第8.5話 陸上部から見た葵
私の名前は西野茜。
運動が好きな普通の高校生だ。
私のクラスにはとてつもない美少女がいる。
入学当初から目立っていた彼女は白凪葵さん。イメージではお勉強ができるお嬢様といった感じ。私の名前が茜だから、赤と青みたいな感じで親近感が湧いていたけど、安直な考えだなと思ってすぐにその考えをやめた。
私とは正反対だと思った。
私は運動が好きだし彼女は得意ではないと思ってたから。勉強も私は嫌いだし、あっちは得意としてそうだから。
そしてそんな彼女と仲がいいのがギャルだ。
正直性格が真逆だと思う。なぜ仲良いのかわからない。
白凪さんが揶揄われているのかと思ってたけど、あれは揶揄うというより守っているのが正しいかもしれない。それに白凪さんから話しかけていることが多いし。
謎が多い人物だと思う。白髪なんて初めて見たし、女神か何かと言われたほうが信じられるかもしれない。
とにかく私とは縁のない人だと思った。
もちろん話したいけれど、私人見知りだから話しかけに行けないし。そもそもカーストレベルが違いすぎて近づくのがちょっと怖い。
ギャルの佐藤さんとか怖そうだからね。
でもなんかちっちゃい子も近くにいたよな…
だけれど体育の時間、どうやらこの2人が隣のようだ。話していたので少し耳を傾ける。
「なんだかご機嫌だねあおちー」
「やっと学校で運動できるから、楽しみにしてたんだ」
「運動好きなのは意外だったけどねー。だからこの間ランニングしてるって聞いた時は驚いたし」
そうなんだ、と感心したけれど顔に出さないように注意した。
白凪さん運動好きなんだ?!
それにランニングとかしてるの?!
私より運動してる気がするんだけどどうしよう…勝手に運動苦手そうとか思っててごめんなさい!
それにしても可愛いなー…同じ人間としてここまで差があるものなのかと思ってしまう。
「(顔ちっちゃい!笑った顔可愛すぎる。私のクラスが団結してる理由がよくわかる。この子は守らなくてはならない!でも仲良くしたいな。話しかけにいきたいけど緊張しちゃうし…出来れば運動してる時話しかけたりしてくれないかな、隣だし)」
ま、あるわけないかとか考えながら体育館を5周する。思考していたからなのか、久しぶりの運動だからなのか普通に疲れてしまった。
体力落ちたなー、運動不足なってきてるかもしれないな。体力戻していかないと。
「はぁ、はぁ」
「大丈夫?」
少し膝に手を当てて呼吸していると、横から話しかけられたので、反射的に私は振り返った。
「え?あっ白凪さん。えっと、大丈夫です」
横にいたのは白凪さんだった。
どうして白凪さんが?って一瞬思ったけど、そう言えば隣なんだった。本当に話しかけられちゃったよ。
「ほんと?久しぶりの運動とかなんじゃない?」
心配そうにこちらを見つめる様子から本当に、心配しているようだ。面と向かって話すの初めてかもしれない。連絡先は聞いたことあったけど、他の子と一緒にいったし。
それより全然息を切らしていなく、平然と話していることに気づいた。疲れてないのかな。
「まぁ、久しぶりの運動ですね。…それより白凪さんはすごいですね。疲れが見えないです」
「それなりに運動はやってるから。西野さんは運動好き?」
それなりの運動だけでは多分息切れすると思います。あと名前覚えててくれたんだ。なんかファンみたいなこと考えちゃったけど実際嬉しい。
「一応好きですね。陸上部にも入部したので」
「そうなんだ、それならこれから体力つけていかないとね」
あーこの声落ち着くなー。なんというかほのぼのしちゃう。自分だけに囁かれてるみたいで気持ちいい。もう少しだけ話したいな。それに運動が得意ならそれなりに競える相手だと思うから、ペアを組んでくれたりしないかなぁ。
…ちょっと緊張するけど聞いてみるか。
「はい、そうですね。…あのもしよかったらこのあとの体力テスト、ペアになってくれませんか?」
「うん、もちろんいいよ」
案外あっさりOKしてくれるんだなぁ。
もっとお堅いものだと思ってたけど。
…後から怒られたりしないよね?
「ありがとうございます」
⭐︎
準備体操が終わってから白凪さんの元に佐藤さんが寄っていくのを見た。
あーこれもしかして……やっぱりそうかー
佐藤さん結構ガーンって表情してたなぁ。
後で締められたりしないよね?怖くなってきた…佐藤さんに謝ろうと思ったけど、もう列に戻っちゃったから白凪さんに謝っておこう。
「えっとごめんなさい」
「え?いや大丈夫だよ。西野さんが先に誘ってくれたからね」
「でも佐藤さんに申し訳ないことをしました」
「えりなら大丈夫だよ。それに私だけと絡むより他の人たちとも話してほしいからね」
この人は優しすぎるなぁ。本当は佐藤さんと組むつもりだったのかもしれないけれど、私の気持ちも汲んでペアになってくれた。
それに佐藤さんの印象も少し変わった気がする。いや、実際にはかなり前から変わっていたが。
最初はとても怖い印象だったけれど、白凪さんと話す時はとてもコロコロと表情を変えている。この前抱き合ってたところ見た時は、思わず直視できなかったけどね。なんか眩しかった。
だけれど佐藤さんは白凪さんの他に小さい子、双葉さんくらいと話しているところしか見たことがない。白凪さんを挟めば他のクラスメイトと話していることがあったが、自分から話しかけにいくところを見たことがない。他の人には興味がないのだろうか。まぁ、近くにあんな可愛い人がいたらしょうがないのかもしれないけど。
それにしてもお母さんみたいだな。
子供に友達作ってきなさいって、言ってるみたい。
「それならいいんですが」
「それよりどうして私と組んでくれたの?」
仲良くなりたいからですと馬鹿正直に言えたら良かったんだけれど、流石に恥ずかしい。
「それは…まぁ、単純に話してみたかったというのが大きいかもしれません」
「そうなの?」
「はい。白凪さんは私から見て雲の上のような存在ですから、話しかけにいくのが難しいんです」
実際にそうだと思う。美しすぎて話しかけにいくのが難しいというか、私が話しかけていいのかなみたいな。
「それに運動が得意とのことなので、是非一緒にやりたいなと」
さっきの動きを見て思った。
この人は運動めっちゃ得意なタイプだ…と。
「そっか。それじゃあよろしくね西野さん」
「はい、よろしくお願いします」
私は白凪さんに勝つためにやる気を漲らせた。
⭐︎
結果だけ言えば全敗したと言える。
いや、どうやって勝てばいいんですか?
息切らせてなかったから運動得意だろうなと思ったけど、こんなに段違いに得意とは思ってなかった。オール10とか初めて見たよ。私中学でも結構運動得意な方で、男子含め上位3位以内には絶対に入ってたけど、その時でもこんなに差はなかったよ!
私今回71点で中学より点数上がってたんだけど、その上をいく80点満点は意味がわからない。
「一つも勝てませんでした…化け物ですか?」
「まぁ、運動好きでやってるからね」
運動好きでやってても満点ってそうそうないですよ。本当にすごいです。いやーまいったなー、運動関連でも負けてしまうとは。もう勝てる要素なにもないよ。
…とりあえずジュースを献上しなくては…
「それはそれとして、負けたので後で飲み物奢らせてください」
「うん、お願いね」
あとこれは今回の体力テストで仲良くなれたはずなので、名前呼びとか許してくれたら嬉しいな。
「それと…名前で呼んでもいいですか?」
「うん、いいよ茜さん」
ッッ!名前呼びってやっぱりいいなぁ。
実はさっきシャトルランが始まる前に、佐藤さんと少し話したのだが、名前呼びにしてもいいという許可をもらった。もちろん白凪さんのである。そうじゃないと呼んだ時、睨まれそうで怖かったからね。
「ありがとうございます!葵さん!」
⭐︎
体育が終わってから昼休憩の時、私は葵さんに飲み物を献上していた。場所は更衣室である。
「これスポーツドリンクです。どうぞ」
「うん、ありがとう」
そう言って飲み物に口をつける葵さん。
喉をコクコクと鳴らす音を聞く。なんかドキドキするな、見てるだけなのに。
葵さんの方を見ていると目が合った。
ん?どうしたんだ?
「茜さんも飲む?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。茜さんも飲む?といって手渡そうしてきたのは、さっきまで飲んでいたペットボトル。か、間接キスになってしまうのでは?!
「ちょっとあおちー?」
私が慌てていると佐藤さんが横から顔をひょっこっと出してきた。怖いから急に出てこないで!
「あ、えっとごめん。茜さん」
「え、と飲み物くれようとしたんですよね。ありがとうございます!でも私はもう飲んだので大丈夫です!」
必死に言葉を絞り出す。佐藤さんのオーラがちょっと怖かったから。私が大丈夫ですと言うとオーラが無くなった気がする。…怖かった。
その後は着替えるだけだったのだが、私はある一点に目を奪われた。
デッッッッッ
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