第25話:ゴブリンキング

 ゴブリン達の笑い声がする。とても耳障りな声だ。その中でも一際大きな声で笑う身体の大きなゴブリンが居た。


 そしてそんなゴブリンたちに捕らえられた人達の悲鳴が聞こえる。


「やめてくれ! 助けてくれ!」


 次第に、その声が大きくなる。


 最初に気が付いたのはケダマだった。


 ケダマが不意に集落の入口へと目を向けたのだ。


 私もそちらに目を向ける。


 そこにはゴブリン達に小突かれながら、歩かされている『餓狼』のメンバーが居た。


 あのリーダーと罠男だ。


 他は串刺しにされてはりつけにされている。すでに死んでいるようだ。


 それを見た私は真っ先に動いた。


 SCAR-Lのセレクターをフルオート射撃に変えて、立ち射ちの姿勢から一気に掃射する。マズルフラッシュが瞬き、辺りにタタタタタタタと銃弾が飛び交った。


 もちろん『餓狼』のリーダーと罠男は避けてだ。


 ゴブリン達の血肉が辺りに飛び散る。


 そして一際大きいゴブリンキングにも狙いをつけて撃とうとした。


 しかしゴブリンキングは今まで殺した冒険者達の装備をしていたのだ。


 兜や鎧を身にまとっている。


 簡単には銃で撃ち抜けないと判断。


 特に頭は難しいだろう。


 一瞬だけ私は攻撃をためらってしまった。


 その隙きにゴブリンキングが『餓狼』のリーダーと罠男を盾にしたのだ。


 彼らの首根っこを押さえて。それで私は銃撃を止めた。


 憎い相手だが殺すのは、さすがに戸惑われた。


 それを知ったゴブリンキングがニヤリと笑う。


 その間も『餓狼』の生き残りの二人は助けてくれ、と泣き喚いていた。


 私は銃から弾倉を一度抜き、予備弾倉へとリロードする。


 そして何時でも撃てるように銃床(ストック)を頬骨の下部を押し当て、サイトスコープを覗き込みながら待機する。


 精密射撃を行うためにセレクターはセミオートにしておくのも忘れない。


 セミオートとはトリガーを引いた分だけしか撃てないモードだ。


 立ち姿勢のままで合図を待つ。


 場が完全に膠着してしまった。クレアスが私に近づき小声で質問を始めた。


「人質ごと殺れるか?」


 私も小さく返す。


「いいの?」

「状況が状況だ。殺しても仕方がない。殺さずに済むならそうしてもいいが」


 そうやって小声で相談していると、ゴブリン達の後方が騒がしくなった。何事だろうと思っていると、どうやらもう一つのパーティ『紅の風』がゴブリン達を強襲しているらしい。


 ゴブリンキングが後ろを見た。その瞬間。


 私は餓狼の二人のわずかな隙間から覗くゴブリンキングの側頭部を撃った。


 ターンと言う乾いた発砲音が辺りに響く。弾丸は兜の側面を滑っていったようだ。運が悪い。


 撃ち抜くことは出来なかったが、その衝撃には驚いたようだ。


 ゴブリンキングの注意がこちらに向いた。


 完全に挟み撃ちの状況。


 その状況に我慢がならなかったのかゴブリンキングが、その手に握っていた二つの命を握りつぶした。ゴキュリという首の骨が折れる音が当たりに響く。


 人質の居なくなったゴブリンキングに私は、さっそくセレクターを三点バーストの切り替えて、キングの胴体を撃った。胸には鉄製の鎧を纏っているが構わず撃つ。撃つ。撃つ。しかしゴブリンキングの歩みが止まらない。


 私は悪態をつく。


「くそ!」


 そこへクレアスが前に出た。


「オレに任せろ」


 そしてその大きな両手剣を上段に構えて、一気に振り下ろした。ゴォンっという風切り音。それをゴブリンキングが持っていた両手剣で防いた。そこからは二人の一騎討ちが始まった。剣技とも呼べないようなキングの剣だったが、しかしその腕力と反射神経で、クレアスの剣技を圧倒している。そんな二人のやり取りの側では、相変わらず『紅の風』がゴブリンを狩っているのが見える。


 私はゴブリン討伐を『紅の風』に任せて、しばらくその剣の応酬を見つめていた。そして思わず呟いた。


「凄い……」


 まるで竜巻が暴れまわっているような、その様に魅入っていたのだ。


 しかし。しばらくすると、やはり体力の差が出始めた。


 クレアスの方が押され始めたのだ。


 私は銃を再度、構えた。


 サイトスコープを覗き込み、モードをセミオートにして、その瞬間を待った。


 しばらく待っているとクレアスの剣が力負けして、弾き飛ばされた。


 尻餅をつくクレアス。


 そこへ振り上げられるゴブリンキングの両手剣。


「顔を上げたね?」


 上に逸らされた上体。眉間が顕わになっている。


 私はその眉間に向けて引き金を引く。ターンという発砲音。振り上げられたゴブリンキングの剣は振り下ろされること無く、そのまま胴体は後ろへと崩れ落ちたのだった。


 その頃にはゴブリン達の掃討もほぼ終わっていたようだ。『紅の風』がゴブリンの死体を踏みしだきながら、クレアスの下へ。そして一言二言、交わして去っていったのだった。

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