第十二話前編「甘い耳かき」


傷も癒え、ゆっくりと出来てきたこの頃、今夜は輪廻さんに呼ばれている。

理由は分からないが、良い事だと願いたいものだ。

昼間の仕事も終わり、夜が来る。


「よし……そろそろ準備していこうっと」


私はベッド飛び上がり、化粧を再度直していく。

昼間の汗で大半が落ちたため、再度ベースからやり直しだ。

少しはたいて……軽めに肌に乗せていく、

だってどうせ行ったところで、夜の相手をさせられて、すぐに落とす……。


「……って!?なに考えてるの私っ!?」


今何考えた!?どうせ抱かれるって?断ればいい話なのに、

何を考えてしまったんだろうか?意味不明な感情に顔が真っ赤になる。

今までの非常識が常識になってしまったからか?訳が分からない……。


「う、うぅ……どうなっちゃったの?」


と、ともかくだ、彼女を待たせては何をされるか、わかったもんじゃない、

行くしかない。本当に軽く化粧を済ませて、向かうことにした。




あの気持ちは何だったのだろうか?

訳の分からない気持ちに、押しつぶされそうになりながらも、

彼女の部屋へと向かう。そわそわと感じながら、部屋をノックし襖を開ける。


「失礼します……」


がらりと扉を開ければ、いつもの場所で色っぽく座り込む、輪廻さんがいる。

私と小田巻さんが共に作った、あの白の着物を着崩し、

艶やかな胸と、鎖骨、首を露にしている。


「きはったな、ちいと遅かったなぁ?」


彼女の顔を見る。黒く艶やかな長髪があいも変わらず美しく感じる。

顔は、とても明るくにこやかで、私が作った口紅を付けて官能的だ。

また頬が赤くなっていることと、手にはグラスが握られていることから、

お酒を飲んでいるのが明らかだった。


「すみません、少しお腹を下してしまって」

「ならええ、急ぎの用でもあらへんし」


そう言いながら、一口酒をあおる。カランと氷がいい音を鳴らした。


「それで、用って?」

「ん?あぁ、ええ酒を貰ったんよ」


そう言って、机の影に隠れていた酒瓶を取り出す。

ラベルには日本酒大吟醸と書かれており、高そうなお酒であるとわかる。

彼女はそれを机の上に置くと、もう一つのグラスを出して、

グラスに酒と水を入れて、私の方に置いた。


「そんや、酒は飲めはる?」

「ちょ、ちょっとは大丈夫です」

「なら、ぐいっといってや」


そう言う、そこまで強くはないが、それでも飲まねばと考えてしまう。

私は一口そのグラスへと口をつけ、液体を口へと入れ込む。

口内には日本酒の独特な味が広がる、

だが、とてもさらりとした味で、とても飲みやすく感じた。


「あ、あれ……飲みやすい……」

「そこらの安酒とくらべへんの」


彼女は、ゆっくりと起き上がると、私の方へとやってきて、いつもの様に隣に座る。

だがいつもと違うのは、かなり積極的なことだ。

私の体に体を寄せ、足に足を絡ませ、腕で身体中を触り始める、

酔っているのがわかるほどに積極的だった。


「ひあっ……あ、あのっ!ダメですっ!」

「どないして?あれだけ肌重ねたんに……?」


そう言って、着物の中にも手を突っ込んでくる。

その感覚は不快なはずなのに、とても心地よくて、

嫌悪なのに、とても快楽で、その気持ち悪さに手をどうにかして避けてしまう。


「だ、ダメなんですっ!今日だけは!」


彼女の体をドン、と突き飛ばし、はだけた着物を着なおす。

彼女は少し驚いた顔をしたのち、ふぅと一息、ため息を吐いた。


「しゃーなし、我慢しちゃるよ」


そう言って私から離れようとした、その時。


「でも――」


彼女は、私の体を掴むと、そのまま体を倒してくる。

突然の事に対応できず、なされるがままに倒されてしまった。

頭は、ぽぷんと柔らかなもので守られる。

ぶれた視界を見直せば、どうやら彼女の膝の上にいるようで、

真上にはその豊満な胸と、彼女の酔った顔が見える。


「ひゃっ!あ、あのっ!」

「ええから、ええから」


そう言って、彼女は何かごそごそとする。暫くして彼女はこう言ってきた。




「りらっくすするやろうから、耳かきしたる。見た時汚れもたまっとたし」

「え……えぇ……?」


いきなりすぎる宣言に、戸惑うしか私には出来なかった。

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