第6話:別荘とノルンの意外な才能。

とりあえず俺はノルンを連れてザルのアジトに転げ込んだ。


「まあ、狭っ苦しいけどな・・・辛抱してくれ」


「大丈夫だ・・・雨風凌げて眠れさえしたら狭くても平気だよ」

「ほら、ノエル・・・ゆっくりさせてもらいな」


「パンちゃん、横にいて」


「こっちへ・・・怖くないからな」


「あのさ、パン・・・ここも、お前んところと一緒で案外都心に近いからな、

そのうち警察の手が回ってくるかもしれねえ」

「そこでだ・・・俺の叔父貴が山に別荘持ってんだ」

「それに丁度今、俺のダチが誕生パーティやってるから、その中に紛れ込めばいい」


「たぶん警察も別荘までは、まだ目をつけてないだろうからな」

「俺は俺の仕事があるし・・・それに、この子のことについてちょっといい考えが

浮かんだから俺はそっちを優先する・・・どうだ?俺に任せてくれるか?」


「いい考えって?」


「替え玉を使おうってわけさ」


「替え玉?」


「とにかくその間、おまえら逃げおおせてくれさえしたらいいんだ」


ザルがいったい何を考えているのかはそれ以上は言ってくれなかったから

分からず仕舞いだったが、とりあえず俺とノルンはザルの叔父貴の別荘とやらに

世話になることにした。


「パン、俺のバイク貸してやるから、それで行け」


そう言うとザルは倉庫からバイクを引っ張り出して来た。


「しばらく乗ってないけどまだバッテリーは上がってないだろう」


排気量1000ccのスパーツタイプ・・・車をぶっちぎるには充分なスペック。

バイクはセル一発でエンジンがかかった。

頼もしい音だ。


「なにもかも、すまんな」


「昔、俺がグレてた時、おまえにはずいぶん世話になったからな」

「それに、こんなこと言うとおまえに、どツカれるかもしれねけど、久しぶり

のスリルで体が喜んでるんだ」


「あの、ザルさん、ありがとうございます」


ノルンは俺の後ろから、お礼を言った。


「な〜に・・・ノルンちゃん・・・絶対助けてやるからな、心配いらねえ」


「はい、よろしくお願いします、私頑張ります」


「おう、せいぜい頑張りな」

「いい子じゃねえかよ・・・パン、おまえにはもったいないし、羨ましいぜ」


俺はバイクにノルンを乗せてザルから教えてもらった裏道を抜けて別荘へ

と向かった。

途中、検問にも引っかかることもなく、警察の連中に止められることもなく

無事別荘にたどり着いた。


「やあ、いらっしゃい・・・ザルから連絡入ってるよ、入って入って」


「お邪魔します」


「お邪魔しますぅ」


部屋に入ると、数人の男女がすでに出来上がっていた。

誕生パーティーなんて酒飲んでどんちゃん騒ぎをするだけなんだろうけど、

まあ交流と銘打っての飲み会だな。


そうやってみんな日頃のストレスを解消してるんだ。

人間は常にドーパミンが出てるほうが幸福を感じるんだろう。


「さあ、新しいメンバーも来たことだし、みんな楽しんでくれ」

「新顔の君たちも楽しんでよ」


しゃべったのは、この日の主役なんだろう。

自分の別荘だから遠慮するなって言ってるように祖先してその場を仕切っていた。

飲んだり食ったりの賑やかなパーティーだった。


パーティでも話題は誰かのスキャンダルとか恋愛話。

みんな恋愛話や人の不幸が好きなんだ。


酒飲んで笑って騒いで、カラオケで歌って・・・。

俺は歌には自信があったが、あまり人前で歌うのは苦手だった。


ノルンもまあ、あまり積極的に前に出るタイプじゃないみあちだったが、

みんなに促されて歌を歌わされたりした。

歌ってみると、これが意外とって言うか・・・ノルンはめちゃ歌が上手かった。

一曲歌い終わるとみんなからアンコールなんか受けたりした。


そばで聞いていても、なるほどって思った。

ノルンはまるでアイドルのようだったからだ。

歌い方も仕草も・・・そう言うタイプにプログラムされたかのように・・・。


で、俺はふと思った・・・ノルンはガイノメディックでアイドルか女優として

デヴューを控えてたんじゃないかって。

それは俺の妄想、想像の中だけの話だけどな。


でもそのくらいノルンはこのパーティに・・・ステージにハマっていた。


考えてみたら俺とノルンを結びつける要因はどこにもなかった。

お互い人間とガイノイド・・・生きる世界が違う。

本当は俺とノルンは交わることなく別の道を歩んだはずだったのかもしれない。


だからノルンとの出会いは赤い糸で結ばれていたんだ。

もしノルンと俺が結ばれる運命なら俺たちは捕まらないし俺もノルンも処分

されることは絶対ない。

それが運命っていうのもんだろう。

だから神様は俺にノルンを助けるって使命を与えたんだ。


こんな思い、この場の浮かれた雰囲気が俺にそう思わせているのかもしれない。

そんな愚にもつかないことを考えてるとノルンが俺の横に座った。


「いっぱい歌っちゃいました」


「ノルン・・・めちゃ上手かったよ・・・まるでアイドルみたいだった」

「可愛くてさ・・・輝いて見えたよ」


「ありがとう、嬉しい」

「そうね?たぶん私、ガイノメディックを逃げずににいたらそうなってたかもね」

「でも、私にはアイドルなんかより、今はパンちゃんのそばがいい」


「そうか・・・俺もな」


俺はノルンの頭を撫でた。


「ああ、たくさん歌ったから体が火照ってる」

「私、少し風にあたって来るね」


そう言ってノルンはガラス戸を開けてテラスに出て行った。


「人間でもないのに体が火照ったりするんだ・・・」


ノルンはテラスの椅子に腰掛けて、そこから見える湖のほうを見ていた。


「この別荘もいつまで隠れていらてるか・・・?時間の問題か」

「まあ、しばらくはゆっくりできそうかな」


体の火照りが醒めきらないのかノルンはまだテラスの椅子に腰掛けていた。


つづく。

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