第十三話前編「愛と砂糖は甘いモノ」

目覚めた時は、自分の部屋の天井を見ていた。


「あれ……いつ、寝たんだっけ?」


足をつま先まで伸ばしながら、

背骨を伸ばす、そして腕を伸ばして、脱力する。


「はぁ、確か昨日は……」


そう、昨日は酔っている彼女に、耳かきをされて、

そんでもって昨日思ったことを吐露してしまった……

そんなことを思い出す。


「うっわ……はっず……」


こちらも飲んで酔っていたのだろうか……

顔を真っ赤にしながら、ベッドの中で項垂れる。

暫く項垂れた後、ゆっくりと起き上がり、ふうとため息を吐いた。


「早く、仕事場いこ……」


気持ちを変えるために、準備をし始める。

化粧と衣服、様々整え自室から出たところで、ある事に気が付いた。


「……今日休みじゃん」


廊下に貼ってあるカレンダーを見て、休みであることに気がつく。

やってしまった、ついつい着替えてしまった……

はぁと大きなため息を吐きながら、帰ろうとすると。


「……?なんだろう、香しい匂いが?」


鼻腔を甘い匂いが充満する、

いったい何処から匂いが来ているのだろうか、

そんな事を考えながら、匂いの方向を探す。


「何処からだろう……」


そんな事を考えながら、前へと進む。

匂いの先、どうやら誰でも使える調理場から、

匂いが出ていた。私はその匂いに抗えず中へと入る。


「ふんふん~…ん?あっ、ももかちゃん!おひさ~!」


中に居たのは、あの腹黒金髪の蛇ノ目だった。

彼女の周りの机には、ボウルやヘラ、

小麦粉など、様々な料理道具が転がっている。


「あ、お久しぶりです。ここ狭いのに合いませんでしたね」

「そうだね〜抗争もあって、

 別な所にいたから尚更かも、怪我は大丈夫だった?」


そう甘く言われる、私は怪我をした腹部を押さえて、とんとんと叩き。


「まぁ、なんとか……それに私が悪いんですし」

「別にぃ気にしないでいいよ〜、

 誰かが困った時、手伝ってあげればそれで」


彼女はそう言いながら、ボウルに粉と卵、水を入れかき混ぜる。


「あの……何を作っているんですか?」


私がそう聞くと、彼女は少し自慢げに口を開く。


「これ?ふっふーん!よくぞ聞きました!

 これはね、輪廻様にプレゼントするものです!」


 ぱふ、ぱふ、と何処からか聞こえてき来そうな言い草に、クスっと笑ってしまう。


「蛇ノ目さんらしいです」

「でしょでしょ?……ただちょっとだけ困ってることがあって」


そう言いながら、ちらっ、ちらっと私の方を見る。

どうやら手伝って欲しいようだ。


「手伝って欲しんですか?」

「ん?手伝ってくれるなら?私は構わないけど?」


そう言いながらも、内心嬉しそうな顔をしており、

それが可愛らしくまた頭を撫でてしまう。

彼女はすぐにむっと起こった様な顔をして、こちらを睨む。


「あ、す、すみません、可愛かったのでつい……」

「……ま、かわいいのは当たり前だし〜」

「あ、あはは……えふんっ、えっとそれで何に困ってるんですか?」


話題を逸らし、何に困っているのかを聞く、

彼女は甘い声で悩み事を言い放つ。


「えっとね、ケーキを作ろうと思ってね……」

「え、荒咲さんって……ケーキとか食べるんです?」


私がそういうと彼女は、えっと言ったような顔をして、返答してくる。


「輪廻様は大の甘党よ?

 おはぎとか、甘味系だったらほとんど食べちゃうよ」

「へぇ〜……意外なこともあるんですね」

「そうなんだよ、あれで太らないのがすごいくらい」


羨ましそうに彼女が言い放つ、

確かに私もスイーツ沢山食べても、太らない体はほしい。

そんなことを思いっていると、また彼女が口を開いた。


「それで、そんな人にどんなケーキ渡そうかなって……」


そう言って、顎に手を当てて考え込んでいる。

確かにもう一度机の上を見れば、様々なケーキの型、

ハートや丸など様々な型があったり、

カラフルなパウダーが沢山置かれていたりと、

工夫しようとして悩んでいるのが目に見えた。


「確かに、これだけあれば悩みますね」

「でしょぉ〜……味とか形とか、

 色々試作しているうちにわかんなくなっちゃって」


ボウルを混ぜながら、人差し指でピッと後ろの方を指差す。

そちらを見れば先に作られていた沢山の試作品たちが大量に並んでいた。

じっと見つめていると、ぐうとお腹がなる。


「なぁに?ももかちゃんお腹すいたの?」

「あ、あはは、さっき起きたばっかりで、何も食べてなくて……」

「いいよ、食べても、ちゃんと手伝ってくれるならね〜」


その言葉に甘えて、私は一つ小さなカップケーキを取り、口へと放り込む。

いい甘さと、ふんわりとした舌触りが空っぽのお腹に満たされていく。


「おいしぃ~…」

「あったり前でしょ~、ただいい味が見つからないんだよねぇ~」

「でも、とっても美味しいですよ?」


 彼女は少し誇らしげになる、だがやはり悩んでいる表情にもなっている。


「ただ美味しいじゃだめなんだよねぇ……輪廻様に褒めて貰いたいからさぁ」


そう言って、ボウルを抱え生地を作っていく。

その間にもう一度、同じものを口にくわえる、

咀嚼して味わうが……物足りない気がしてきた。


「もぐ、もぐ、確かに改めて味わうと…物足りない」

「やっぱり?物足りないんだよね~」

「味のフレーバーは……

 抹茶に、バニラ、ストロベリー、こんなにあると悩みますね」

「そそ、悩んじゃって…どれがいいと思う?」


考えながら、一つずつ手に取る。

輪廻さんの好きなものがわからないが、

ともかくケーキに合いそうなものを選ばなくては。


「とりあえず……片っ端から作ってみますか?」

「……まじ?結構頭いいと思ってたんだけど」

「私たちが最高に美味しいと思えば、相手も美味しいと思ってくれますよ」


私がそういうと彼女も、確かにという顔をする。

なら決まりだ。


「覚悟を決めて、二人で作り上げましょう!」

「もっちろん!ももかちゃんもやる気だね!やろー!!」

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