第4話

 王国内からのお妃候補は3人。

 侯爵令嬢のシャルト嬢、伯爵令嬢のブリティ嬢とミヌエット嬢だった。

 3人の高位貴族の令嬢たちはお茶会や誕生日会など、成人が参加する夜会とは別のパーティーで会うこともあり、気心知れた幼馴染みでもある。


 ミケルトは特にネコの姿にならなくても、彼女たち3人の性格はよくわかっているつもりだった。


 特に侯爵令嬢のシャルト嬢は誰にでもはっきりと物を言う性格なので、ミケルトは苦手だった。

 不美人ではなかったが目付きが鋭く、大柄な彼女は外見で損をしていた。

 伯爵令嬢のブリティ嬢とミヌエット嬢は、そんなシャルト嬢の取り巻き的存在だった。


 磐石なミュール王国の統べる世界は、帝国や王国内であろうが、誰が次期王妃になっても、政治的な均衡が崩れる事はなく、我先にと次期王妃に名乗り出る必要もなかった。

 次期王妃を選出された家にとって、誉れは残るが、取り立てて利益や権力を得るというわけではなかった。


 極めて平和的なお妃選びだった。


 ※※※


 いつものようにミケルトはネコの姿になり、侯爵令嬢や伯爵令嬢のいるエリアに足を運んだ。


 3人の令嬢は相変わらず、ドレスや宝石、王国で流行りのお菓子、騎士団や近衛の男性たちの噂話で盛り上がっている。


 妙齢の高位貴族の令嬢たちも次々と婚約者が決まる中、お互いに幼馴染みの高位貴族の令息たちと会うと照れくささを感じ、3人の令嬢たちは人気があったが中々素直に結婚相手を選べずにいた。


 今回のお妃候補も特に意気込んで来たわけではなく、彼女たちの中では3人でのちょっとした王城へのお泊まり会のようなものだった。

 彼女たちは親の目の無いのをいいことに、羽を伸ばし楽しんでいた。


 ダンスやマナーのレッスン、勉強に縛られず、パジャマパーティーやお菓子パーティーなど楽しいことばかりだった。

 王子のミケルトのお妃候補のことなど忘れているようだった。


 ネコのミケルトはタガが外れた楽しそうな3人の令嬢たちを横目で見て、ため息をついた。

「俺ってなんなんだ。男として魅力がないのか?」

 予想はしていたが、少し気持ちが沈んだ。


 無駄な時間だったと自室に戻り、鏡で人間に戻ったのを確認し、ペルーシア姫が居ることを期待して厩舎に向かった。


 厩舎に向かうとペルーシア姫が見えた。


 彼女のプラチナブロンドの髪とアメジストの瞳、健康的な肌に凛とした佇まい。

 馬に寄せるペルーシア姫の笑顔に、ミケルトは心の中にビリビリとした電流のようなものが走るのを感じた。

 胸の鼓動が収まらない。


 動揺を隠すようにペルーシア姫に声をかけた。

「ごきげんよう。ペルーシア姫は乗馬がお好きなのですか?」

 好きと言った言葉に、更に自分で動揺してしまった。

「はい。乗馬は好きです」

 ミケルトの頭の中で、好きという言葉がグルグルと回っていた。


 ペルーシアも動揺していた。

 近くで見るミケルトは輝いていた。

 色白ではあるが、不健康な色ではなく、陶器のように美しく、ブラウンの髪は所々が金色で癖がなくサラサラ、瞳は黒く黒水晶のようにキラキラと輝いていた。


 お互いを見つめ合い動揺していた。


「では、一度遠乗りに出掛けませんか?」

 デートだ。デートに誘ったぞ。

「はい。わたくしで良ければ、喜んでご一緒します」

 ペルーシアは、やった。言えた。デートだ。

「明後日はどうですか?」

 はいと頷きながら、ペルーシアはミケルトの誘いに答えていた。


 二人ともデートの約束をした自分を、自分で褒めていた。

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