第3話

それから3日ほどいつもより早く散歩に行くようにしていたが、今日は家を出るのが少し遅くなってしまった。


いつものように歩いていると近所のおばちゃんの野村さんと会った。



「あら明ちゃん、ちょっと待っててな」



そういうと野村さんの自宅である昔ながらの立派な自宅に一度戻り、普通より1、5倍くらい大きな大根を持ってきた。


「これ持っていき」

「え、いいんですか」


どうやらたくさん大根がとれたようで、配っているらしい。


そこから少し世間話をして、この子を撫でると、また自宅に戻っていった。


ここにきてすぐは、働かずに祖父の家で居候している私がどんな目で見られるのか怖かった。


でもここの人たちはみんな温かくてみんな気さくに話しかけてくれる。


ふといつもの散歩ルートを歩いていると気づいてしまった。


大根を担いで、この子と散歩している自分の姿があまりにも異様すぎる。


しかし、いったん戻るには距離があるので、このまま家には帰らないことにした。


今日はおじいちゃんからリンゴのお使いを頼まれている。


家からすぐのスーパーでもいいのだが、どうしても寄りたいところがある。


いつも歩いている散歩ルートの折り返し地点から少し土手を上がり、また住宅街に入っていくと昔ながらの果物屋がある。


そこのリンゴはどれも甘くておいしい。


売り場を見てみるとミカンもおいしそうだったので個売りのものを一籠分買った。


寡黙な店主のおじさんは、ミカンとリンゴを紙袋に包み、私が持ってる大根を見て一番大きなビニール袋を用意してくれた。




果物屋から数分、まだまだピンピンしているこの子には申し訳ないが、体力の限界がきてしまったので土手の上のベンチで休憩することした。


下には並木道と赤い葉がたくさん浮いている川が見える。

秋の心地よい気温といつもより強い風のなかで先ほど買ったミカンを剥く。


この子にも一つずつ割って食べさせてあげた。


こんなにおいしいミカンに慣れてしまったら、もう他の物は食べれないなと考えていたら、ふとかなり強い風が吹いた


その瞬間ベンチの隣に立てかけていた紙袋が倒れ、リンゴとミカン極めつけには野村さんにもらった大根までベンチから落ちてしまい、角度のある土手から下の並木道の通りに向かって転がって行ってしまった。


慌てて大根とミカンを拾うが間に合わず、土手からリンゴとミカンが落ちてしまった。


柵から身を乗り出すといつものキャップを被ったあの男性が走ってきているのが見えた。



「危ないっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小春日和 @touka1212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ