第8話:パンとひとつになれた喜び。
俺は無性にノルンを抱きたいって思った。
「腹も太ったし・・・行くか・・・もう倉庫はごめんだから・・・どこかで泊まらなきゃな」
「さ、行くか・・・どこかで泊まらないとな」
「この先に行ったら駅があるはずだから旅館かホテルでも探そう・・・」
ふたりの乗ったバイクは街の中に入っていった。
「俺、慌てて飛び出してきたから現金持ってないからなカードでもいけるだろ?」
「ビジネスホテルでいいよな」
「パンちゃんと一緒なら私はどこだっていいよ」
ふたりは駅前の安そうなビジネスホテルを見つけた。
「ひとり一泊5,000円か・・・ま、いいか」
「ここにしよう」
パンは当然のようにダブルの部屋を取った。
「一人の部屋で寝るのは寂しいもんな」
「そうだよ」
「もう、いつだって一緒だよ」
「それに、もうそろそろいいでしょ?」
「いいでしょって?・・・なにが?」
「エッチ・・・」
「エッチって・・・逃げてる最中にか?」
「寂しい者同士、温め合いましょう?」
「って言ってもな・・・いざとなるとさ・・・躊躇しちゃうよな」
「案外臆病なんですね・・・・」
「臆病なんかじゃないよ」
「愛し合ってる者同士が求めあって、それって不自然なの?」
「そうは言ってないけど・・・」
「私が欲しくないの?」
「そんなことないよ・・・正直ノルンを抱きたいって思ってる」
「だったら・・・ね」
「ノルンは積極的だな・・・分かったよ・・・」
「本当は私、パンちゃんに抱いてて欲しいの、じゃないと不安で怖いの」
「そのうち捕まっちゃって、もうパンちゃんと会えなくなるんじゃないかって
思って・・・」
「だからパンちゃんに、この私の胸の震えを止めて欲しい」
「分かった・・・分かったから・・・」
その夜、ノルンはパンに抱かれた。
って言うか、さすがセックスに特化したガイノイド「インスタント」パンのほうが
ノルンのテクニックに目を丸くした。
ノルンは泣いていた。
ようやくパンとひとつになれた喜びに・・・。
たとえこの先パンちゃんに会えなくなってもパンちゃんとのつながりは私の心に
永遠に残るから・・・ノルンはそう思った。
次の朝、パンはザルに連絡した。
「あ、ザル・・・俺」
「おお、パン・・・おまえ今どこにいるんだ」
「東条って駅のビジネスホテル・・・」
「おまえら、無事なんだな」
「ああ、今のところな・・・ 」
「すぐにここを出ないと見つかるかもしれない」
「俺たちがまだ無事だってことだけおまえに伝えておきたかったんだ」
「そうか、逃げおおせることを祈ってるよ」
「それから俺のほうの段取りも大方目処がつきそうだ」
「段取りって?」
「替え玉を使おうって言っただろ?」
「よく分かんないんだけど?」
「いいか・・・俺は処理場で廃棄されたノルンちゃんとよく似たガイノイドを探して、そいつの襟首にノルンちゃんと同じ番号とバーコードをすげ替えてガイノメディックに送ってやったんだ」
「うまくいきゃ・・・そのガイノイドがノルンちゃんだと思ってくれりゃシメた
もん・・・もう、おまえら逃げ回らなくて済むって寸法」
「そんなんで誤魔化せるのか?」
「案外、壊れたガイノイドの肢体なんて詳しくチェックなんか入れやしねえよ」
「それに向こうだって余計な金は使いたくないだろ?」
「早く済ませたいはずだろうからな・・・」
「ま、それにひとりやふたりくらい逃げたヒューマノイドが見つからなくても
どうでもいいんじゃねえか?」
「そうか・・・まじですまんな」
「俺たちのために手間かけるな・・・助かるよ・・・感謝」
「うまく行くこと祈ってるよ・・・じゃ〜な、また後で」
つづく。
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