第23話:ゴブリンの生態

 少し回り込む形で移動を始めるクレアス。私は隣りにいる寡黙なクロトに質問してみた。


「この道でいいの?」


 これにクロトが頷く。そしてポツポツと話し始めた。


「だいたいだが、この森の中間層までの地図は頭に入っている。だから森のどの辺に集落を作るだろうという予測も立てている。道的には、さっきの『餓狼』の連中の方が近道だが、そこは奇襲がされやすい地形になっている。そこを避けて回り込む」

「奇襲のされやすい地形? って事は見通しが悪いの?」

「そうだ。それに崖に挟まれる形になっていて、上を取られると厄介だ」


 私はなるほどと頷いた。しかしすぐに疑問も浮かび上がってきた。


「ゴブリンって地形を利用するな知能まであるの?」

「何とも言えん。だがキングが居るからな。キング次第だ」


 クロトとそんな会話を交わしつつ道なき森の道を進む。すると遠くの方で怒声が聞こえてきた。


「どうやら始まったようだな」


 クレアスが『餓狼』達がゴブリンと遭遇戦になったと告げた。セーラがわずかに眉をひそめる。


「あいつら大丈夫かな?」


 しかしマチルダが冷たく言い放つ。


「知らないね。でもあれだけ自信満々だったんだ何とでもするんじゃない?」


 クレアスも頷く。


「俺達は、集落の方を落とそう。もし苗床になっている人間の女性がいたら救出するのが最優先となる」


 私は疑問に思ったので質問だ。


「ゴブリンって繁殖に人間を使うの?」


 クロトに尋ねたが、口ごもってしまった。代わりにマチルダが話す。


「そうだ。ゴブリンにメスは居ない。だから繁殖に人間の女性を攫ったり、まぁ後は大型の動物で繁殖したりするんだ。だからゴブリンは忌み嫌われているんだよ」

「……」


 私はその悲惨な言葉に押し黙る。ゴブリンに犯され、その上に子供まで孕ませられ最悪だと言っていい。わずかにゴブリンに占拠されたという村のほうが気になった。それに気が付いたのかセーラが言う。


「コウメちゃん。私達は私達にできることをやるだけだよ。あちらはあちらに任せておけばいい」


 私がコクリと頷く。そういう人が居ませんようにと心から願って。


 そうして主戦場を回り込みゴブリンの集落の横へと到着した。そこには粗末なテントからゴブリンが出撃する姿が見える。ゲンゼンがクレアスに向かって笑う。


「おうおう。ゴブリン共がわんさかだ。『餓狼』どもの方へ向かってんな」


 クレアスが「よし行くぞ! ゴブリン狩りだ」


 そう言って、集落へと気負う様子もなく入っていく。そして虐殺が始まった。


 粗末な木と草で出来たテントから、パラパラとゴブリンが出てくる。


 それをハインスの弓が射抜いていく。


 私はまだ発砲しない。


 音が大きすぎるためだ。


 現在ゴブリンたちの主力は集落の正面にある。


 せいぜい『餓狼』たちには囮役を頑張ってもらおうというわけだ。


 その間に集落を破壊する。それも迅速かつ確実にだ。


「よし、手分けしてゴブリンを狩る。ただしキングを見つけても手を出すなよ。キングは全員で当たる」


 私は質問のために手を上げた。クレアスが片方の眉を上げて質問の先を促す。


「キングと普通のゴブリンとの違いは?」

「まず大きさが違う。体長はまちまちなんだが恐らくオレぐらいの身長はあると思っていい」


 だいたい180センチぐらいかなと当たりをつけ、「分かった」と頷いた。クレアスが指示を出す。


「ゲンゼンとマチルダはオレと。セーラはコウメと組め。クロトは、何時もと同じようにハインスとだ。それじゃあそれぞれ散開だ。先程も言ったが女性を見つけたら保護を優先してくれ。ただし…… もし女性たちがゴブリンの子を宿しているようなら…… 苦しまないように楽にしてやってくれ」


 その場にいた全員が何とも言えない顔で頷いた。


「よし、村を落とすぞ!」


 こうして集落への襲撃が始まったのだった。

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