第十四話後編「熱に浮かれて」

「ようしょうきは、ちちによくなぐられてました」


ぽつりとそう呟く、彼女は僕の方を見て、ただただ黙って聞いていた。


「ばいとも、しんどいし、がっこういっても、いじめられるし」

「しんどくなって……らいぶいって……」

「でも……〇〇くんも、いまじゃわからなくて……」


ぽつりぽつりと、辛い気持ちを吐露していく。

吐露するたびに、涙が無性に溢れ、視界が歪んでいく。

どうしようもなく、しんどくなり声が出なくなる。


「……う……うぅ……」


熱に浮かれて、涙を流す、

熱はどんどんと涙に溶けていく、そんな感覚が私を包む。

彼女は、ふぅと一息ついてから、私の頭をゆっくりとなでてくれる。


「大丈夫、あては裏切らへんからね」


ふわふわと、頭を撫で下ろされる。

とても気持ちが良くて、熱が流れて、幸せで、

私は一言、彼女に熱い眼差しを向けながら。


「……すきです」


きっと熱で思考がめちゃくちゃになって居たのかも、

でもその時は、その言葉が一番に出てきた。

その時の彼女の表情は、影で隠れて見えていない。


「……泣いて疲れはったろ?ようさんおやすみ」

「はい……あがとう、ございま……」


そこで、私の意識は再度、暗闇へと落ちていった。




……眠ったのを確かめて、じっと桃華の顔を見つめる。

いきなりやったもんで、少し顔が真っ赤になっていた。


「……無理させん方がえかったか?」


あては、指で頭を掻きながら、困った表情をする、

好きという言葉は、ちゃんとした時に言ってもらいたいものだ。


「そんにしても……そないな辛い事あったんやなぁ」


桃華の頬を撫でながら、小さくぼやく、

ずっと裏切られて、やっと縋るものが見つかった。

そのために、これだけ身を削ってやって来たのか……。


「……あんさんは、あてより立派やねぇ」


にっこりと微笑み、頬にキスをする。

唇に、熱がゆっくりと伝わる。

唇を離せば、二人だけの口紅の色が、頬に付いている。


「男より、あてを素直に選んでくれはれば、ええんに」


そう一言ぼやいて、あては立ち上がり、そのまま部屋の外へと出た。






再度目覚める、窓からは朝日が差し込み、ちゅんちゅんと雀が囀る。


「ふあぁぁ〜〜……」


私は上体を起こして、周りを見渡す。

自室のベッド、周りには看病の後がある。

身体は、とても軽い熱も引いて、治ったようだ。


「……お礼言いに行かなきゃ」


立ち上がり、寝巻きから着替える、

化粧はする気力も無く、そのまま彼女の部屋へと向かう。

トントンと襖を叩き、中へと入る。


「失礼します」


ぺこりと頭を下げ、彼女の方を見る。

彼女はいつもの場所で、いつもの様に寛いでいたが、

すっと立ち上がり、私の方へと近づいてきた。


「ももか、大丈夫なん?」

「えぇ、お陰様で……昨日はありがとうございました」


頭をぺこりと下げ、全身でお礼の意を表す。

暫く下を向いていると、ふと質問を投げかけられた。


「昨日の事、覚えてはる?」

「昨日の……事ですか?」


顎に手を当てて、少し考える。

意識が朦朧としていて、何を言ったか記憶がない。

何か恥ずかしいことでも、言ったのだろうか?


「あの……何か変なことでも?」


彼女はそれを聞いて、ホッと息を吐いて、落ち着いた様な顔をする。


「覚えてないならええよ」

「……気になるんですが、その?」

「だ〜め、教えちゃらない」


彼女はイタズラっぽく微笑み、私の頬をちょんとつつく。

私はムッとしながら、すこし頬を膨らまして、抵抗する。


「変なこと言ってたら、気になるじゃないですかぁ……」

「ふふ、だ〜め、内緒やで、ふふふ」


彼女の笑顔からして、何か言った事は明らかだ。

私はムッとして、また聞こうとしたが……。



その笑顔はとても綺麗で、美しく可憐だった。







シャラン、シャランと音が響く。

片手に手錠をもち、ぽんぽんと投げて、組へと近づく女が一人。


「……荒咲輪廻ぇ今日こそ捕まえてやる」


そう意気込み、その女は扉へと入り込むのだった。

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