第24話:CQB(近接戦闘)

 集落にある粗末なテントの破壊。


 それから隠れているゴブリンを殺す作業が開始された。


 CQB(Close Quarters Battle)と呼ばれる状況だ。


 元々は占拠された建物などに突入し、人質を救出したり殲滅したりする目的の近接戦闘を指す言葉だ。


 状況的に接近戦になりやすいので、私はSCAR-Lの銃床(ストック)を肩に付け、銃口を下に向けるローレディポジションと呼ばれるスタイルで移動を開始する。


 そうしてテントを破壊してまわっていると、わずかに啜り泣く声が聞こえてきた。


 足元にいたケダマが真っ先に反応。


 そちらへ顔を向けた。


 私もそちらへ向く。


 そして恐る恐る、その一際大きなテントに近づいていった。


 そして入り口から薄暗いテントへと踏み入っていく。


 臭く、汚い部屋だ。


 私のカバーをする為にセーラが後ろから付いてくる。その表情はかなり険しい。


「コウメちゃん。何を見ても冷静にね?」


 そんな呟き声が聞こえてきた。そしてやはりというかテントの奥には人が居た。


「人間の、女性……」


 そこには薄汚れていはるが人間の二十代ぐらいの女性が居た。


 全裸だ。


 その表情にはほとんど生気はない。


 無表情で一点を見つめているだけ。


 私の表情が固まる。


 全身が氷漬けされたように寒い。


 手が震えているのが自分でも分かる。


 そこへ「だ、れ?」と言う、か細い声も聞こえた。私はビクリとして、そちらにも視線を移した。


 そこには十代半ばぐらいの人間の女性が居た。


 やはり全裸だ。私はその子の全身を見る。そこかしこが擦り傷や青あざだらけで、その痛ましさに言葉を失った。


 私を見た少女がポロポロポロと泣き出した。


 そして私に向かって「助け、て」と手を差し出してきた。


 思わず手を伸ばした。


 そして少女の手を握る。


 グローブ越しにとはいえ、その手に確かに命を感じた。


 しかしその女の子は続けてこう言った。


「私、を。殺して。下さい」と……


 私は今にも泣きそうだ。首を左右に振る。しかし少女は言う。


「私のお腹に、ゴブリンの赤ちゃんが……居ます。殺して、下さい」


 そう言ってやはりポロポロと泣く女の子。


 私は思わず後退り、そしてテントを出た。


 そこで尻餅をつく。


 頭がグワングワンとする。


 今にも意識を失ってしまいそうだ。


 そして胃から込み上げてくる物を吐いた。


 しばらくそうやってゲェゲェとやっていると、セーラがテントから出てきた。


 その手にはナイフが握られている。それに気が付いた私はセーラに問う。


「こ、殺したの?」


 セーラが静かに頷く。


「こうしてやるのがいいんだよ。生きるているより、死んだ方が良いこともある」

「でも……」

「コウメちゃん。ゴブリンの子供を生んだ女性が、その後の人生をまともに生きられると思うの?」

「……」

「かわいそうだけど、そういうこともあるの。分かって」


 私の全身が震える。それは力として全身を駆け巡った。私は拳を地面に打ち付け立ち上がった。


 これがゴブリンのすることなのだ。


 そういう生態だとしても、やはり許せるものじゃない。


「殺してやる!」


 銃を構え、私は今まで以上に真剣にゴブリンを探す。その様子を見てセーラは少しだけ安心したようだった。


 その後も集落を壊して歩いた。


 人間の女性が何人か見つかったが、全員が死を望んだ。


 そしてその全員が妊娠していたので殺した。


 私も女性を二人殺した。


 自分だけが綺麗事を言っていてはいけないと思ったからだ。


 ナイフでなるべく対象の女性が苦しまないように。ひと思いに殺した。


 これらが私の最初の殺人となった。


 殺した女性の中で最後に「ありがとう」と言って笑った女性が居た。それはいくらか私の心を楽にしてくれた。


 私は一生、今日のことを忘れないと心に誓ったのだった。

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