第2話

「次はウエストル帝国のメルン姫だな」

 ミケルトは部屋に向かった。

 メルン姫は小柄でぽっちゃりした愛らしい姫だった。

 お姫様らしく、宝石やドレスのカタログを見ながら、テーブルにはたくさんのお菓子を並べ、メイドたちと話をしていた。

「やっぱり王国のお菓子は違うわね。あっそうだ。ショコラの美味しいお店を知らないかしら、お忍びでカフェ巡りにも行ってみたいわ」

 甘いお菓子と着飾るのが大好きな姫のようだった。


「最後はサウズアン帝国のシャムナ姫たな」

 賑やかな音楽が聞こえて来た。

「これはシャムナ姫の部屋からか?」

 数人の楽器を持った従者が演奏し、シャムナ姫は真ん中で躍りを踊っている。

 明るく楽しい音楽だ。

 シャムナ姫の躍りは優雅だが、キレがあり見ていて飽きなかった。

 ミケルトに気がついたのか、抱き上げられ一緒に踊っている。

 楽しい。目が回る。抱っこが恥ずかしい。

 柔らかくていい匂いにクラクラする。


 ミケルトはシャムナ姫の隙をみて飛び降り、自室に帰ることにした。


 イストール帝国のペルーシア姫に会えなかった事が残念だった。


 ※※※


 イストール帝国のペルーシアは自由な生活を望んでいた。

 小さな頃から動物や植物と触れるのが大好きで、屋内にいるよりは外で遊ぶ方が好きだった。

「はしたない」とか「日焼けします」と周りに言われて姫という立場での窮屈さを感じていた。

 絶対に王国のお妃には成りたくなかった。


 しかし王子様は王妃様に似たのかとてもカッコよかった。

 ブラウンの髪に黒い瞳、男らしい体格で声もいい。

 ペルーシアは王子の事が超タイプだった。


 ※※※


 数日後今日も王妃に呼ばれ例の儀式を受けていた。

 ソマリ「またなの?」

 王 「仕方がないではないか。イストール帝国のペルーシアに会えてないらしい」

 ラカン「私たちは関係ないでしょ。なんで毎回呼ばれるの?」

 王 「タマールの機嫌を損ねたくなのじゃ。我慢してくれ」

 ソマリ「ホントにお父様はお母様に頭が上がらないのね」

 王 「・・・」

 三人は囁いていた。


「準備はいい?」

「はい。母上」

 王妃とミケルトは鼻と鼻をくっつけた。


 すると7秒も経っていなかった。

 ミケルトは尻尾が生え、右手がネコの手だった。

「まあ。失敗じゃないの」

「すみません。耐えられませんでした」

 王妃はミケルトに怒ったが、このままでは執務もできず、ミケルトは自室で、2時間の休憩を取ることになった。


 ソマリ「あ~あ今日は失敗だわ」

 ラカン「私、部屋に戻るわ」

 というと姉の二人はさっさと自室に戻っていった。


 呆然としているミケルトに、王が頭を冷やすように促した。

 ミケルトの自室近くには王族専用の庭がある。温室もあり、王妃こだわりの薬草や珍しい植物などが植えられている。


 ミケルトは庭にある池の前に立ち、右手のネコの手の肉球を、左手で触っていた。

「はあ。思春期の俺にはキツいな」

 呟きながら、肉球をムニムニしていると、ガサガサと音がした。

 音のする方を見ると、プラチナブロンドの髪が見えた。


「誰かいるのか?」

 顔を覗かせたのは女の子だった。

「申し訳ございません。迷ってしまいました」

 正直に謝る美少女がいた。

 ミケルトは慌てて右手を隠し、後方で美少女を探していたメイドに目配せをした。


「ここは王族専用の庭です。立ち入りは遠慮してください」

 ミケルトは尻尾はズボンの中、見られたかもしれない右手のネコの手が気になり、冷たい口調になり踵を返し自室に戻った。


 ミケルトは自室に戻り、肉球を左手でプニプニし、更に肉球を頬に当て感触を楽しんでいる。

 迷い込んでいた女の子の事を思い出していた。

 

 きっとイストール帝国のペルーシアに違いない。


 一目惚れをしてしまった。


 ああ、なんて可愛いのだろう。と思いながら、父ラグドールの気持ちがわかった気がした。


 胸の高鳴りが鳴やまない。

 顔がのぼせたようになり、衝撃を受けた心は苦しかった。

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