第23話 クラス(学級)

「今日から編入入学することになったユキ・リバイスくんだ。皆、よろしく頼むぞ」


 朝のホームルームの時間。

 ここは1年1組。

 クラス前方の教壇付近に一人、立たされたユキはクラス担任に、紹介される。


(ひぇーーー、本当に編入になっちまった……)


 ユキは改めて、自身の境遇を認識する。


 ユキの姿を見た生徒たちは、まぁ、多少は興味ありげに彼の姿を見ている。


「ちっ、男かよ……」

「編入生だって……珍しいね」

「どこかの貴族の帰国子女か……はたまた、よほど優秀なのか……」

「しかし、リバイス? 聞いたことねえな……本当に貴族か?」


(ど平民ですよ……!)


 ユキは漏れ聞こえてくるクラスメイトたちの査定に対し、心の中で叫ぶ。


 と……

 よく見ると、クラスメイトの中に、ユキに軽く手を振っている者もいるではないか……


(あ……)


 明るい髪のくせっ毛なのだが、少々、疲れたような、やつれた雰囲気のある男子生徒だ。


(え……? オーエス?)


 アイシャ直属の研究開発室のメンバーの一人、オーエス・フリーであった。


(オーエス、一年生だったのか!?)


 ユキはオーエスの姿を見て、少しだけ安心する。


(っっっ……!)


 と……今度は逆に、ユキのことをめちゃくちゃ睨んでいる人物がいることに気が付く。

 その男子生徒は……すらっとした高身長で、パーマのきいた金髪に赤い瞳、なんとなく高貴な雰囲気がある。


(げっ……! ゲッツェコード……! スパ・ゲッツェコード……!)


 それはアイシャの秘書を務めている子爵家の令息だというスパ・ゲッツェコードであった。

 冷蔵庫の開発期間……なにかにつけて、ユキに突っかかってきた男だ。


(お前も一年生だったのかぁあ!! しかもオーエスとはクラスメイトかよ!)


「では、リバイスくん、あそこの席についてくれ……これ座席表な……クラスメイトの顔と名前覚えるの大変だろうけど、まぁ、若いから大丈夫だろ?」


「あ、はい……」


 担任の指示により、ユキは指定された窓際の一番後ろの席へと向かう。

 スパ・ゲッツェコードがクラスメイトであると知り、ただでさえ、少々、憂鬱であったテンションがさらに下がる。


(あぁ……アイシャ様には申し訳ないけど、正直、学校に編入したかったというと……そうじゃなかったんだよなぁ)


 ユキは確かに半年程前までは、魔法を学びたかったため、高等部への進学をしてみたい気持ちもあった。

 同時に、ユキは前世で学業には苦労していた。

 成績が悪かったわけではなく、成績を維持するために結構、努力していたのだ。

 好きでもないことに努力することは少なくとも楽しいことではない。

 だから今世でその努力をやり直すことについてはやや前向きになれない部分もあったのだ。

 そのため、魔法の才がないことで、高等部への進学が絶たれたことで、学業の道を諦め、仕事に就くことに踏ん切りがついていた状態であったのだ。

 それが、今更、学業に従事しなければならないことになり、気持ちを切り替えるのが、少々、億劫おっくうであった。


(30過ぎると、変化に対応するのが、大変なんよ……あぁ……どうか穏やかな日々が続きますように……)


 そんなことを思いながら、ユキは指定された窓際の一番後ろの席につく。


「ユキくん、よろしくな」


「あ、あぁ……!」


 気付くと、偶然にもユキの前の席であったオーエスが後ろを向いて、挨拶してくれていた。

 ユキの席は窓際の最後部。要するに隅っこであるので、隣接する席は前と右の二つだけ。

 そのうちの前がオーエスであったというわけだ。


(よかった、運がいい。オーエスの近くなのは正直、助かる……)


 ユキはほっとする。


 と……


 一瞬、こちらを見ていた右隣の席の女子生徒と視線が合う。


(……!)


 が、すぐにその女子生徒は視線を逸らして、前方を向いてしまう。


(……)


 普通なら、席が隣りのクラスメイトか……で終わってしまうのだが、印象ゼロというわけにはいかなかった。

 正直、言って、きわめて容姿の整った女の子であったからだ。

 赤みがかったサラサラしたセミロングの髪、気の強そうな釣り目がちではあるが、碧玉のような大きな瞳が印象的であった。


(……綺麗な子だな……えーと……)


 ユキは担任からもらった座席表をちらっと確認する。


〝ルビィ・ピアソン〟


 座席表の通り、ルビィ・ピアソンという女子生徒であった。


 ユキは特に女性に興味がないとか、かなり偏った趣味をしているとか、そういうのはないので、普通に、綺麗なものを綺麗に思うことはできる。

 しかし、本来、35歳であるため、自制心があり、ドキドキするような高揚感や、思春期男子のように、がっつく感じはなかった。


 ◇


 授業が始まっていく。


 科目については、結構、前世での内容と似たようなものもあった。

 国語、数学、歴史といったものだ。


 国語については、ほぼほぼ同じであったし、数学は幸いにも、やや前世よりレベルが低めであった。

 歴史は前世の記憶は役に立たないのだが、純粋にこの世界のことをある程度、理解するのに役立ちそうであった。(ユキは記憶が甦った際に、若年の記憶が少し飛んでいたため、それを補完できる意味でも)

 科目に外国語がないのは正直、助かった。

 学業へのモチベーションが低いユキには新しい言語を覚える気力などない。

(新しいプログラミング言語を覚えるのはそんなに苦じゃないのに)


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【プログラミング豆知識】


 プログラミングには様々な〝言語〟というものが存在します。

 代表的なところで、

 C、C++、C#、JAVA、Python、Rubyなどなど


 それぞれ記述のルールやコンセプトが少しずつ違いますが、本質的にはそんなに違いはありません。

 本作の言語はこれらをなんかごちゃ混ぜにした謎の言語ですので、実際にプログラミングをするときは好きな言語を一つ選んで学んでみてください。

(今から始めるならPythonがおすすめなのかなぁ……)


 WEBサイトを作るためのHTMLやHTML内で動作するjavascriptといった言語は、やれることが違います。

 WEBサイトを作りたいのであれば、まずはHTMLから学んでみるのがおすすめです。

 なお、JAVAとjavascriptは名前は似てますが、全くの別物なので、注意が必要です。


 ゲームを作りたいのであれば、C++に触れた後、3Dゲーム作りに特化したUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンの勉強をすると良いかもしれません。

 小~中学生の場合はScratchというゲームプログラミングに特化した学習言語があるので、そちらでも良いと思います。


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 そんなこんなで、テスト勉強とかしたくないなぁ……とか考えているうちにも授業は進んでいくのであった。


 そして、四時間目……


〝魔法学〟の時間である。

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