第十話前編「鳥獣抗争」


あの後、私は自室へと戻り、汚れた服を脱ぐ。

新しいのを出して、着替えていると

こんこん、と扉がノックされ、返事返そうとした途端、扉が開かれる。


「は……ちょ、ちょっと待って!」

「桃華…って、ふふ、ちいと早かったな」


そこに居たのは、彼女、輪廻さんだった。

彼女はまだ着替え途中の私を見て、ふふと笑いこんでいる。

私がムッとした顔をして、隠していると彼女は、ふっと笑って。


「着替えはったら、さっきの部屋まできてな」


それだけ言って、部屋を後にする。

そう言われたのだ、さっさと着替えて向かわねば。


着替え終わり、汚れた着物を洗濯場に置いてきて、先ほどの部屋まで向かう。

私が壊した襖は綺麗さっぱり治っており、元通りになっていた。

その襖を開け中に入る、中には畳に座る数名の舎弟と、

一番奥に座る輪廻さんのみだった。

中に入ったら輪廻さんに促され、空いている席へと座らされる。


「集まりはったな、ほんじゃさっそくはなしやしょ」


そう言って彼女は、抗争について話し始めた。



彼女の話をまとめると、こう言っていた。


一、抗争は十数名で行われるチーム戦。

二、二十三時から二十四時の一時間のみである。

三、この場所にある掛け軸を、破られたら負けである。

四、使える武器は、拳銃三つ、日本刀一本である。


この四つのルールのもとに、抗争が行われる様だ。

拳銃に関しては、互いの組同士、火力が抑えられており、

致命傷じゃない限り、当たっても死ぬことはない様だ。


「みな、わかりはったな?なら、各々準備すること、ええな?」

「オオス!」


私以外の皆が、大きな声で返事をしている。

そんな光景をぼーっと見ていると、彼女が口を開く。


「桃華残り、他は準備、今日の夜には始まりはるから、ええな!」


それだけ言うと、他の舎弟たちは蜘蛛の子を、散らすように解散していく。

残れと言われた私は、その場に座り込んでいた。

二人きりになった後、彼女は私の方を向いて、飛んでもない事を言い放った。


「ええか?桃華、あんさんにも前で戦って貰いはる」

「えっ……わ、私もですか?」

「せや、元たどればあんさんが悪いんやからなぁ」


それを言われると、何も反論できない。

私が悪いのも分かってるし、むしろこれだけで済んでいるのがマシなくらいだろう。


「まぁ……悪いのは私のなのでやりますが……何をすれば?」


私が、ちょっと嫌そうに言うと、彼女は私に対してこう言ってくる。


「まぁ、軽く逃げているだけで、ええよ」

「に、逃げるだけって……」

「あんさん、戦えはる?」


そう言われ私は、全力で首を振る。

少し前までただの一般人、そんな私が戦えるはずが無いのだ。

ともかく、逃げるだけというのであれば、問題ないだろう。


「逃げるだけなら、たぶんできると思うので……」

「なら、ええ。部屋出たら誰か捕まえて準備しはりや」

「わかりました、まぁ多分大丈夫です!」


こんな状況だからこそ、楽観視するしかない。

さて……準備しろと言われても、何を準備すればいいのやら、

そんな事を考えながら、部屋を出る。

誰かを捕まえろと言われたが……都合のいいひとなど、いるのだろうか?


「よぉ桃華、大変だな本当に、ハハッ」


あ、丁度いいところに、猪狩が現れた。

都合のいい人が居る者だ、不幸中の幸いとはこのことだろう。


「あ、よければ準備してもらいませんか?」

「え……図々しいというか、何というか」

「でも、荒咲さんに言われたんですけど」


それを言った途端、彼女が目を爛爛と輝かせ、勢いよく口にする。


「よぉし!俺に任せろ!」

「ちょろ……」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでも……」


よし、こうやって焚かせれば、彼女はやる気になる、知っていて損はないだろう。


「ちゃんと輪廻様には、猪狩がやったって言えよ~」

「わかってます、大丈夫です」


準備して貰うのだ、これくらいは報酬として渡さねば。


そんな事を考えながら、私は猪狩に着いて行くのだった。

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