第十話中編「鳥獣抗争」

「よし、これで準備完了だ」

「……あうっ」


よろよろとよろけながら、着替えた自身の身体を見つめる。

着物はいつも通りだが、着物の下には、防塵チョッキ?なる物を付けている。

他にもプロテクターや何から何まで付けられており、機動性が皆無なのだ。


「これ、動けなくないですか?」

「仕方ないだろ?ド素人のお前が傷付かないようにするためには、

 これくらいしないと」


確かに、その通りだが……逃げるのに支障が出ないだろうか?

まぁ、私もこれくらいないと安心できない。

どんな事をされても、おかしくないからだ。


「ま、心配すんなって!俺も出るしよ、輪廻様は強いしよ~」


と、私の腰をバンっと叩く。

びっくりして猫の様に飛び跳ねると、彼女はけらけらと笑いだす。

その笑顔に対して、私はむすっとした顔をして、文句を返した。


「んもぅ!いつも叩いたりなんだったり!!」

「すまん、すまん、さ、あと少ししかない。さっさと行こうか」


ああいうのは、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……そんな事を考えながら、

私は猪狩の言われるまま、後ろをのっそのっそとついて行くのだった。


時間の流れとは早いもので、もう抗争の時間となってしまった。

廊下に並ぶのは、同じように武装した舎弟たち。

全員片手には学校で、よく見るさすまたを持っている。

物騒ではあるが、安心できるものでもある。

並んでいる私たちの前に、輪廻さん彼女が、現れ皆に激励をする。


「皆、一時間とは言え、ようさん危ないことには変わりはへん」


彼女は私たちの方を、じっと見つめ、優しい眼差しを見せてくる。


「絶対に勝つんやよ、ええな?」

「オォス!」


皆がその言葉に鼓舞される。皆皆自信に溢れており、鼓舞が効いている様だ。


「桃華、あんさんもこれ持ち」

「あっ……は、はいっ!」


渡されたのは、同じようなさすまただ。

これで男性を追い払えという話だが……うまく行くのだろうか?心配が募る。

最悪逃げればいいか、そんな事を考えながら、私は配置に着くのだった。


暫くしてそれぞれが、配置につく

私は廊下の見張り番、そこまで危険性はないだろう。

非戦闘員は、別な場所へと移動した。

残っているのは、私と輪廻さん、それから選ばれた数名の人物たちだ。

その中には猪狩もいる。


「大体みんな、外で待機しているし……私がやられるってことなんて……」


 そんな事を、ぶつぶつと呟きながら、待っていると外から声が聞こえてくる。


「来たぞっ!」「入ってくるんじゃねぇ!!」

「調子のるなアマ!」「おらっ!やらいでかぁ!!」


そんな男女の怒号の声が聞こえてくる。

その声に、驚きびくりと体が跳ねる、一体どんな事を外でやっているのだろうか?

私が外の役じゃなくてよかったと、ほっとする。


でも、もし、もし、誰かがやってきてしまったら……?

殴られてしまうだろうか?そんな恐怖心が私を支配する。

でもきっと大丈夫、ここまで来るはずが――



 ぎぃ……ぎぃ……と音が聞こえた。


(……だ、誰だろう?)


咄嗟に、廊下の角に隠れ、さすまたを構える。

緊張で手が震える、ごくりの喉を鳴らしながら、

私は音が聞こえた廊下の方を、恐る恐る……覗いた。


(……あ、あれは?)


そこに居たのは、血まみれのスーツを着た男性だ。

あの人相の悪さといい、あの目つき見覚えがある、私の足を引っかけきた男性。

この抗争を起こした張本人だ!


手には日本刀が握られており、その日本刀も血で汚れていた。


(なっ……い、一体誰を?)


そう思い、見ているとある事に気が付く、その男の奥に、倒れている女性。


「……猪狩さ…」


倒れていたのは、猪狩、彼女だった。

息も絶え絶えしい状態で、倒れ伏しており、

明らかにルール違反なのは、確実だった。

咄嗟だった為に、声を上げてしまい、私の位置がばれてしまう。


「……よぉ、兎沙美、そこにいたか…」


私の方に向けて、怨嗟の声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる。


「なっ……殺しはしないはずじゃ……!」

「あぁ、瀕死で納めてるよ、でも、あんな女じゃ売っても高値にならねぇ……」

「売るって……?」


さすまたを構えるが、恐怖で震える。

その男はゆっくりと私に近付きながら、説明をしてきた。


「別に、抗争中に数名消えたところで、

 問題ないだろう?しかも、俺が貸したはずの

 金を奪ったやつが消えたところでだ……!」

「……あっ!思い出した!確かお金借りた時に居た……!」


やっと思い出す、そうだ、私はこの人からお金を借りていたんだ。

緊張のあまり顔や書類にすら目もくれず、

サインとお金だけ貰って帰っていたが……まさか借りた時の人だったなんて……。


「そのけじめはどうつけんだって、親父がうるさくてよぉ……お前のせいでなぁ!」

「あ……えっと……その」


私は、きびつを返して、すぐさまに廊下を走り込む。

同じようにして、後ろから付いてくるように、廊下を走る音が聞こえてきた。


「おら!待ちやがれこらぁ!!」

「いやぁぁっ!!!」


重い身体で走っていく、はぁ、はぁと息を上がらせながら、廊下を駆けずり回る。

慣れない運動と、追われている緊張で、胸が張り裂けそうだ。

暫く廊下を駆けずり回るが、キリがない……このままでは、やられてしまう!

何処か、隠れる場所は……

そんな事を考えていると、つい足がもつれ転んでしまった。


「あいたっ!」


顔面からこけてしまい、顔全体に痛みが走る。

痛みに悶えながらハッとして、くるりと後ろを向いた。

後ろからは、ゆっくりと近づいてくる男がいた。


「へへっ…お前みたいな上玉、高値で売れるからよぉ、大人しく捕まっとけよ!」

「いやですっ!ていうか、ちゃんと荒咲さんが払った筈じゃ……」

「へっ!金じゃねぇんだよ!馬鹿!」


そう言って、男は私の顔の近くに、日本刀を刺してくる。

ヒッと声を出して、絶望に打樋がれる。

刃は首筋に置かれており、このまま横にやられたら、

死んでしまうのは明らかだったのだ。

逃げようとしても、足を足で抑えられており、動かすことが出来ない。


「や、やめてっ!というか殺したら売れないでしょう!」

「別にどっちでもいいのさ!鬱憤さえ払えればそれで!!」


そう言うと、彼はゆっくりと日本刀を引き抜き、私の横腹に日本刀を突き刺した。


「うぐぅ……!や、やめ……」

「へっ…いい鳴き声だぜ!この泥兎がよぉ!!」


刺した日本刀を引き抜き、大きく振りかぶり、乱暴に振り下ろした。


「しねぇぇえええ!!!!」


私は激痛に耐えながら、死を覚悟する。走馬灯のように、誰かが瞼の裏に見えた。

○○君なのかな?そんな事を考えながら、それを見ていると、映っていたのは……。


 輪廻さんの顔だった――


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