第8話 体力テスト


この間のえりとのデート?は楽しかった。

いい服屋さん紹介してもらったし、美味しい食べ物屋さんも見つけることができた。


そして、あの日帰ってからモデルのことを親に話してみたら、案外簡単に承諾してくれた。なんというか遅かれ早かれうちの娘にくるだろうなと思っていたらしい。


許可を貰い連絡を取ると、今度の休みの日にまたきてほしいと言われた。これからの打ち合わせとかしたいみたい。どんな感じで進めるのか楽しみだ。


高校に入ってからまだ数日しか経ってないのにこんなに毎日が楽しい。今は友達と呼んでもいいかなと思える人が出来た。私の夢を叶えるのはまだ少し時間がいるけれど、これからちょっとずつやっていけると思うとワクワクする。




そして今日は体育がある。

私は今世に生まれてから運動を欠かさずやってきた。前世では考えもしなかったことだけど、体を動かすことは楽しい。だから今日という日を楽しみにしていた。


「なんだかご機嫌だねあおちー」


「やっと学校で運動できるから、楽しみにしてたんだ」


「運動好きなのは意外だったけどねー。だからこの間ランニングしてるって聞いた時は驚いたし」


まぁ理由はそれだけではないけどね。

私の夢への一歩を辿る重要な授業だからだ。


私はギャルになりたい。

それもオタクに優しくしてくれるギャルだ。

これは私の持論だが、ギャルは常に強くてはならない。何事にも屈せず、誰にでも優しい。

そんな存在に私は憧れている。


だからこそまずは運動で無双したい。

正直勉強の方なら無双状態ではあるんだけど、それだとただのお嬢様だからね。運動できる人はカッコいいし、頼りたくなる。


すなわちギャルは運動に強い、である。

私はこの時のために運動をやってきたのだ。披露するのが楽しみで仕方がない。


ふっふっふっ…刮目するがいい…



⭐︎



体力テスト


「今日は体力テストをやっていくぞ。始める前に準備運動はしっかりなー」


そう話し始めたのは体育の教師だ。

いかにも熱血教師って感じで、体育がすごく似合う。


今日の体力テストは1日かけて行うらしい。

前世の高校では体育の授業でやっていたが、この学校では違うらしい。全種目(持久走を除く)

をクラスごとにローテーションして、4時間目までやるみたい。私は多分大丈夫だと思うけど、普通にきついよねこれ。


「体育委員の人は準備体操の時頼むな」


「はーい」


えりを含む他のクラスの体育委員の人が返事をする。


「それじゃあ早速走るか!まずは体育館を5周と行こう」


よっしゃ、走ったるでー。



⭐︎



走りました。うん5周くらいなら全然息もきれないな。隣の人はなんだか疲れているようだけど。


「大丈夫?」


「え?あっ白凪さん。えっと、大丈夫です」


「ほんと?久しぶりの運動とかなんじゃない?」


「まぁ、久しぶりの運動ですね。…それより白凪さんはすごいですね。疲れが見えないです」


私と同じくらいの背の高さがある女の子だ。体付きががっちりしているから運動部かな。

名前は確か…西野茜(にしのあかね)だったか。


「それなりに運動はやってるから。西野さんは運動好き?」


「一応好きですね。陸上部にも入部したので」


「そうなんだ、それならこれから体力つけていかないとね」


「はい、そうですね。…あのもしよかったらこのあとの体力テスト、ペアになってくれませんか?」


この体力テストでは2人1組になって回ることになっている。最初はえりかゆらちゃんと組もうと思ってたけど、誘われたからね。断るわけにもいかないし。


「うん、もちろんいいよ」


「ありがとうございます」



それから準備体操をした。

えりが前に出てたよ。でも視線私にしか向いてなくない?私の前の人もそわそわしてるからその辺にしときなって。


準備体操終わってからえりにペアを組まないかと言われたけど、もう組んだといったらガーンとしていた。ごめんて。

まぁ、でもえりも組む人別に探しに行ったみたいだし多分いないなんてことはないだろう。


「えっとごめんなさい」


「え?いや大丈夫だよ。西野さんが先に誘ってくれたからね」


「でも佐藤さんに申し訳ないことをしました」


「えりなら大丈夫だよ。それに私だけと絡むより他の人たちとも話してほしいからね」


えりは私と会ってから他の人に話しかけにいくところをあまり見ない。私と話してくれるのは本当に嬉しいけど、えりにも友達もっと作ってほしいからね。


「それならいいんですが」


「それよりどうして私と組んでくれたの?」


これは気になっていた。

西野さんとは連絡先を交換したことはあるものの、面と向かって話すことはなかった。


「それは…まぁ、単純に話してみたかったというのが大きいかもしれません」


「そうなの?」


「はい。白凪さんは私から見て雲の上のような存在ですから、話しかけにいくのが難しいんです」


私は神様かなにかなんですかね。

それともあれか、カースト高い位置にいるから話しかけられない的な?

…これはいいことを聞けたな。


「それに運動が得意とのことなので、是非一緒にやりたいなと」


「そっか。それじゃあよろしくね西野さん」


「はい、よろしくお願いします」




体力テストの種目の順番はこうだ。


握力→上体起こし→長座体前屈→立ち幅跳び→反復横跳び→50m走→ハンドボール投げ

→シャトルラン


オール10とか狙ってみようかな。今の私ならいける気がする。前世はB判定が最高だったけどね。


「あのよければ対決しませんか?」


「体力テストで?」


「はい、私も一応運動は得意でやらせてもらっているので、是非お願いしたいです」


なんだか師範でもやっている気分だ。


「わかった。わたしも全力でやるね」



-握力測定-



「西野さん先どうぞ」


「ありがとうございます。それでは…ふっ」


計測機には28kgと表示されている。女子の中では結構強い方なのではないだろうか。


「28kgですか、中学より2kg上がってました」


「それはよかったね。次は私にも貸して」


「はい、どうぞ」


「ありがとう。それじゃあ…よいしょっと」


計測機には37kgと表示されている。ん?なんか前世より強いんだが…悲しくなってきた。


「どうでした?…って37kg?!すごいですね」


「ふふっ、ありがとう」


まぁ、それはさておき、一つ目の10点超えを記録できた。この調子でどんどんやっていく。



-上体起こし測定-



「私が先押さえますね。ここに足を入れてください。…すべすべだ」


西野さんに足を押さえてもらうと、手ですりすりしてきた。なんか手つきがいやらしいかも。


「ちょっとくすぐったい」


「…わっ、ごめんなさい。ついすべすべだったもので。それでは始めますか」


「うん」


筋トレをやってるから上体起こしは余裕だ。



「上体起こし33回ですか、すごいです!」


「ありがとう。次は西野さんの番だよ」


「はい、お願いします」



「29回っと、ここは並んだね」


「なんとか並べました。でもなんだか勝てる気がしてこないです」



-長座体前屈測定-



「んー!」


西野さんが呻きながら手を伸ばしている。

プルプルしているが、記録は47cmだ。


「柔軟苦手なんですよー」


「ストレッチとかしたほうがいいんじゃない?」


「ぐっ、そうですね。昔から柔軟だけは苦手だったので。これを機に始めようかな」


「うん、お風呂上がりとかだけでもやっておくと変わると思うよ」


「わかりました。次どうぞ」



「どうしてこんなに柔らかいんですか。65cmってすご過ぎます。その柔軟羨ましいです」 


ストレッチを始めてからと言うよりも、背筋をピンと張るようにしてからは、柔軟性が上がった気がする。猫背だと本当に大変だからね。



-立ち幅跳び測定-



「ふんっ…と、どうでした?」


「2m10cmだよ、すごいね。これも10点」


「えへー、どうですか?流石に白凪さんでもこれは厳しいのでは?」


「がんばってみるね」



「2m40cm…軽々超えられました…」



-反復横跳び測定-



「私は陸上部で短距離が得意なんですけど、流石にここで負けるわけにはいきません」


「私も負けないよ」


西野さんは体からメラメラと炎を燃やしている。対抗心が燃えてきたのかな。


まぁ、私も負けないように頑張るけどね。



「瞬発力なら負けませんよ…って言いたかったのに。62回ってなんですか?!」


「西野さんも59回だよね?結構すごいと思うけど」


「私より上の人に言われたくないです…」



-50m走測定-



「ついに私の本領を発揮するところがきましたね。50mなら自信ありますよ」


「がんばろうね。私も負けないから」


50m走は5人ずつ走るみたい。私と西野さんは別のグループになったから一緒に走ることはできないけど、タイムで競うことになった。


西野さんは陸上部というだけあって、フォームとかとても綺麗だった。



「もう、なにも言うことはありません。というか言えません。6.9秒は速すぎます。陸上選手なってください」


だけれどなんとか勝つことが出来た。


「0.1秒差だったけどね。危なかったよ」


「0.1秒って結構大きいですけどね」



-ハンドボール投げ測定-



ハンドボールってなんか大きく感じるよね。重たいし。普通のボールならもっと飛ばせるなーって思ったり。


「白凪さんは得意ですか?」


「苦手ではないかも」


「それは飛ぶやつですよね…」


どうだろう。飛ぶかな?



「30m…本当になんでもできますね…」


飛んだわ。



-シャトルラン計測-



前世は嫌いだったなー。音楽なる時の絶望感は結構やばかった。今でもちょっと緊張はしてるけどね。


「お、あおちーとなりだね」


隣になったえりが話しかけてきた。なんか久しぶりに話した気がする。


「うん、一緒に頑張ろうね。しりとりでもしながらやる?」


「流石にキツイかもなー。それで西野さんとはどうなの?」


問い詰めるように聞いてくる。なんか悪いことしちゃったかな?


「順調だよ。いま対決してるとこ」


「体力テストで対決してるの?」


「うん」


「そっか。それならいいか」


「?」


何を聞きたかったのだろうか…

まぁ、いいか。今はこれから始まるシャトルランに集中しよう。



次々と脱落していくのを横目で見ながら、どこまでやろうかなとか考えていた。


「ふっふっふっ」


疲れたし100で辞めようかな。一応10点は超えてるんだよね。



「お疲れ様です。100ぴったりでやめてましたけど、まだいけますよね?」


「いや、流石に疲れたかな。それに西野さんも結構ついてきてたよね」


「81回でしたけどね。体力持たないです」



⭐︎



全種目終わりました。

結構疲れたなー。でもオール10取ることが出来た。西野さんとの勝負にも勝つことが出来たけど、西野さんも結構すごいよねこれ。私が養殖スペックじゃなかったら普通に負けてたかもしれない。さすが陸上部。


「一つも勝てませんでした…化け物ですか?」


「まぁ、運動好きでやってるからね」


「それはそれとして、負けたので後で飲み物奢らせてください」


「うん、お願いね」 


「それと…名前で呼んでもいいですか?」


少し俯きながらそんなことを言ってくる。

ギャップがすごいな…運動系な一面から可愛らしい一面を見せてきて私は眼福でした。


「うん、いいよ茜さん」 


「ありがとうございます!葵さん!」




このあと先生にめちゃくちゃ褒められた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る