第22話 技術移送?

 その日の夕方、ユキは再び用務員の職場へと出向く。


 なんだかんだ、しっかりと挨拶できていなかったからだ。


「あの、短い間でしたが、お世話になりました」


 主任用務員が皆を集めてくれて、挨拶する機会を設けてくれた。


「おー、なんか知らんけど、もっといい職につけることになったのか?」


 主任用務員が尋ねる。


「え、えぇ……なにやら研究やら開発を主にやるみたいです」


「お? なんだ人体実験の被検体にでもされるのか?」


 アイシャに発見されるきっかけともなった魔法による決闘をしかけてきたジェイソンがあざけるように言う。


「おい、お前……!」


 それを見て、イントが怒ってくれる。


「ははは……」


 ユキは苦笑いして誤魔化す。


 ここで王立学園高等部に編入することになったと言えば、皆、驚くだろうし、場合によっては多少はスカッとするだろうが、ユキ自身、それがかなりすごいことであると認識している以上、それを鼻高々に言うのは単なる自慢になってしまうので、自重することにする。

 実際のところユキの中で、ジェイソンを驚かせて溜飲りゅういんを下げたいという感情よりも、ジェイソンのことなどどうでもいいという感情の方が勝るのであった。


「ん。まぁ、どうでもいいが、ユキくん、次の職場でも頑張ってくれ」


 主任用務員がその場を締める。


 そうして、ユキは退職の挨拶を終える。


 ……


「イント……ちょっといいか?」


「あ、おう……」


 全体での挨拶を終えたユキはイントを呼び止める。


「イント……君だけには伝えておきたいのだけど……」


「ん……? どうした?」


「実は……」


 ユキはイントに自身の今後について伝える。

 イントが学園の用務員である以上、いつかどこかでばったり会ってしまう可能性がある。

 この魔王城においては、はっきりいって、学園の生徒の方が用務員より立場が上である。

 ゆえに、編入することを黙っていて、実は生徒になってましたとなると、正直、感じが悪いと思ったからだ。

 他のそれほど関りのない人たちはそれでも良かったが、相方として共に汗を流してきたイントにだけは伝えておきたかった。


「マジかよ……!」


「あ、あぁ……」


「…………」


 イントはしばらく内容をそしゃくするように、沈黙する。


「すごいな……! よかったじゃないか!」


 イントはそう言って、微笑む。


「あ、ありがとう……」


「いやー、なんか急に遠くにいっちゃった感はするなー……とはいえ、実際、〝芝刈り機〟すごいなぁとは思ってたから正当な評価というか……なんというか……」


「……あ、もしよかったらこれ」


「お……?」


 ユキはイントに魔法補助具……〝芝刈り機〟を渡す。


餞別せんべつってやつか?」


「いや、そういうつもりでもなかったんだけど……まぁ、やることは変わっても、割と近くにいるわけだし、もしメンテナンスとか必要だったら言ってくれよな」


「あぁ、ありがとう……」


 イントはお礼を言うと、しばし黙る……


(えーと、一旦、今日のところは目的を果たしたかな……)


 ユキはそう思い去ろうとする。


 と……


「ってかさ、ユキ、毎回、メンテナンスに来てもらうのもなんか悪いし……」


「ん……?」


「メンテナンスのやり方、教えてくれないか?」


「……!」


(……その発想はなかった……!)


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【あとがき】

次話から本格的に学園編入です。

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