第3話:自我に目覚めてるインスタント。

パンによって救われたノルン。

彼女は出荷手前でガイノメディック社から他のヒューマノイドたちに混じって

逃げた。

そうしたことに対してノルンに罪悪感はなかった。


インスタントと呼ばれた彼女たちの中にオーナーを傷つけて逃げたヒューマノイド

がいて、それが今回のリコール問題が生じたようだ。


一般的にアンドロイドやガイノイドが暴走することはないようにプロブラムされて

いるんだが己の防衛のために相手を傷つけてしまうことは稀にわけで中には、

なにかの調子はずみで脳が活性化して自我に目覚めるヒューマノイドもたまに

いるしい。


自我に目覚めるとは、もう道具または愛玩として存在してるのではなく一個の生き物として己が何者であるかを認識してるってこと。

より人間に近ずけたため、あまりに進化しすぎてそんなヒューマノイドも生まれたりする。


誰も気づいていないが実はノルンも自我に目覚めたインスタントだった。


「ノルン・・・俺、仕事の行かなきゃいけないから、暇だろうけど留守番してて」

「仕事が終わったら急いで帰ってくるから」

「それから外には出ないほうがいいよ・・・警察がうろうそしてるからね」


「分かった・・・外に出てもなんに分からないから、お留守番してるね」


「じゃ〜行ってくるから」


「行ってらっしゃいパンちゃん・・・」


パンは一人残して行くケトルが心配でちょっと後ろ髪引かれる思いで会社に

出かけて行った。


パンがいなくなって部屋はたちまち静寂で無機質な部屋になった。

ノルンは曇ったガラス窓の外を見た。

そとは雨が降っていた。

雨に煙る街・・・あのままベンチで誰にも看取られることなく街を彷徨って

たら私はどうなってたんだろう。


そう思うと惨めさが押しよせてきて涙がこぼれた。

そうノルンは涙も出るし、愛情や喜怒哀楽の感情すら持っていた。

もはや首の後ろの基盤とバーコードがなかったら人間の女性だと言っても誰も

ノルンをガイノイドだとは思わなかっただろう。


パンがどういう人かはノルンには分からなかったが、悪い人じゃない気がした。

どこか真っ直ぐで素朴な青年って感じ。

ノルンは好感的にパンを見ていた。

仲良くなりたい・・・頼るあてのないノルンはひとりでもいいから心を許せる

人が欲しかった。


パンが帰って来るまで、ひとり部屋で待ってると時間の経つのがやたら遅い。

まだ少しだけ時間があったからんノルンはベッドに横たわって目を閉じて

脳のバグの修理に時間を費やした。


どのくらい寝てたのか・・・誰かに起こされてノルンは目覚めた。

はっとして起き上がると、目の前にパンがいた。


「ただいま、ノルン・・・今帰ったよ」

「寝てた?・・・暇だっただろ?」


「お帰りなさい、パンちゃん」


「俺、ちょっと晩飯食うから・・・」

「君は?ノルンは食べないんだよね」


「はい、私は大丈夫です・・・寝たらエネルギーはチャージできますから」

「ほんとなら私が食事をご用意して差し上げたらいいんですけど」

「私、まだ何もできないくて・・・」


「いいんだよ、無理しなくて・・・それに食えないモノ作られても困るし」

「残飯が増えるだけだからね」


「ごめんなさい・・・でも私にできることがあったら、なんでも言ってくださいね」


「いいよ、なにもしなくても」


「あの・・・よかったら、そのパンちゃんを満足させてあげることならできると

思いますけど・・・私、インスタントだし・・・」


「え?満足?・・・満足って・・・それってセッ・・・まじで?」

「さのさ、誤解しないで欲しいだけど俺はそういうつもりで君を俺の住処に

連れてきた訳じゃないからね」


「分かってます・・・でもパンちゃんにお返しすることができるって言ったら

そのくらいしかできないから・・・」

「私、世の中に出る前に会社から逃げちゃったからまだインスタントとしての

経験はないんです・・・だから自信ないですけど・・・」


「お返しなんかしなくていいから」

「満足って言うなら俺は君が俺の友達でいてくれたらそれで満足、それ以上は

望んでないよ」


「ノルンのこと気に入っちゃったからね」

「俺にも友達はいるけど野郎ばっかだし、ガールフレンドはいないしね」

「いつもこの部屋でひとりでいるから・・・君がいてくれると嬉しいんだ」

「だから警察に捕まってもらっちゃ困るの・・・二度とノルンと会えなくなる

からね」


「分かりました・・・でも言ってくださいね・・・私頑張りますから」


「あはは、頑張るって・・・そうだよな・・・君はインスタントだもんな」

「分かった・・・じゃ〜もっともっと仲良くなって俺がその気になったら考えて

みるよ」

「ありがと、ノルン・・・」


ノルンはパンの部屋に来てはじめて笑った気がした。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る