第10話 技術的課題★
「…………わかりました。できる限りのことはやってみます」
「ありがとう……」
アイシャはほっとするように軽く息を吐く。
と……
「アイシャ様、お時間です」
研究開発室の外からアイシャを呼びかける声がする。
「あ、あぁ……」
声を掛けられたアイシャはやや緩慢な動きで、研究開発室の出口へ歩いていく。
「ではな、ユキ……頼んだぞ……」
「はい……」
アイシャはそう言い残して、研究開発室をあとにする。
(っっ……!)
と、その瞬間、ユキは鋭い視線を感じ、咄嗟にその視線の先を見る。
すると、アイシャを呼びに来た男子生徒がユキを睨みつけていた。
その男子生徒はすらっとした高身長で、パーマのきいた金髪に赤い瞳で、なんとなく高貴な雰囲気がある。
「……っ」
結局、なにかあるわけでもなく、男子生徒もアイシャの後を追い、去っていく。
(……なんや)
「なんか睨まれてたな」
「……!」
男子生徒とアイシャが去った後、オーエスがユキに声を掛ける。
「や、やっぱりそうですよね……」
「あいつは子爵……ゲッツェコード家の令息で、スパ・ゲッツェコード……アイシャ様の秘書をやっている」
「そうなんですね」
(ひぇーー、貴族様じゃないですか……)
「どうやらあいつはアイシャ様が研究開発室に関わっていることを心よく思っていないようだな」
「え、なんでですか?」
「簡単に言えば、時間の無駄だと思っているのだろうよ」
(……)
「アイシャ様は学生の身にて政治にも関わる様なお方だ。だから、こんな大した成果のない研究開発室などに時間を掛けずに、もっと有意義なことに時間を割くべきと考えているのかもしれないな」
「……なるほどです」
ユキはその時はオーエスの言葉に納得した。
ただ、その後、この内容はオーエスの優しさでもあったことに気付くことになる。
◇
「まだやっていくのか?」
研究開発室にて、オーエスがユキの背中に声をかける。
「あ……もうこんな時間なんですね……」
ユキは窓の外を見ると、夏の長い日もすっかり暮れていた。
どうやら冷却装置作りの作業に没頭していたようだ。
ソレハはいつの間にかいなくなっている。
「あの……もう少し……やっていってもいいですか?」
「初日から頑張るなぁ……」
「そ、そうですかね……」
「まぁ、せっかくのやる気を阻害してしまうのも悪いな。やりたいだけやっていくといい。ただ、帰宅時には施錠を忘れないようにな」
「はい、わかりました」
「ではな! ユキくん」
そうして、オーエスが研究開発室から去り、ユキは一人となる。
(さーて……)
ユキは作業を再開する。
(冷蔵庫……か……)
冷蔵庫……つまるところ家電。
ユキは前世において、プログラマ……コンピュータの中で、動くものを作ることを得意とするソフト屋であり、装置や機械そのものをハード面は専門外であった。
ゆえに前世の冷蔵庫がどのような仕組みで動いているかについてはなんとなくの知識はあったが、詳しくはわからなかった。
(アイシャ様の
低出力の冷却魔法を長く出し続けることであった。
(……ひとまずは難しく考える必要はない)
ユキは夜までの時間を掛けて、
////////////////////////////////////////////
// 弾の初期化処理
time = 0 // 射出時間
interval = 0 // 射出間隔
angle = device.angle // 射出角度
position = device.position //射出位置
size = 2 // 大きさ
power = 0.5 // 威力
attribute = ICE // 属性=氷
speed = 0 // 速度
acceleration = 0 // 加速度
・・・
// 弾の更新処理
position = device.position //弾の位置
////////////////////////////////////////////
非常にシンプルな
基本的な考え方は芝刈り機と同じ。
弾の初期化処理で、弾の初期位置を杖の先端位置(position = device.position)に設定する。
属性を氷(attribute = ICE)に設定し、出力は弱め(power = 0.5)に設定する。
そして弾の更新処理にて、弾の位置を杖の先端位置(position = device.position)にし続け、ずっと杖の先端位置に固定する。
(早速、試してみるか……)
「
杖の先端に冷気を帯びた球体が発生する。
(うん、出力の感じは悪くない)
ひんやりとした冷気が魔法補助具周辺の温度を下げている。
そして……しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。
(……)
「……
しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。
「……
しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。
「……
しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。
「………………」
(いやいやいや、これ無理でしょ! 人間がずっと
ユキは頭を抱える。
と、そこへ……
「ユキ……か……?」
(……!?)
ユキ一人となっていた研究開発室に透明感のある声が響く。
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