第6話:街へ

 相変わらず馬車の荷台でゴロゴロしているとオジサンが声をかけてきた。


「おう。コウメちゃんよ。地平線の先に城壁が見えてきたぞ」


 呼ばれて勢いよく体を起こし、地平線の向こうに視線を向ける。すると確かに遠くにポツンと小さな白い建造物郡が見える。


「うぉおおお! まだまだ小っちぇええ!」

「わはは。そうだな。まぁそれでも後もう少しの辛抱だ」


 陽は少し傾いた程度。地面に写る影は色濃く小さい。夕方前には着きそうだと私は安心したのだった。


 それから小一時間ほど馬車に揺られていると、徐々に大きくなる建物郡。それらを囲う城壁の大きさに私は驚きの声を上げた。


「すっご!」


 城壁は一〇メートルほどの高さで、その周りには溝が掘られて水が流れている。いわゆる堀だ。門には橋がかけられ、その上を人々が往来している。


 出るのは自由らしいが、入るためには何かが必要なようで兵士と何やら軽くだが問答を行っている人もいる。


 当然、彼らがどんな会話をしているのか気になったのでオジサンに聞いた。


「おじさん。中に入るのに何か必要なの?」


 オジサンは頷く。


「おう。お金が必要だぞ」

「え! 私、無一文だよ?」

「そこはほれ、先程のゴブリンの魔石があるだろ。お金は俺が払うから魔石を寄越せ」


 私は言われるがままに五個の魔石をオジサンに渡した。


「ん。これで入城料分だな。あとは街に入ったらそのナイフを売ると良いぞ」

「え! このナイフ売っちゃうの!」

「おう。ちゃんとは見てねぇけど、結構良いナイフだろそれ? 売って資金にしたほうが良い。無一文じゃあ冒険者登録もできねぇぞ?」

「あぅ、冒険者登録にもお金がいるんだ……」

「たりめぇだろ!」

「うぅん。ま、いっか。何とかなーる」


 こうして入城料を払うために並んで待っていると、順番が回ってきた。オジサンが二人分の支払いを済ませる。


「よし。通っていいぞ」


 そして何事もなく通過。ちょっとドキドキしていのに肩透かしを食らった気分だ。


「何事もなく通れたね」

「おうよ。まぁ何かあったら困んだけどな」


 それもそうかと頷き、街の中へと入った。


 街の中に入って最初に気になったのは、その匂い。


「うん。臭い!」

「おう。街の匂いだな」

「うぇええ! これは結構きついね」

「しょうがねぇさ。人間が密集して生活すりゃ、こんなもんだろ」


 街の中には、豚が放し飼いされており、地面をフンフンと匂いを嗅ぎつつ何やら食べている。一応地面は石畳が敷き詰められてはいるが、決して綺麗とは言えない環境だ。


「あっ」


 そこへ目の前にいるオジサンの馬が糞をぼたぼたとこぼした。


「どうりで臭いはずだよ……」


 納得した私は、げんなりとした様子で地面から顔を上げて建物を見る。


 その基本は石造りだが、ほとんどの部分が木造で結構背が高い。四階や五階建てまでが普通にある。


 次に気になったのが街の人達の服装だ。チラホラと鎧を着た人も見えるが、それ以外は何やら粗末な服を着ている人ばかりだ。自分の服との違いを感じたので、オジサンに尋ねてみた。


「服…… 変えたほうが良いかな?」

「あん? そうだな。今の見た目だと道化師にみえるぞ?」

「道化師?」

「旅芸人だな」

「ふぅん。いちおう私みたいな格好がいないわけじゃないんだね?」

「まぁ…… いちおうな」


 そう言って苦笑いをするオジサンだったが、私は、まぁいっかと気にしないことにした。


 こうして大通りをポクポクと進む。


「どこに向かってんの?」

「おう。とりあえずコウメちゃんを冒険者ギルドで降ろそうかとな」

「ふぅん、そっか、ありがと。そこでお別れだね?」

「おう。短い旅だったが楽しかったぜ」


 そう言ってオジサンが笑う。私も笑顔で「あんがとね」と返す。

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