第7話:逃避行のはじまり。

パーティーのみんなは今夜、別荘に泊まるようだった。

酒が入ってない奴は誰もいなかったからだ。

酒がはいってちゃ車は出せない。


飲酒運転で帰ろうってバカはいないみたいだ。

なんせ今は酒を飲んで車に乗って、おまわりに捕まったら目玉が飛び出るくらい

罰金を取られるし、豚箱にも入らなきゃならないからな。


朝になって俺とノルンが起きた時には別荘はもぬけのからだった。

みんな早々に帰っていったようだった。


朝をのんびりとノエルと過ごそうと思っていたらザルから連絡が入った。


「パン・・・そこから彼女ちゃんを連れてすぐに出ろ」

「そこももう、ヤバそうだ」


「分かった・・・ノルンを連れてすぐに出る」


俺はノルンを連れてすぐに別荘をあとにした。

念のため裏道から別荘を降りることにして正解だった。


別荘を後にするとき別荘まで上がって来る道からパトカーとジープの姿が見えた。

きっと警察と賞金稼ぎだ・・・きやがった。


「いい加減諦めろよ」


パンは相手に見つからないよう裏道に出てそのまま突っ走った。


「さて、これからどっちに向いて逃げるか・・・」


追いかけるより、逃げるほうが不利に決まっている。

動物は獲物を追うのに獲物が疲れてへたばるのをじっくり待って弱ったところを

襲うって言う。


だから逃げるほうが不利なんだ。

奴らだってノルンを連れ去るのに慌てて失敗するより俺たちが根をあげるのを待って

から捕まえたほうが理に叶ってるだろう。


「逃避行だ、ノルン・・・こうなったら、どこまでも逃げるぞ」


「はい、私ついていきます」

「パンちゃん、こんなことになってごめんな」


「また、そうやって謝る・・・謝らなくてもいいよ、ノルンが悪いわけじゃない」

「こうなったら絶対賞金稼ぎにおなんか、おまえを渡さない」

「飛ばすぞ、ノルン・・・しっかり俺にしがみいついてろよ」


「うん、しがみついてる」


ノルンはパンの腰に腕を回した。

大きくて暖かな背中・・・ノルンは背中にぴったり張り付いた。

それだけでノルンはほっこりした気分になった。


どこまで逃げるのかパンにもノルンにも分からなかった。


「とりあえず港の工業団地へ行こう」

「あそこなら使われてない倉庫や工場がたくさんあるからな」

「どこかに紛れ込めば見つからないだろう」

「当面はそこで一晩しのいで朝早く東へ走ろう」


ノルンに、そう言うとパンは港へ向かって走った。


さすがに大型バイク、下手にアクセルをひねると体が車体から置いていかれそうに

なった。


(乗ってたら、そのうち慣れるだろう)


「ノルン、寒くないか?


「大丈夫・・・パンちゃんの背中があったかいから・・・」


30分くらい走って、港近くに来たふたりは破棄された倉庫か工場を探した。

気をつけないといけないのは場所によってはパンと同じくらいの若いやつらが

自分達のたまり場にしてることがある。


そう言うやつらと遭遇するのは避けたい。

だから、誰もいない建物を探した。

何軒かで見つけた倉庫・・・勝手ドアには運良く鍵もかかってなかった。


パンは倉庫の中にバイクを押して入ると、ふたりでそこで一晩過ごすことにした。

スマホの明かりが、ふたりの顔を照らしていた。


「腹減ったよな・・・」

「ノルンはいいな・・・腹減らないんだもんな」

「まあ今晩一晩の辛抱だ」

「ごめんな、ノルンこんな惨めな思いさせて」


「今度はパンちゃんが謝ってる・・・」

「いいんだよ・・・気にしないで、私感謝してるんだよ」

「私はパンちゃんといっしょならどこだっていい」

「でも、これって恋のアバンチュールだよね」


ノルンは分かってか分からずかそう言った。


「そんな言葉よく知ってるな・・・もう死語だぞ」


「歴史は繰り返されるの、言葉だってね」

「私の脳はいろんな時代の情報も入ってるの」


「俺は勉強が嫌いだったから・・・頭の出来はノルンの方が上だな」

「こっちへおいで、いろいろ俺に教えて」

「それに寒いだろ?・・温めてあげるから・・・」


「それって反対だよ・・・私のジェネレーターを少しヒートさせたら

暖かくなるよ・・・私がパンちゃんを温めてあげる」


ふたりはそこに落ちていたダンボールにくるまって抱き合って寝た。

次の朝、倉庫をでようと思ったが外は雨が降っていた。


車ならなんてこともなかったがバイクじゃずぶ濡れになってしまう。

ふたりは足止めを食らった・・・結局、雨がやんだのは夕暮れになってからだった。


その間もパンとノルンはいろいろ話したし、ノルンはエネルギーをチャージ

するためには眠ったりした。

雨が止むのを待つだけの時間・・・長い1日に思えた。


「ノルン、雨が上がったみたいだし、そろそろ出かけるか」


パンはまたノルンをバイクの後ろに乗せて東へ向かって走った。

バイクは港の路地を抜けてメインストリートに入った。

そこから環状線をひたすら走った。

日は西に傾き眩しい太陽を背に東に走った。

夕日が西に沈み始めていた。


「ったく・・・真冬じゃなくてよかったよ・・・」


直線の道路はやがてやがて海岸線へと変わって左側に海が見える場所に出た。

暗い海・・・右の小高い丘には大きな風車が何本も立っていた。

長い道が過ぎる頃、街の灯りが見えてきた。

しばらく行くとコンビニがあった。

パンはコンビニで晩御飯を買ってコンビニの前のベンチ座って何種類か買った

おにぎりを食べた。


「美味しい?・・・」


「美味い美味い・・・この美味いって感覚ノルンにも教えてやりたいよ」


そう言ったパンに屈託のない笑顔を返すノルン。


「可愛い・・・まるで俺と逃げてることを楽しんでるみたいだな」

「無防備なその笑顔をみてるだけで俺はノルンが愛しくてたまんないよ」


俺は無性にノルンを抱きたいって思った。


「腹も太ったし・・・行くか・・・もう倉庫はごめんだから・・・どこかで泊まらなきゃな」


つづく。


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