第10話 遠足

 前話から半月ほど経ってしまいましたが一応生きております。この次期少々忙しく手をつける暇がなかったもので、ようやく投稿した次第です。

ですが今はだいぶ落ち着き、投稿頻度をあげていければなと思っているので、これからも投稿は続けるつもりです。末長くお待ちください。

ナメクジ投稿代表_ネル

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学校で朝学活を済ませた私たちは、現在バスに揺られていた。席は自由だったのでえりと一緒に座っている。


「そういえば今日って何しに行くんだっけ」


「公園に行くらしいよ。まあまあ広いとこ」


「遠足じゃん」


「まあ遠足もあながち間違いではないのかもしれないけれど、その公園にある日本遺産の見学することが目的だって」


今向かっているところはバスで数分かけてたどり着く公園である。その公園の特徴は何というか、特にない。ただ広くて、この時期では花見に来る人が多くなる場所だ。私たちは初めにその公園の歴史を学ばされるらしい。なんともありがたい話である。(皮肉)それからは自由行動(公園内のみ)である。


「ちょっとめんどくさそうだけどお昼から自由なんだよね?」


「うん、そうだよ。そのときにお弁当交換しようか」


「さんせーでーす。あおちーのお弁当楽しみだなー…考えるだけでおなかすいてきた」


「お昼まで我慢してね、私もえりのお弁当楽しみにしてるから」


「わたしも腕によりをかけて作ってきたからねー、あおちーびっくりしちゃうかも!」


「ふふっ」


「ほんっと仲いいなお前ら」


えりとお昼の話をしていると、通路を挟んで反対側の席から話しかけられた。この人の名前は猫宮玲ねこみやれい。ウルフの髪をグレーに染めてヤンキーっぽいのが特徴の人だ。なんせ授業初日から遅刻して怒られてるとこ見たし。その時は確か道に迷ってるおじいさんを助けて遅れましたー的なことを言ってた気がする。


「なになにーうらやましいのー?」


「いや暇だったから話しかけただけだ。佐藤はともかく白凪とは話したことなかったしな」


まあたしかにバスに乗るだけだと暇になるよね。一人席っぽいし。


「えーわたしとも話そうよーねこちゃん」


「ほら、これがイラっと来るんだよな」


ため息をつきながらえりに指さすこの人は、今のやり取りでおもったけど苦労してそうだ。えりが困らせてなければいいけど。


「まあまあ、えりも揶揄うのそれぐらいにしなって」


「こいつにリード付けとけよ白凪。…それでよ白凪は音楽とか聞くか?」


「会話下手か」


「そんなの自分が一番わかってるわ、うるせーな」


一種のコントを見ている気分になったけど私も会話入らないとね。それにわたしの今どき女子のアピールができるチャンスがきたから、この機会に試させてもらうか。


「結構聞くよ、流行なら一通り網羅してると思う」


「まじかよ、意外だな。もっとお堅いもんだと思ってたぜ」


「猫宮さんはどんな曲が好きなの?」


「玲でいいぜ。オレはヒップホップとか洋楽ばっかり聞いてるな。最近だとこれがオレんなかの流行よ」


ん、これ知ってるやつだ。


「あ、これ聞いたことあるよ。イントロからもうかっこいいよね」


「うぇ、この曲知ってんのかよ。白凪、お前ガチでいろいろ聞いてるんだな」


「うん、まあ歌うこと好きだしね。あ、私も葵でいいよ」


「あのー話についていけないんですけどー」


玲さんと話していると、えりがすねたように言ってきた。えりにスマホに映った動画のサムネイルを見せてみる。この曲聞いたことない?...ないか。


「あおちーよくこんな曲知ってるね。それに歌うの好きだったんだ」


「うん。今度カラオケでも行く?」


「いこう!今週中には、無理か。だから来週とか時間あるとき絶対いこーね」


「わかった」


どうやら私の都合を汲んでくれたらしい。えりには今週も服屋に顔出すって言ってあるからね。楽しみがまた一つ増えた。


「オレも予定あったらついて行っていいか?」


「えーねこちゃんも来るの?」


「なんだよ不満か?」


「あおちーと二人で行こうと思ってたからさあ。まああおちーがいいならいいけど」


「私は全然いいよ。けど、どうして二人はすぐ喧嘩しちゃうの?」


「オレから喧嘩してるわけじゃねーんだよ葵。こいつが吹っ掛けてくんの」


たしかに今の会話では、えりから煽るようなことを言ったりしている。


「じゃあえり、どうして玲さんに当たりが強いの?」


「いや、だってこのねこあおちーのこと狙ってそうだし。それになんというか...いやだったから...?...よくわかんないけど」


「狙うってなんだよ。オレだぞ。まったく面倒なやつだな」


「いや、うん...」


「ふふっ、とりあえずカラオケには三人で行こっか」


喧嘩をするほど仲がいい、のかはわからないが

とりあえず仲が悪いわけではなくてよかった。


ー 葵は新たな友達をゲットした ー







「白凪さん、ちょっといいかな」


学習先に到着しバスを降りると、渡辺君に呼びかけられた。どうしたのかと一瞬思案したが、今日の校外学習で学級委員が司会を務めることを思い出した。多分そのことの打ち合わせだろう。


「今回僕たちがこの校外学習の司会を務めるんだけど、午前午後で分担しようと思うんだ。それで午後はおそらく感想とか言わなきゃいけないから、僕がやろうと思ってるんだけど、白凪さんに午前任せてもいいかな」


「うん、大丈夫だよ」


「ありがとう。それじゃあとりあえず今日の流れについて作ってみたから、この紙渡しておくね」


先生から配布された資料に渡辺君が書いたであろう追記がされた紙を渡された。

おお、なんかきれいにわかりやすくまとめてくれて助かるな。


「ありがとう。今日は頑張ろうね」


それから私はこの公園を管理している人にあいさつをし、みんなの前で司会を務めた。渡辺君が書いてくれたワンポイントアドバイスのおかげで、順調に進み、交流会も兼ねたレクリエーションでは、クラスのみならず多くの人が仲を深めていったように思う。渡部君、君有能だねぇ。


そして時間はあっという間に過ぎ、昼休憩となった。この時間は各自で自由行動なので、えりと一緒に大きな桜の木の下でお弁当を広げている。


「せーのであけるよ!」


「「せーの」」


交換したお弁当を開けると、彩がきれいにまとまった和のお弁当が見えた。しっかりと焼き目のついた鮭に、鶏の団子だろうか。それにねぎの入っただし巻き卵にサツマイモの甘煮、インゲンに彩のトマトが入っている。どれもおいしそうに見える。ちなみにご飯には梅干しが乗っている。えりって料理うまかったんだな。


「すごくおいしそう、えりって料理上手だね」


「でしょでしょ!毎日お弁当作ってた成果がやっと発揮できて感涙しちゃうかも。てかあおちーも料理めっちゃ上手じゃん!よだれがたれちゃうよ」


「ありがとう、えりのために頑張って作った甲斐があったよ」


「うわ、なんかわたしのために作ってくれたって改めて考えると超嬉しいな」


「それは私も同じ気持ちだよ」


ましてや同級生の女の子の弁当食べられるとか最高か。まさかこんな日が来るなんてな。


「だねだねー、それじゃ食べよっかー」


「「いただきます」」


「この唐揚げから食べちゃうぞー。あむあむ...え、うますぎない?どうやったらこんなにおいしく作れるの」


「愛情込めて作ったからね」


「あー好き。とりあえず結婚しよう」


ほおを緩ませて食べたかと思うと、急にスンっとなって結婚しようとか言ってきた。

そんなにおいしかったのかな。


「はいはい、私はこの団子食べるからね」


「え、うん。どう味は?」


なんか急に声のトーン落ちたけど、今は団子の味に集中する。

モグモグ...うんうまい。私好みの薄味になってて、余計な臭みもなく自然にご飯が進む。人から作ってもらうとこんなに美味しいんだな。


「すごくおいしい。毎日食べたいくらいだよ」


「よかったー」


かわいい。(語彙力)お母さんに料理ほめてもらった子供みたいににっこにこだ。


それにしてもえりってやっぱり表情がコロコロ変わっていいな。見てて今こんな気持ちだろうなーってすぐわかるし。こうゆう子ってすごい話してて面白いよね。ギャルってこうなのか?...私こんなにコロコロ変わらんよな多分...見習わなくては。


「えりはいつからお弁当作るようになったの?」


「わたしはね中学生のときからやってるよー。最初はママにやっとけって言われてめんどーだったけど、やってくうちに楽しい!ってなって、気付いたら3年たってた」


「そうなんだ。ちょっと意外だったけどそれなら納得の美味しさだよ」


「やっぱ意外?」


「うん」


「だよねー、よく言われてたよ。英理は絶対作ってるイメージないわーってね。あおちーこそいつから作ってたの?」


大体一緒なんだよな。私の場合あ、これもうまくなっておきたいなぐらいの感覚だったし。まあ強いて言うなら、ほめてもらってモチベ維持できたってのは大きい。


「私も中学からだよ。最初は手伝いとかだったけど、たまにお父さんお母さんに振舞って大喜びしてもらえたから、また作りたいなってなったんだと思う」


「やっぱそうだよねー、モチベ大事ってね」


「そうそう」


それからお弁当を食べ終えるまで私たちはいろんな話をした。服屋のことだったり、SNSのこと今の流行など。だいたい私の話題になってしまったけれど、昨日の今日なのでしょうがないと思う。


そして今はなぜか私達のもとに食べ物などを献上する列?のようなものができていた。いや、なにこれ。


「葵さまに英理さん、プリンを作ってみたのでぜひ食べてください!」


列の先頭に立っていたのは由良ちゃんだ。可愛らしい容器に詰められた美味しそうなカスタードのプリンを手に持ち、腰を90度近く曲げて私たちに手渡してくる。礼儀正しすぎない?


「ありがとういただくよ」


「由良ちゃんありがとー!」


「どういたしましてです!」


「よかったらこれもつけてください」


由良ちゃんの隣にいた人から黒っぽい液体を渡された。カラメルだ。この子とはあまり話したことがないけど、由良ちゃんの親友ということだけは知っている。たしか田中麻美さんだったか。


「ありがとう田中さん」


「…!はい」


名前を呼ぶと若干嬉しそうに頬が緩む。かわいいね。

そういえばこのプリン、カスタードの部分とカラメルの部分が分けられているから、二人で作ったのかな。そうだとしたら本当に仲がいいよね。


「このプリンは二人で作ったの?」


「はい!そうなんですよー!麻美ちゃんがどうしてもっていうからー」


「ちょっと、違うでしょ。由良が作りたいって言ったから仕方なく私が手伝っただけで」


「そうだっけー?」


「そうよ」


「えーまあそうゆうことにしとく!さて後ろの方が待ってるのでそろそろお暇します。お邪魔しました」


手を振りながら元居た場所に戻っていく二人。ほんっと仲いいな。


「あの二人仲いいねー、田中ちゃんだっけ?今度お返ししないとね」


「そうだね。その時は私たちから何か作ろうか」


「おーいいね、やろやろ」


さて二組目がやってきたようだ。...なんか面接官やってるみたいな気持ち。


「こんにちは葵さん、佐藤さん」


「こんちー」


次にやってきたのは西野茜さんだ。体育の授業で二人組を組んでからちょくちょく話すようになったんだよね。あとなんだこんちーって。ギャルか。あ、ギャルだったわ。...そうだ!真似してみよう!


「茜さんこ、こんちー」


どうだ、ギャルっぽいだろ?


「は?かわいい。あっ、えっとえっと、私たちで桜餅を作ってみたので、良ければもらっていただけないかと」


ごまかしてたけどしっかり聞こえてたよ。かわいいって。しかもちょっとキレてたし。そのあと普通に話し始めてたけど、聞かなかったことにしておけばいいのだろうか。まあ、いいか。


「季節ぴったりじゃん、やるねー」


「それにしてもこんなにいっぱい?」


「はい、作りすぎちゃって私たちだけでは食べきれないので、良かったらどうかなとおすそ分けに来ました」


「そうだったんだ。それなら私とえりで二個ずつもらう?」


「そうしよっか。店長ー、四つくださーい!」


「はいどうぞ」


「ありがとね。あったかいお茶とか持ってきたんだけど、一緒に飲む?」


昼休憩長いからゆったりするなら何がいいかなーと考え、水筒にあったかいお湯を詰めていた。公園だし花も咲いてる頃だってわかってたから、花見できるなーとおもってもってきたんだよね。


「えっといいんですか?」


「うん。ちょうどこの桜餅とも相性がいいし、みんなで花見でもしよう」


「たしかにそうですね。ではこの列が終わったらまたきますね」


「うん。またね」


「はい。頑張ってください」







ようやく列が捌けたころ、葵たちのレジャーシートの上は、お菓子やらプレゼントやらで山積みになっていた。それだけ多くの人が訪れたらしい。神様の奉納かなにかでしょうか。大きな桜の木が美しく見えるように、葵たちもそれはもう美しく咲いているようにみえる。それがきっかけでクラスの人たちは団結しているのだが、本人は全く気付いていない。逆に英理は気づいているらしいが、あえて言うようなことはしないので、気付く機会がないのである。哀れ。


「ふわぁ、やっと列終わったよー。あおちー人気過ぎない?」


「えりももらってたでしょ?私たちのクラスって仲いいから、友達におすそ分けしたいんだよきっと。遠足みたいなものだし」


「いやー、それだけじゃないと思うけどねー」


ま、いいかと一息ついて、上を見上げるえり。私もつられて上を見てみる。

改めて見ると大きな木だなぁ、なんか周りより樹齢とか倍な気がする。えりと歩いてたら自然と目に入ったこの木にとりあえず来たけど、今思えば呼ばれていたのかもしれない。本能的に。もしかしてこの木神秘パワーとかある感じかな?そういうスポットとか?


「お待たせしました」


桜の木を眺めていたら、後ろから声をかけられた。振り返ってみると茜さんが立っていて、こちらも木を眺めながら来たようだ。


「全然待ってないよ。それにしても大きな桜だよねぇ」


「そうですね、周りにもたくさん桜がありますが、この桜だけ迫力が違う気がします」


「あ、わかる!なんか惹かれるっていうかわたしたちも自然ときたよねーここ」


どうやら茜さんもえりも同じことを考えていたみたいだ。このまま眺めていてもいい気分だが、せっかくならお茶とか飲みたいよね。花見だし。


「とりあえずお茶入れるから茜さんも座って」


「わかりました」


「あおちーこれは何茶なのー?」


「この水筒にはお湯しか入ってないよ。お茶はこっち」


と言ってカバンの中から袋を取り出す。そこにはたくさんの種類のお茶が入っている。緑茶、玄米茶、ほうじ茶、etc...


「ここにいろんな種類のティーバックが入ってるよ」


「!...ああ、なるほど」


茜さんがものすごい首の動きでこちらを振り向いたが、なにやら一人で納得したようだ。いったい何を考えたんですかね。それと今の動きちょっと怖かった。


「おお、いろいろあんだねー。じゃあわたしはこれで」


えりは緑茶を選んだようだ。無難だけど一番飲みなれてるよね。おいしいし。


「茜さんはどうする?」


「私はほうじ茶をいただきます」


お、今の私と気分が一緒だね。

私もほうじ茶飲もうと思ってた。


「私もほうじ茶にしようかな」


2人に持ってきていたマグカップを渡す。マグカップは2つしかもってきていなかったので、私が水筒のコップだ。お湯はこぼしたりしないように、セルフで入れることにした。



「それじゃあ先に桜餅から食べようか」


「そうしよー!2つずつとして、あっ、西野ちゃんはある?」


「ありますよ。なんなら余ってるくらいです」


たんまりありますよ、とジェスチャーしているが、そんなにあるのか。どんだけ作ったんだ。


「それじゃあ、いただきます」


「「いただきます」」


「うん、おいしい」


桜色のお餅に桜の葉っぱが巻かれた桜餅。一口食べてみると中のあんこが口に広がってきて、香りが広がってくる。桜餅って食べる機会なかったけど結構これはおいしいな。


「これおいひいね!いくらでも食べれちゃうよ」


「もうえりったら口パンパンだよ。リスみたいになってる」


「喜んでもらえて何よりです」


「ふふっ、そうだね。こんなに美味しいのを作ってくれてありがとう、茜さん」


「いえ!みんなで作ったのでよかったらそちらの方にもお礼言ってあげてください。きっと喜ぶと思います」


「わかった。そうするね」


それから私たちはボーッと桜の木を眺めながらお茶を楽しんでいた。春風が相まって、心地よさを感じることができる。今日も平和やなぁ。


私、かれこれTSしてから15年経つけど、今はもう違和感を感じることがほとんどない。男から女へと生まれ変わっているというのに、もう慣れてしまったのだろうか。別に男だった頃のように男らしくいることもできたのにね。ギャル像(私の解釈)を求めるがあまり、女の子に順応したということなのだろうか。

...まぁ考えたらキリがないけどね。


「あおちー」


なんて変なこと考えてると、えりから話しかけられた。どこかふにゃふにゃしているイントネーションを感じられる。これ眠いな、さては。

 

「ん、どうしたの?」


「眠くなってきたわー」


「お昼寝でもする?まだ時間結構あるし」


「うん。じゃあここお邪魔しまーす」


えりは自然と私の膝の上に頭を乗せてきた。あまりの自然さに反応するのが遅れたぞ。まぁいいだろう。でもちょっとイタズラしちゃうかもよ?


「私の膝枕は結構高いよ」


「まじかー、後払いで。今は堪能させてくださいな。この天国を」


「ふふっ、嘘だよ。えりなら無料にしといてあげる。その代わり頭なでなでしちゃうからね」


「え、むしろご褒美なんですが」


「ほらほら早く目をつむって」


「はーい」


改めてこの距離から見ると可愛いなえり。長いまつ毛に柔らかそうなほっぺ、それにぷっくりとした唇...それに女の子特有のいい匂いがする。今はもうこれも慣れてしまったと思っていたけれど、思いの外私の鼓動はドキドキしている。そりゃ女の子に膝枕してたらそうなるよね。


「なでなでするね」


「うん」


「髪サラサラだね」


「お手入れしてるからね...いいでしょ」


「うん、ずっと撫でてたいかも」


「そっか。じゃあわたしはこの膝枕で熟睡するからその間撫でててくれる?」


「うん、いいよ。ゆっくりしてね」


「あおちーも辛かったら足崩していいからね」


「ありがとう。おやすみ」


「おやすみ〜」


えりは目を閉じると、すぐに深く呼吸を始めた。よっぽど眠かったみたい。撫でる手を止めて、ほっぺたに触れてみると指が食べられた。あ、口でじゃないよ。そのくらい柔らかかったってこと。ツンツンしてるとくすぐったかったのか、私の手をとった。そしてその手を抱きしめるように絡めてきた。え、ちょっと待って、腕に何か当たってます、とても柔らかいの。私は悪くないからね!えりが手を引っ張っただけだから!と1人で葛藤する。ちょっと嬉しい気持ちもある。やましいことは何も考えていない。本当だよ。


「…すぅ…へへ…すき」


一体なんの夢をみているんだろうか。とても幸せそうな顔をして寝言を呟いている。かわいいなぁ。


「…あおちー…すき…」


?!?!

今私のこと好きって言った?

いや夢みてるだけだから、なにかいいことがあっただけだよね?きっと。そうに違いない。


もう、私は勘違いしないんだからね。頬が暑いのは外が熱いからであって、勘違いしたわけではない。


でも私もえりのこと結構好きだよ。私の最初の友達として。


「わたしも好きだよ。えり」



この光景を息を殺して眺めていた茜であった...

(お陀仏)



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