそもそんなコスプレしてくれそうな女の子すら見つけたことない。コスプレイヤーの「くろい」さんみたいな人が近くにいたらなぁ。


 そうそう「くろい」さんとは俺の最近の推しだ。流行りのキャラクターからかなりマニアックなキャラクターまで完璧に再現するコスプレイヤーである。一度おすすめに出てきてから一目惚れしてしまって、ライブとかしてくれたら初スパを捧げたいなと思っている。なんでも年齢不詳で顔がチラッと見える程度だが、美少女なのは間違いないし、スタイルも抜群である。俺が好きなキャラクターのコスプレしているのを見た時は、普通に固まったよね。可愛すぎて。それに最近はなにか違和感のようなものを感じている。どこかで見たことがあるような顔なんだよなぁ…多分気のせいだけど。もし同一人物だとしたら俺は恵まれすぎているだろう。そんな偶然あるわけないし、そもそもアニメとか趣味って聞いたことないし(本人から直接は聞いていない)


 おっと気づかないうちに推しについて語ってしまった。脱線してしまったから話を戻すね。


 学校にはあまり行きたくないと思っていたけど、今は学校に行きたいと思うようになっている。どんな心境の変化?って思うかもだけど、これは誰でもそうなると思うから俺の実体験の話を聞いて欲しい。


 朝俺はいつも通りに早く登校していた。ラノベを読むためである。高校で友達作りに失敗した俺は無事孤立してしまい、日々本を読むのに耽っている。…人の視線を受けながら教室に入るのが嫌だったりもする。陰キャは視線に弱いんです。


そんなある日突然話しかけられた。


「おはよう」


 本に集中していた俺は気づくのに数秒かかってしまった。え、待って話しかけられた?いや、俺じゃないな。勘違いしそうになったぜ。俺に話しかける物好きはそうそういないだろう…自分で言ってて悲しくなってきた。


「あれ、気づいてないかな…酒井くんおはよう」


 またも透き通るような声が耳に入る。今度は名前付きで呼ばれた。いや俺やなこれ。


「あ、えっとおはようございます…」


 久しぶりに声を出したからちょっと声が裏返りそうになったが、誰に話しかけられたのだろうと思いつつ、ビクビクしながら顔を上げるとそこには美少女が佇んでいた。


 え、待ってなんで俺に話しかけてるの?


「早いね学校来るの」


 なんとあの天下の美少女こと白凪さんが話しかけてきていた。うわ、顔超可愛い。髪サラッサラで白髪がよく似合うなぁ。めっちゃいい匂いするなぁ。おっぱ…でか…。どーして話しかけてきてたんだろうなぁ…え、マジでなんで?ていうか名前覚えてくれてたんだ。なんか泣きそう。そんなことを内心思いながら、俺ができる全力を出して言葉を紡いでいく。


「え、えっとはい。白凪さんも早いですね」


「うん、今日は早起きして時間余っちゃったから早くきたんだ。そんな私よりも酒井くん早いんだからびっくりして話しかけちゃった」


 早起きしてすごいねーと言ってくるので、はいと返す。やばいよまじで話しちゃってるよ。この学校きて初めてなんじゃないか?人に話しかけられたの。なんか感動してきた、しかもよりによってこんな可愛い人に話しかけらちゃってるよ。誰かに恨まれたりしないよね?

周りを少し見渡す。

うん、この教室俺と白凪さんしかおらんかったわ…いやその方が緊張するんだが。


「なんでこんなに早く登校してるの?あ、電車がないとか?」


「いえ、俺も早起きなだけです」


 決して本を読むためだけに早くきているとか言えない。手に持っている本をサッと机に入れる。今日読んでるのを見られたらまずいから。ていうかそのためにブックカバーまでしてるからね、市販のやつ。

 

 その間、俺が直視して話してもいいんだろうかとか思いながら、顔色を窺う。白凪さんって結構たくさん喋るんだなーって思ったり、話してみると案外話しやすいというか優しいと思った。話して数秒しか経ってないが。本当の陽キャは優しいって聞くからそういうことなのかもしれない。俺みたいな陰キャには眩しく見える。


「今本読んでたよね。どんな本読んでるの?ちょっと見せてよ」


「え、ちょっと」



 頭を回転させていると突然俺の手元にあった本が白凪さんの手元に渡る。ちょっと待ってくれ、ラノベ読んでたけど今日に限ってオタクに優しい系読んじゃってるから、これ見られたら白凪さんに変な目で見られて俺の人生詰む!社会的に詰んでしまう!あー見ないでくれぇ!


丁寧にブックカバーを外す白凪さんから本を取り返そうと手を伸ばすが、もう既に捲られていた後だった。


「あの見ないでくだ「あ、これ読んだことあるよ」」


「え」


ん?読んだことがあるって言った?そんなバカな…これラノベだよ?こんなの俺みたいな陰キャしか読まないよ(大変な偏見である)


「これいいよね、私一巻しか読んだことなかったけど二巻出てたんだ」


「え、読んだことあるんですか?」


反射的にそんな言葉が出てしまう。マジで知ってるのこれを?


「うん一巻だけだけどね。ヒロインの愛ちゃん可愛いよね。私は授業の合間とかで目が合った時手振ってくれるシーン好きだな」


まじだ。しかも俺も結構好きなシーンなのでめちゃくちゃ共感できる。


「めっっちゃわかります!あのふとした時に視線に気づいて手を降ってくれるシーンは最高でした!愛ちゃん人気で話しかけることが難しいところで、自分にだけ手を振ってくれる、そんな特別感を味わえるシチュエーションでとても興奮しました!俺もうセリフ覚えるくらい読んじゃいましたよ…ってすいません、熱くなりすぎました」


 やばい久しぶりに人にラノベのこと共有できたからオタク全開なっちゃった。引かれてないといいけど。


「ふふっそっか。こういうの好きなんだ?」


 挑発的な笑みを浮かべ、俺と目を合わせてくる。この瞳を見ているだけでその魅力に吸い込まれそうになる。ああ、好きだなぁ。


「はい、めっちゃ好きです」


「私も結構好きだよ」


 ガタッ…思わず席を立ってしまう。

白凪さんにびっくりされてしまったが、俺もなんで立ったのかよくわからない。いやわかるのだが、厳密には反射的に立ってしまった。違う意味での好き言葉のはずなのに聞いただけで、体に電流が走ったからだ。これは勘違いする人も多発するわ…


「それじゃあこう呼んだほうが喜ぶかな?」


「オタクくん」


これが白凪さんと俺の出会いであった。こんなの妄想って言われてもおかしくないよ。


 それからは朝とか挨拶してくれたり、目が合うと手を振ってくれたりニコってしてくれるようになった。あなたはラノベのヒロインなんですね。俺もついに主人公になる日が来たのか(感動)


 そしてたまにオタクトークしようねと約束した。いつも忙しそうなので俺からは話しかけにいくことは出来ないけれど、せっかく友達になってくれたのだ。俺も勇気を出して、彼女に話しかけられた時用のネタでも考えておくことにしよう。俺の青春はこれから始まるのだから。



そう彼女はオタクに優しいだ。

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