スピード
小野和之
スピード
痒い。
いつから?
中学生の頃からだろうか。
生まれる前からかもしれない。
何処から来たものなのか。
どうでもいい。
何をしても消すことはできなかった。
恋もした。
今なら愛のことも分かる気がする。
何かに打ち込んでみることもした。
かけがえの無い物も出来た。
それでも痒みは依然として消えなかった。
痒みは年を追うごとに増していく。
これは俺の中にだけある物なのだろうか?
隣に座っている「かけがえの無い物」も感じているのだろうか?
分からない。
知っていたってどうすることもできない。
治療法もない。
それでもスピードの中でだけ痒みと共存できる。
目一杯にアクセルを踏み込む。
踏み込む。
踏み込む。
突き抜ける。
そして到達する一瞬。
その瞬間だけは何にも縛られない。
自由。
その一瞬にも痒みは入り込んでくる。
ノイズとしてではなく自分自身として。
痒みは無くならない。
ただ、スピードの中のほんの一瞬間の和解。
この先も続く日常。
何も失わない。
何も得ない。
そんな日常はもう来ない。
今までスピードは俺に一瞬をくれた。
これからを代償に。
いつかこうなることも知っていた。
いまこの瞬間、刻一刻と迫るものだけは痒みをなくしてくれるに違いない。
スピード 小野和之 @inkintamushi238
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