第7話 遊びにきた2人


今日は休日だ。

学校も部活もないから、ショッピングモールに行こうと思っている。あおちーを誘ってね。


あおちーと遊ぶ約束ができたから待ち合わせしようかと思ったけど、駅挟むからやっぱり迎えに行くことにしたよ。まじであの子可愛すぎて、電車乗っただけでなんかされそうで怖いからね。わたしが守ってあげるのだ。




ということで家の前につきました。

住所は前もって教えてもらったよ。わざわざ迎えに来なくても大丈夫だよと言われたけど、ちょうど行く道だからと伝えた。本当はちょっとだけ遠周りだけどね。それにしても大きい家だなー。


ピンポーン


「はい」


「佐藤英理です。あおいさんを迎えにきました」


「あら、わかったわ」


声からして多分あおちーのママかな。

あおちーって言いかけたけど、なんとか踏みとどまったよ。こういう礼儀は大事だからね。


待っている間キョロキョロ辺りを見渡す。

こういう時ってなんかドキドキするよね。会えることに期待してるんだか、緊張してるんだかわからない感じ。今は楽しみだけど、ちょっとだけ緊張してたりする。わたしの大切な人に…休日も会えるって思ったから。


「おまたせ」

 

そんなことを考えてるとあおちーが出てきた。

全然待ってないよ!


「可愛い」


あ、間違えた。


「あ、全然待ってないよ」


「たぶん間違えたよね」


「気のせいだよー、つい可愛かったからぽろっと漏れちゃっただけで、間違ってはないよ」


「そっか」


ニコニコしやがって…かわいいけど。

今日のあおちーの格好は、普段の制服の印象からするとかなり違ったものになっている。

まず目につくのが、淡色のデニムに、ピンクのカーディガン×白Tを合わせたコーデ。色合いや服装から、春という季節感を醸し出している。そしてメガネをかけている。これは度が入っていないから、伊達メガネだろうけど、いつにも増して知性や品の良さを感じ取れる。

いや、着こなしえぐいな。


「今日の格好めちゃくちゃ似合ってて可愛いよあおちー。写真撮っていい?」


「ありがとう。好きに撮っていいよ。それと、えりもとっても似合ってる」


「ありがとう!あ、電車もうすぐだからちょっと急ごっか!」



⭐︎



今電車に揺られているんだけど、正直言ってこの状況はかなりキツイです。


簡単に説明すると、都会の電車=パンパンなわけで、わたしとあおちーはギリギリでホームに着いた。それから乗り込むんだけど、1人2人入れるかどうかのスペースしかなった。だからせめて他の人にぶつからないように、私から乗り込んだんだけど、その後あおちーがわたしに抱きつくように乗り込んでしまった。パンパンになっているから身動きするのが大変な状況で、このまま発進してしまったから、今腕の中にはあおちーがいるってわけ。


んー…心臓くんよ…少し静かにしてくれー!


「えり、ありがとね。私のために先乗り込んでくれたんでしょ?」


「まーあおちーを誰にも触らせたくないから」


「私はえりを触れさせたくないよ?」


「そっかー。それならお互い抱きしめてれば大丈夫だね」


完全に墓穴を掘った。わたしが悪いんだけど、

あおちーも大概だからね?



「うん。ぎゅー」



ッッッッッッッか、可愛すぎるんだが…

すいません、うちの相棒が可愛すぎて困ります。誰かわたしの心臓を補充してくれませんか。


今ぎゅーって言ったよ!この子!

こんな彼女いたら一生離せないわ。

それに頬も赤く染めちゃって、恥ずかしいなら別に言わなくてもいいのにいうのがまたいいね。


はぁ、可愛いってしんどい…




なお周りの大人はめちゃくちゃ気まずいものとする。一部は今日の仕事頑張ろうと楽観視しているものもいた。



⭐︎



ショッピングモールにて


英理はとても視線を感じていた。


「(なんか視線感じるなー。でも嫌な視線ではなくて好奇なものを見るような視線なんだよね。わたしに届いてるわけではなくて、むしろ隣の人に向かってる。これは多分あおちーが目立ってるかもなー)」


まぁ、この可愛さなら仕方がない。

というかいつも一緒にいたので忘れそうになるが、あおちーは今まで見た中で一番かわいいのだ。芸能人とかで可愛いなと思ったことがある人はいるが、正直そんなレベルじゃない。

だから視線が集まってしまうことは当然なのだが、見られることは気分的にもあまりいいことではない。


少しだけ睨みをきかせておこう。


「今日の予定は?」


「今日は初めにあおちーのファッションショーでもしようかなーって」


「てことは服屋さんとか?」


「だねー。そしたらご飯に行こう!最近パンケーキハマってるんだよね。だからあのお店行きたい」


「ふふっ、食べ過ぎないようにね」


「もー、太るっていうのー?」


「んーんむしろもっと食べて欲しいかも」


「んーどっちよ!」


一体どっちなんだ?

…そういえばあおちーの好きな物とかあんまり聞いたことないな。聞いてみよ。


「それよりあおちーって好きな食べ物とかある?」


「食べ物かー。甘いものが好きになったかも。特にケーキとか胃もたれしなくて嬉しい」


かも?

なんだか変な言い回しに聞こえたが、甘いものが好きらしい。ケーキもあのお店人気だったからちょうどいいね。それに胃もたれとかするんだ…って思っちゃった。確かに食べすぎるとキツくなることあるけど、なんだか新鮮な感じ。


「ケーキも人気だからちょうどいいね!一緒に食べ比べしようねー。それじゃあ次の質問いいですかー?」


はーいと手を挙げてみせる。


「ふふっ、どうぞ」


うん、かわいいね。

次は聞いたことあるかもしれないけど一応。


「好きなことはなんですかー?」


「好きなこと…楽しいことならなんでもかな」


「そのなんでもを教えて欲しいですー」


「んーそれなら今みたいに遊ぶことかな。私あんまり外で遊ぶって機会なかったから、今日は結構楽しみにしてきたよ?」


あまり外で遊ぶ機会なかった、か…

前も考えたことあったけどやっぱりそうなのかもね。それなら今日を精一杯楽しんで思い出を作ってもらいたいな。


「そっか、それじゃあ全力で楽しまないとね!」


「うん」


「さてさて本日最初のコーナーが見えてまいりましたよー。早速行ってみようー」


服屋が見えてきたので、あおちーの手を引っ張ってお店に入っていく。  


この服屋は若者を対象とした商品が多くある。

ブームが来たりすると、このお店を選んでおけば大体大丈夫っていうくらい品揃えがいいと思う。おかげで私は常連客になっちゃったわけだけど。でもここで少しだけ苦手なことがある。


「いらっしゃいませーっと、これは超可愛い子連れてきてくれるじゃん英理ちゃん」


黒髪に白色のインナーカラーが特徴的なこの人はこのお店の店長である。悪い人ではないけど、この人褒めるのが上手だから、つい買っちゃうんだよね。


「またきちゃった。今日はこの子のファッションショーしたくて。だから手伝ってくれません?」


「むしろ私からお願いしたいところだよ」


「えっと、よろしくお願いします」


白凪葵ですとお辞儀し、じゃあ葵ちゃんねと言う店長。心なしか店長の目がキラキラしている気がするが、なにか変なことはしないだろう。多分。


「それじゃあ早速これ着てみない?」


といって取り出したのは、白色のフリフリワンピースだった。いや、どこからだしたの?


「わかりました」


店長から手渡されたワンピースを持って、試着室に入っていくあおちー。うん、なんかテンポ早いけどわたしも服探してくるか。


「あおちーわたしも似合いそうな服探してくるねー」


正直なんでも似合うからどれ選んでも良さそうだけど、そうだな…ストリート系から行ってみようかな。制服姿はとても可愛いものだから、カッコいい系も見てみたいし。


「ねー英理ちゃん、ちょっといい?」


探しに行こうとすると店長に話しかけられる。

なんだろうか、さっきの目をキラキラさせてたことに関係しそうだが。


「なにー?」


「あの子を賭けてファッション対決しない?」


「というと?」


「そうだな、実は今手元にたまたまスイーツ食べ放題のチケットがあるんだけど、私が負けたらこれを君たちにあげるよ」


ごくり。そこには私たちが行こうと言っていたスイーツ店のチケット。マジで用意よすぎない店長?ちょっと怖いよ。


「勝ったらどうするんですか?変な要求なら飲まないよ」


「そうだな、これはあとで本人にも聞くけど、うちの店でファッションモデルやって欲しいなって。正直今すぐ声かけたいレベルよ」


なるほど。でもこれは本人次第だから私が口を出すべきではないんだろうけど、ちょっとだけ不安だな。


「ならそれは本人に聞いてください」


「んーまぁそうだね。もし葵ちゃんが飲んでくれたらさっきの条件で勝負ね」


気合い入ってきた!絶対に勝つ。




⭐︎




「私は店長のファッションの方が好きかも」


負けちゃった。どうしてだ…

私のセンスは完璧だったはずなのに。


「んー英理ちゃんやっぱりファッションセンスが微妙だねー」


グサグサ刺さる言葉を言ってくる店長。

わたしだって精一杯頑張ったのに…


「そういえばわたしこの店来た時全部店長に選んでもらったんだった」


これはダメ!これはこう!と指導されながら試着した記憶が蘇ってくる。忘れてた、わたしのファッションセンス皆無なんだった。

今日着てきた服も全部選んでもらったセットだからね。これははめられたな。


「でもびっくりしたよ、なんでも着こなしちゃうんだから。これが可愛さの暴力か」


はー、疲れたといって汗を拭うそぶりをみせる店長。まぁ、10着以上は着せたからね。

しかも全部似合う、私が渡したのも含めて。


「それで勝負に負けちゃったけど、あおちーは本当にいいの?」


「ファッションモデルをやるって件?うん、実はちょっとだけ憧れてたりするから」


「そっか、あおちーの可愛さなら余裕で世界一も夢じゃないね!」


「うんうん、青春だねー。とりあえず親御さんにもこの話は通しておいてね。あとこれはお家に送っておくね」


住所教えて〜と言われるあおちー。

どうやら、今日着た服を全部送るらしい。

いや、すごいな?!先行投資らしいけど、断られたらどうするつもりなんだろう。


「あとはこれもあげる。今日来てくれたお詫びだからね」


「え?勝ってないのにいいの?」


「うんうん、最初からあげるつもりだったし、葵ちゃんと契約出来る旨みが美味しすぎるから」


スイーツ店のチケットを渡してくる店長。

なんていい人なんだ。(ちょろい)


「ありがとうございます。それともしファッションモデルやることになったら、その時はよろしくお願いします」


「はー、礼儀正しいなー。英理とは大違いじゃない?」


「なんて失礼なことを」


「嘘だよ、いや嘘じゃないかも…まぁ、置いておいて今日は来てくれてありがとうね。また来てくれることを願ってるよ」


だいぶ時間がかかってしまったから、お昼の時間を少し過ぎてしまっている。わたしたちは貰ったチケットを握りしめて、歩き出した。



⭐︎



歩いている道中知らない人達から話しかけられた。女の人3人組だ。


「あれ、白ちゃんじゃん!」


「わー久しぶり白ちゃん」


「まさか外で会えるなんてね」


白ちゃんということは、あおちーのことか。

なんというか安直すぎる気がするけど、おそらく幼馴染なのだろう。白ちゃんって呼ばれてたんだ。


わたしはあおちーの反応を伺うために顔をみたのだが、違和感を覚えた。


「はい、皆さんお久しぶりです」


それに言動もだ。なんかしっくりこないなー。

幼馴染なのに敬語を使うのだろうか。それにさっきまで遊んでいた顔は自然な笑顔だったが、今の表情は機械的な笑みだ。この3人は気づいていないみたいだけど、こうやって過ごしてきたのか。それはなんというかあまりにも可哀想に思えてしまう。


「隣の人は友達?」


「はい、高校で出来た友達です」


また心なしか辛そうに見える。

何かを必死に隠しているかのような、そんな感覚がする。これは一肌脱ぎますか。


「こんにちは、葵の友達です。久しぶりで話し合いたいのも山々だろうけど、このあと予約してるところあってね。悪いけど急がせてもらうね!」


「あ、うん。引き止めてごめんね」


それじゃあとこの場を立ち去る。

びっくりした顔を見せてくるあおちー。

とりあえずこのままお店まで行こう。

手を引いてお店まで無言で歩いていく。




______________________________________





「いらっしゃいませー、2名様でしょうか」


「はい、チケット使います」


「かしこまりました。こちらにご案内します」


ここまで無言で手を繋いで歩いてきた私達はカフェの席に案内されていた。



あぶねー!えりに高校デビューバレるところだった。まさかこんなところで幼馴染と会うとは思わなかった。あの場ではえりが切り上げてくれたから助かったけど、もう少し話していたらボロが出るところだった。(もう出てる)


それにしてもあの3人とはなぁ…あまりいい思い出がないんだよね。私は高校デビューに命をかけてきたので、小中ともに友達付き合いとかは学校だけで済ませていた。正直精神年齢とかの問題とかあると思うけど、どうにも合わなかったから。だけど、あの3人とは比較的話していた。いや、話していたというよりも話しかけられていただけなのかもしれないけど。もちろん話すことは楽しかったし、話しかけられて嬉しいなとか思ってたけど、時折3人だけにしかわからない話題というものが出てくるわけで。


たとえば、3人で遊びに行ったあそこはすごいいいところだったよねとか、今度またあれ見に行こうとか私が一切知らない話題。こういうのを聞く時ってなんというか、ハブられているわけではないと思うんだけど、疎外感があるんだよね。だからあっちは私を友達と思っていても、私が一歩引いた位置から接することしかできなかった。


今思えば、私から外に遊びに行くのを誘えば良かったのかもしれなかったけれど、あの頃はお嬢様ーみたいな感じだったので、私からは誘いずらかった。


だからえりから今日遊びに行かないかと言われた時は、本当に嬉しかった。お母さんとお父さんに自慢したくらい。


さっきは3人と会った時、色々焦って敬語とかになってしまったけど、えりが庇うように入ってくれて嬉しかった。えりが敬語使ってるところを見た時はびっくりだったけどね。


いろいろな感情が込み上がってくる。とりあえず感謝の気持ちを伝えないとね。



「えっと、さっきはありがとう。えり」


「んーん、わたしは何もしてないよ。それよりあおちーなんか嫌なことあった?」


「どうして?」


「さっき暗い顔してたから」


えりにはお見通しのようだ。

でもさっきってことはあの時だよなぁ…

えりになら…大丈夫かな…


「うん。実は…」



私は中学生の頃の話をした。今まで私は友達という友達ができたことがなかったこと。今日会った3人は友達だったけれど、学校上の付き合いでしかなかったこと。今日になって初めての遊びに行くを経験したこと。



「そっかそっか」


えりは頷きながら聞いてくれた。聞いている時隣に座っていたのだけれど、私のことを抱きしめて落ち着かせるようにトントンしてくれた。


「うん、だから今日えりに遊びに誘ってもらえて本当に嬉しかった。ありがとう」


「どういたしまして。正面から言われるの照れるなー。でも私もあおちーと遊べて嬉しいよ」


「ふふっ、そっか」


「お、やっと笑ったね」


「え?」


「あおちーには自然な笑顔が一番似合うよ。だから無理して笑顔とか作らなくても大丈夫だからね。なによりまたわたしのまえで作ったら、こうしちゃうからなー」


といって頬を引っ張ってくるえり。

私の頬柔らかいのでよく伸びるんです。だけどあんまり伸ばし過ぎないで!


「むーいたいよ」


「すごいこれ、ぷにぷにすべすべだ。なにしたらこうなるんだろう」


えりは本当にいい子だなぁ。

私はこの子と会えて本当に良かった。



あぁ、この気持ちは絶対に言いたいな。



「えり」


「ん?」



「大好きだよ」



「はぇ?……………え?」


ふふっ、顔真っ赤にしちゃって。可愛いんだから。今は2人でいるこの時間をたくさん楽しまないとね。


「さて、注文たのもっか?」


「…うん」

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