第十三話後編「愛と砂糖は甘いモノ」
「うっぷ……」
「まぁ、ちょっと作りすぎちゃったね~……」
作る事十数回以上、様々なスポンジ、クリーム、
トッピングを思いついては、参考動画を漁り、
作っては試食した結果、胃が完全にもたれてしまった。
「それでももかちゃん!どれが美味しかった?」
じっと、私の顔を見つめて、圧力をかけてくる。
美味しくなかったとは、言わせないようなそんな目線、
だが実際どれも美味しいものだった。
「ど、どれも美味しいですよ」
「そっかぁ~……うーん困ったね、どれを渡そうか?」
「それなんですよね……どれがお口に合うかわからず……」
二人で、試作品たちを見ながら、両手を組み悩む。
よくよく考えてみれば、彼女の食事嗜好はあまり理解できていない。
タバコと酒が好きなのは知っているが……。
「いっそ、全部渡しますか?」
「だーめ!そんな事したら体調崩れちゃうでしょ!」
「流石に一気食いはだめですよねぇ」
たははと笑いながら、どうすればいいかと考える。
体調や嗜好、様々な要因を考えるが……圧倒的に情報不足だ。
「ほかに、好みの味を知っている方とか、いないんです?」
「いるけど、あんまり頼ると、みんなで作ったみたいになるし~」
「……どういう事です?」
彼女は、ふっふふんと自慢げな顔をすると、自慢げに口を開く。
「私だけ輪廻様に褒められたいから、これを作ってたんだ~」
「……でも、それじゃ私は?」
「ももかちゃんは……特別ってやつ!」
そうにっこにこで微笑みかける、どう特別なのかはいいとして。
「ならいいんですが……」
「それよりも、もぐっ……うぅんストロベリーもいいし、バニラも……」
「ほんと、どれも美味しいんですよね……でも選ばないと」
胃もたれに、悩まされる腹を抱えながら、二人で頭を抱える。
砂糖の甘い匂いが、鼻腔に充満する中で、悩み悩んで……。
「だめだぁ……こうなったら輪廻様に直接…!」
「でも、サプライズの方が喜ばれるのでは?」
「そ、そうだけどさぁ…うーんピンチ!」
ああでもないこうでもないと考えて、何も思い付かず。
すこしむしゃくしゃしてきた私は、数個取るとそのまま口へと咥える。
咀嚼して……ある事に気が付いた。
「美味しい……」
「え?」
「すっごく美味しいです!」
一気に食べたのは、イチゴと抹茶のスポンジ、それからカスタードだ。
「ちょ、ちょっと食べさせて……」
彼女が同じように、合わせて口へと入れ込む。
もぐもぐと租借し暫くすると……。
「おいひぃ~!これよこれ!」
そういう甘い声が聞こえてきた。
「ですよね!ならこれで行きましょうよ!」
「うん!これならきっと喜んでもらえるわ!」
二人でハイタッチしながら、早速準備に取り掛かった。
カスタードを練り、抹茶を混ぜ、イチゴを切り……
とハイピッチで作業が進んだ。
その日の夜、ふらふらな私達は輪廻さんの元へと向かう、
勿論出来た最高のケーキを持って。
扉を開け中へと入る、そこにはいつもの様に、妖艶に座り込む輪廻さんがいる。
「……どないしたん?ももか、なな」
「失礼します!輪廻様!」
大きく甘い声で、彼女は輪廻さんにそう言って、輪廻さんの隣へと滑り込む。
私は少しいう事を聞かない身体を動かし、
彼女の隣へと座り込み、顛末を見届ける。
「あのですね、こちらをお渡したく!いつもありがとうございます!輪廻様!」
そう言って、持っていたケーキを机に上に置いて、ぺこりと頭を下げる。
ケーキは抹茶スポンジを主体とした、ハート形のケーキだ。
間にはカスタードとイチゴが挟まっており、
上にもイチゴがふんだんに乗っている。
彼女、蛇ノ目という女性を体現したかの様な、
甘さとほろ苦さをマッチさせたものだ。
「ほぉ……えぇなぁ」
そう言って彼女はフォークを取ると、ケーキにさくりと差し込む。
「……カスタード、ふむふむ」
中から溢れるはカスタード、とろとろと皿に溢れ出る。
彼女はケーキにフォークを突き刺し、
溢れ出たカスタードをケーキにつけ、口へと持っていく。
「ほぉむ……」
口の中へとケーキを頬張り咀嚼する、ゆっくりと味わうように、噛み飲み込む。
「い、いかがでしょうか……?」
「……ふふ、甘いなぁ、美味いなぁ、ふふふ」
彼女のその顔は、見たことが無いくらい蕩けきっていた。
本当に美味しかったようで、フォークをとんと上品に置くと、
彼女を腕で抱き寄せ、ぎゅっと抱き着いた。
唐突な行動に、彼女はふおぉぉぉと声を上げ、顔を真っ赤にして、
驚いた表情で抱き着かれている。
「ようさんありがとうな、よし、よし」
「ふぁぁ……ありがとうごじゃいふぅ……」
とっても気持ちよさそうに、頭を撫でられ、
その妖艶な身体を全身で味わっている。
虚ろな状態で、それを見ていると、ふと声が漏れた。
「…………いいな」
はっと、その言葉が漏れたことに気が付き、口をつむぐ。
今一体何を言ったのだ?それと同時に気づくこともある。
羨ましい、そんな気持ちだ。
撫でられ抱擁される彼女を、羨ましいと感じたのだ。
(な、なんで?そんな事、ない……ない……)
頭の中で、必死に否定してぼーっとしていると、
いきなり身体が引き寄せられる感覚、
気が付くと彼女の胸の中に居た。
「どないしたん?そないな顔して」
「い、いやっ……そのっ!」
「ももかちゃんも、手伝ってくれたから、存分にお願いします!」
彼女の声を皮切りに、よしといった表情で、私の頭を撫でおろす。
ふわふわとした感覚が、私の中を駆け巡り……。
少し、つらく、なって……眠い……。
「桃華?……なな、桃華熱でとる、水と着替え用意しはって」
「えっ!?わ、わかりました!」
意識が混濁する中で聞こえたのは、輪廻さんの焦る声だった。
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