第2話:よろしくね、ノルン。
「君?大丈夫?」
パンに声をかけられたのは「NO-LN50675553」だった。
声をかけられた人の方に顔を上げると自分とさほど変わらない青年が立っていた。
「NO-LN50675553」は自分に声をかけられたことでホッとしたのか、その場に
崩れ落ちた。
「君?君・・・」
目が覚めた「NO-LN50675553」は知らない部屋の中にいた。
起き上がって周りを見た。
すると待合で声をかけてくれた青年が椅子に座って自分のほうを見ていた。
「ここは?」
「目が覚めたかい?・・・ここは俺の住処だよ・・・っていうか集合住宅だけどね」
「私は?」
「急に倒れるからさ・・・びっくりしたよ」
「ホームレスのおっちゃんに手伝ってもらってここまで運んで来たんだ」
「重かったよ・・・」
「こう言う呼びかた好きじゃないけど・・・」
「君、インスタントだね・・・もしかしてガイノメディックから逃げ出した
って言う例の?」
「なんでそのこと知ってるんですか?」
「ニュースでやってた、逃げたヒューマノイドの行方が分からないって」
「ガイノメディック、警察に捜査を依頼したみたいだよ」
「もし捕まって連れ戻されたら君、会社から逃げたんだからきっと廃棄処分だね」
「ここにいること黙っててあげるからさ、行くとこないなら俺のところに
いたら?」
「俺も一人よりふたりのほうが気がまぎれるし楽しくていいから」
「でも・・・」
「遠慮しなくていいんだよ、このままここにいてくれても俺は一向に構わない
からさ・・・それに俺、仕事柄メカには強いから君のメンテだってしてあげ
られるよ」
「どう?」
「いいんですか・・・私、逃げてきたんですよ?」
「だから知ってるって・・・知ってて言ってるんだからいいんだよ」
「ご迷惑じゃ?」
「だから〜迷惑って思ったら、連れて帰ってないよ」
「気にしなくていいから、どうせここを出ても行くところないんだろ?」
「はい、私、右も左も分からなくて・・・途方にくれてたんです」
「あから救ってくださって助かりました・・・」
「じゃ〜ここにいなよ」
「それじゃ図々しいですけど、お言葉に甘えてお世話になっても?」
「決まりだね・・・あ〜・・・君、名前は?」
「えぬおー、えるえぬ、ごーまるろくなな、ごーごーごーさん」です。
「なんだって?」
「えぬおー、えるえぬ、ごーまるろくなな、ごーごーごーさん」
そう言って彼女は後ろを向いて自分のうなじをパンに見せた。
そこに「NO-LN50675553」の番号とバーコードが刻まれていた。
「あ〜・・・番号か・・・正規の名前ってないんだ」
「それじゃ呼びづらいって・・・」
「そうだな、このさい数字はハショって・・・英字だけでいこう」
NO-LN」・・・えぬおーえるえぬ、か・・・そうだなノルンって読めなくも
ないから・・・じゃ〜君はたった今からノルンだ」
「ノルン、いいじゃん・・・ノルンって北欧神話に出てくる運命の女神様の
ことだし・・・」
「それが君の新しい名前」
「どうかな?」
「はい・・・それでいいです」
「じゃ〜よろしくねノルン、俺は「パン・グリル」・・・パンて呼んでくれて
いいから」
「はい、パン・・・パンちゃん」
それが人間のパンとインスタント、ノルンとの波乱のはじまりだった。
つづく。
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