ホワイトorブラッド・デー

『ぴろん!』


両手で握ったスマホが、軽快な音が慣らしてメッセージを送る。

宛先は幼馴染の遥で、送信したメッセージは『今日、家来る予定ある?』の1行だけ。


「・・・むぅ」


流石に、送ってすぐに既読つかないかぁ。

できるだけ早く返信してほしい・・・けど、普通に平日で遥も色々忙しいだろうし、あんま期待しない方がいいのかな?


「・・・」


ずっとメッセを眺めてても、早く既読がつくわけでもない。

それをわかっていても、何となく画面を見つめてしまう。


「・・・あ!きた!」


既読ついた!

1分以内に既読ついたし、もしかして俺、テレパシーでも身につけちゃったかな?


『ぴろん!』


「っと、なになに・・・」


コンビニのフライドチキンでも買ってきてもらおうと考えているうちに、遥から返信がくる。


『なにかあったっけ?』


それで終わらず、こっちが返信する間もなくメッセージが届く。


『もしかしてこはく』

『寂しくなって、私に会いたくなっちゃった?』


「はぁ!?」


そんなわけないし!なーに寝ぼけたこと言ってるんだ、この幼馴染はよぉ!

なに?俺とレスバする気か?お?やるか??


『ちがう』

『ぜったいにちがう』

『ばか』


「・・・よし!」


とりま、こんなもんでいいだろ!あんまり一気に言ったら、遥がギャン泣きしちゃうからね!


『ぴろん!』


お、もう返信きた。ちょっと煽りすぎちゃったカナ^^


『冗談のつもりだったのに』

『もしかして、図星?』


「あっマジ遥、マジで」


調子のってる。マジで遥、調子乗ってる。ぜってーわからせる。


「いくぜ遥ァ!泣いても許してあげないからな!」


「泣くのはこはくの方でしょ?」


「ナャッ!?」


背後から聞こえてきた声に飛び上がる。

なんとか着地して振り返ると、笑みが顔に張り付いた遥が立ち塞がっていた。


「こはく、尻尾太くなってるよ」


「う、うるうる、うるさい!」


そ、それより!なんで遥が俺の部屋にいるんだよ!?

ぜんっぜん部屋に入ってきた音しなかったけど!?っていうか、俺の家来てるんだったらわざわざ返信するな!


「ねぇー、こはく?誰がばかなの?」


「別に!?は、遥のことばかって言ったわけじゃないし!カン違いしないでよねっ!」


「はいはい、ツンデレごちそうさま」


「ツンデレじゃない!」


これ以上、妙な属性を盛ろうとするな!


「まー、なんでもいっか。それじゃあ、こはくに女の子の自覚が足りないみたいだから、躾てあげるね」


「ちょっまっ、早まるな!」


やばいやばいやばい、割とガチめにやばい!

最近、男としての威厳がなくなってきてるような気がするのに、女の子の自覚なんて芽生えたら色々と終わる!それだけはなんとしても阻止しないと!


「ふッ、ふしゃーーー!!!」


「へぇー・・・」


一旦遥から距離を取って、近づいてこないように牽制!

これで少しは時間が稼げる!その間に考えるんだ!この状況を切り抜ける、起死回生の一手をッ!


「しゃーー!!ふしゃーーー!!!」


「・・・」


一瞬動きが止まったものの、それ以上俺の牽制に臆することなく、遥が距離を詰めてくる。


「ふゅ・・・ふ、ふしゃぁぁ・・・」


「・・・・・・」


ついに俺の背中が壁にぶつかって止まる。


「あぅっ・・・」


「さっきの威勢はどうしたの?怯えた子猫みたいに震えちゃって」


遥に追いつめられて、逃げ場はない。

万事休す、と骨を埋める覚悟をしようとした、丁度その時。


足元に見慣れない段ボール箱があるのに気が付いた。


「手取り足取り、私がしっかり躾てあげるね」


「っ!」


遥の腕が伸びるよりも先に、段ボール箱の中に隠されていた小包を手に取り、遥の眼前に突き出す。


「こ、これ!あげる!」


「・・・これ何?物で許してもらおうってこと?」


「そんなんじゃないし!今日が14日だから!」


「だから・・・何?」


「えっ」


「え?」


本気で言ってる?『本気』って書いて『マジ』って読むくらい本気で言ってる???


「だから、3月14日だよ?ホワイトデーしかないよね???」


「あっ、あーー・・・でも、バレンタインにこはくとチョコ交換したよ?」


「ってもアレじゃん。色々遥に手伝ってもらったし、何より俺は男だから!」


ホワイトデーは、バレンタインに物を貰った男がお返しを送る日!

つまり、男の俺が、遥にお返しをする日なのだ!


「ええっと・・・まさか、こはくから貰えるなんて思ってなくって・・・本当に貰っちゃっていいの?」


「当たり前でしょ?と言うか、せっかく用意したんだし、貰ってもらわないと困る」


「それじゃあ・・・開けてみてもいい?」


「モチのロン!」


鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまま、おずおずと小包を開ける遥。

中から現れたのは、パステルカラーの可愛らしい包装に入ったマカロンが6個。


「かわいい・・・そっかー、マカロンか」


「遥、マカロン好きって言ったから」


「・・・それだけ?」


「うん?あ、あと俺のとこのリスナーさんがおすすめしてたから」


「うーーん・・・まぁ、いいか」


マカロンだと何か良くなかった・・・って感じでもないけど?

あ!わかった!あれだな?


俺がすっごくいい物をプレゼントしてくれた!

選ぶのに他のオンナの入れ知恵があったに決まってる!

そのオンナに、俺が取られちゃーう!


って、勘違いしそうになったんだな!

リスナーからアドバイスはもらったけど、実際に選んだのは俺だし、それに俺はみーんなのモ・ノ♡


「ごめんねぇ、遥ぁ?無駄な心配かけちゃったねぇ?」


「何のこと?」


モー、照れちゃって!かわいいとこあるじゃん!うりうりー!


「それはそうと、躾はするからね」


「なじぇ!?」


「こはくに女の子の自覚が足りないのは事実だから。大丈夫、痛くしないよー」


「ちょっおま・・・ぎにゃぁああああぁあああ!!」


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