嘘つきは〇〇の始まり
「くひひ・・・これで遥を・・・」
銀色の輪を弄びながら、情けなく許しを請う幼馴染を想像してほくそ笑む。
俺が猫耳少女になってから、いっつも遥にいいようにされたし、ネットでは『よわよわ』や『ひよこはく』などボロクソ言われてきた。
だけど!今日からそんなことは言わせない!
俺は漢の威厳を取り戻し、俺こそが最強だと全人類に知らしめるのだ!
手始めに、俺を散々辱めてくれた幼馴染の遥を!理解せるッ!
「これさえあれば・・・ふひっ」
猫耳少女になった今、力で遥に勝つことはできない。
そこで俺は、どうやったら大魔王遥に勝てるか考えた。
何十分か考えた末に、一つの策を閃いた。
『不意打ちすれば勝てるんじゃね?』と。
1対1なら余裕で倒せるザコ敵も、物陰から奇襲されれば、致命傷を受けることもある。
つまり!不意打ちすれば、ゴリラ遥も倒すことができる!
はいそこ、『こはく=ザコ』って思ったやつ、正直に言いなさい。まずはお前からだ。
閑話休題。
不意打ちするとは言え、流石にブン殴ったりはしない。
通販で買った手錠(税込み298円)で、遥を無力化する計画なのだ!
「ふっ・・・」
我ながら、完璧すぎる計画だな。自分の頭脳が恐ろしいよ。
ちなみに、俺の部屋に来るよう遥にメッセを送ってあるから、そろそろ俺の部屋にやってくるはず。
『ドタドタ・・・』
廊下の方から、慌てた足音が迫ってくる。足音の主は、きっと遥だろう。
遥がすぐ来るようなメッセージを送ったが、想定してよりも早い到着だ。
「こはく!大丈夫!?」
「は、はるかぁ・・・」
ぺたんと力なく床に座って、駆け込んできた幼馴染を見上げる。
「緊急事態ってあったけど、どうしたの!?」
「その・・・」
勝手につり上がる口角を必死に押さえつけて、か細い声を絞り出す。
「あのね、朝から体が変なのっ・・・」
「変って、具体的にどんな感じ?」
出来るだけ熱っぽく、吐息を混ぜて言葉を紡ぐ。
いつもと違う俺の様子に、明らかに遥は動揺している。もう一押しと言ったところか。
「体が熱くてっ。おへその辺りがキュン♡キュン♡ってして、辛いのっ」
「え、それって・・・」
大げさに体をくねらせ、うるんだ瞳で遥を見つめ返す。
「これっ、辛いの・・・はるかぁ、たすけて♡」
「・・・っ」
ごくりと唾を飲みこむ音。
俺に向かって伸びる手は、隙だらけだった。
「・・・今だッ!確保ーーー!」
「え!?ちょ、わわっ!?」
間合いに入った瞬間、遥の手首に隠し持っていた手錠をかける。
「勝ったッ!第3部、完!」
「まさか、こはく?」
あーー、笑いを堪えるの辛かったわー!
ちょーーっと色仕掛けしただけで、あんな簡単に引っかかちゃってさ!
「うぇーい!!騙されてやんのーー!ロリコン遥ーーー!」
「・・・最初から騙してたの?」
「まぁ、うん」
遥に送信した『緊急事態』のメッセージも、おびき寄せるための罠。
遥の言う通り、最初から騙していたことになる。
「あーー、でもよかった。こはくが何ともなくて」
「うぅっ」
素直に心配されると、なんか胸が痛む・・・
でも!こうでもしないと、遥を倒せないし!
「・・・別になんともないし。ヘーキだし」
「てっきり私は、こはくに発情期がきちゃったのかと思ったよー」
「は?」
は?はぁ~~~~???
そんな、猫みたいに発情期とかならないが?なんなら、人間は常に発情期なんだが?
「猫じゃないが?」
「・・・それでこはく?私に手錠をかけて何するつもり?」
「へ?」
「まさか・・・この後のこと、何も考えてなかったの?」
「・・・・・・」
そんなわけ・・・ないじゃん?
あ、あれだから。色々ありすぎて迷ってるだけだから。うん。
「何もしないなら、手錠外してくれない?」
「うるさい!今やるとこ!」
完全にナメられている。
まずはしっかり上下関係をわからせてやらないと。
「・・・そうだ!ふへへっ!」
ワキワキと手を動かしながら、無防備な遥にゆっくり一歩ずつ近づいていく。
「おら!くらえ!」
「わっ!?」
遥に飛びつき、女の命とも言える髪の毛をワシャワシャと強引に撫でまわす。
結われていたポニーテールはあっという間に崩れて、好き勝手に髪が跳ねたボサボサの頭になった。
「どーだ!俺に逆らったら、もーっとヒドい目に合うから!」
「・・・こはく、ひどーい」
ふっ、今の俺にとっては誉め言葉だぜ。
そして、ここで間髪入れず追撃ッ!
遥の二の腕を、揉みしだいてやる!
「おぉ・・・おおおぉ!柔らかい!!」
「なに・・・してるの?」
聞いたところによると、二の腕の柔らかさとおっぱ・・・女性の胸部の柔らかさは同じらしい。
まぁ別に?俺はそんな都市伝説、信じてないけど?
「・・・」
「こはく?」
「・・・・・・」
「こはくってば!」
「おわっ!?なんだよぅ!急に大声出すなよ!」
「こはく、鼻の下伸びてるよ」
「そ、そんなことないし!?」
別に!?遥のおっぱ・・・胸になんかキョーミないし!
これが胸の感触かぁ、とか全然これっぽっちも思ってないし!はい、論破!
「こはくが何を考えてるか知らないけど。いい加減、手錠外してくれない?」
「ええーー、もうちょっと」
せっかく遥を倒したんだよ?いつもオモチャにされてる分まで、やり返さないと損じゃん。
手錠の鍵は俺が持ってるんだし、今日一日ずっと手錠つけさせててもいいかもしれない。
「・・・さっきこはくから手錠の鍵盗ったから、もう自分で外しちゃうね」
「ダ二ィ!?」
手錠の鍵は俺の尻ポケットに入れていて、遥が部屋に来てから一度の出していない。
だから、遥は鍵を盗むどころか、どこに鍵があるかも知らないはずだ。
「・・・って、なーんだ。ハッタリか」
慌ててポケットに手を突っ込むと、指の先に硬い金属が当たった。手錠の鍵だ。
ポケットに鍵があるということは、さっきの遥の言葉は嘘だという証拠になる。
「そこにあったんだ。教えてくれてありがと」
「あっ!?こら!返せ!」
安心して気が緩んだ一瞬の隙を突かれて、ポケットから手錠の鍵を奪い取られる。
「こんな簡単な手に引っかかっちゃうなんてねー」
「こ、この!嘘つき!詐欺師!悪魔!遥!」
「でも最初に嘘吐いたの、こはくの方だよね?」
それは・・・あれだよ!コラテラルダメージってやつ!
だから、しょうがないっていうか?
「とりあえず、手錠はこはくに返すね」
「え?あ、うん・・・」
こんな簡単に返してくれるとは思っていなかった。
少し肩透かしを食らったような気分で、手錠を受け取ろうと手を伸ばす。
そのすぐ後に、金属が擦れる音がした。
「これで・・・いいのかな」
「なんで俺に手錠かけてんの!?」
「なんでって、ちゃんと手錠を返してあげたでしょ?」
返してほしかったけど!手錠をかけてほしいなんて言ってない!
「返すって言うなら、鍵もちゃんと返して!」
「髪の毛をぐちゃぐちゃにされた仕返ししてないから、まだ駄目」
「うぐぐ・・・」
確かに、遥の髪の毛ぐちゃぐちゃにしたけど・・・
仕返しって、いったい何するつもりだ?
「こはく髪長いし、色んな髪型にしてみたかったんだよねー」
「ちょ!?やめッ・・・ぎにゃーーー!??!!」
「危ないから、無駄に抵抗しないでね」
「じゃーん!ツインテール!」
「男の俺がやるには、キツくない?」
「そう?かわいいし、私は好きなんだけどなー」
「次はハーフアップだよ!」
「なにこの・・・どうなってるの?」
「こはく似合ってる、可愛いー!」
「今度は編み込み!髪の毛長いと、こういうの出来るからいいよね」
「・・・なんか、頭の違和感すごいんだけど」
「んーー・・・駄目かぁ。雰囲気変わっていいと思ったんだけど」
「・・・結局、ポニーテールに落ち着くのか」
手錠をかけられたまま俺の髪で遊ばれ続け、1時間が経ったところでやっと地獄が終わった。
「色んな髪型にしてみたけど、やっぱりポニーテールが一番好きかなー」
この1時間、中々に辛かった・・・
可愛い髪型にされる度に、男の尊厳がゴリゴリ削られる感じがして辛かった。
「それじゃあ、手錠外してあげるから、手出して」
「・・・ん」
「外してあげる代わりに、今日一日ポニーテールね」
「・・・もしもだよ?もし、元の髪型に戻したら?」
「命の保証はしないかな?」
「・・・・・・なるほどぉ」
ヤバい。顔は笑ってるけど、目が全然笑ってない。怖い。
「・・・今日一日だけなら」
「あと、定期的にポニーテールにしてくれたら嬉しいかな」
「それ、どんどん要求増えていくパターンじゃないの?」
「そんなことしないってば。こはくじゃないんだし」
「俺だってしない!」
思いついたことはあるけど、流石に実行したことはない!
まったく・・・一体俺をなんだと思ってるんだ。
「とりあえず、今日はこの髪にしとけばいいんでしょ?」
「そうだね」
「わかったから、いい加減手錠外して」
遥が主導権を握っている以上、今は大人しく要求に従うしかない。
手錠がかかった手を突き出して、鍵を催促する。
「・・・いや、早く外して」
「もうちょっと目に焼き付けておこうと思って」
「いいから外して!」
「こはくってば、せっかちなんだから・・・」
カチャリ、と音がして、ようやく両手が自由になる。
1時間も手錠をつけていたせいか、妙に疲れた。
「それじゃあ、こはく。約束忘れないでね」
「わかってる」
この程度の仕返しで済んで、ひとまず助かった。
頭を左右に振ると、首筋がペチペチと髪の束で叩かれる。
正直少し鬱陶しいが、遥が嬉しそうだから今日だけはこのままでいよう。
「ね、こはく。今のもう一回やって。動画撮りたいから」
「ぜーったい、ヤだ!」
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