第八話前編「猪と蛇と鼠と、兎」

ちゅん、ちゅん、と雀がなく声で目が覚めた。

この目覚めは……二回目だ。私はゆっくりと身体を起こしながら、周りを見渡す。


「すぅ……ふ……」


隣を見れば、静かな寝息を立て、寝込む彼女、

毛布に全裸の輪廻さんが寝込んでいた。


(結局、流されちゃった……)


顔を赤らめ、着崩れた着物を寄せ、ゆっくりと立ち上がる。

体中にあの口紅と……キスマークが大量につき、体は濡れに濡れていた。


(……ま、まだ○○君の色だしぃ~)


負け惜しみみたいな事を思いつつ、

美しい彼女の寝顔を見ながら、その場を立ち去った。




共同の風呂場に入る。こんな朝早くからだ、誰もいるはずがない。


「はぁ~……ホント疲れるわぁ……」


いろんなもので、濡れに濡れた着物を脱ぎ、共同のシャワーで汚れを落としていく。

栓をひねれば、暖かいお湯が私の体に当たっていく。

体温とは違う、暖かさが体を伝っていく。


「はぁ、性格以外は良いんだけどなぁ……」


彼女へと愚痴を垂らしながら、体を洗っていく。

体に付いた口紅を取り、汗やらなんやらを取っていく。

ただ、キスマークは取れないが……。


「恥ずかしいとこばっか……」


どうにか取ろうとするも、取れる物じゃない。

仕方なく暫くシャワーを浴びた後、栓を締め外へと出ていく。


タオルで体を拭き、肌着だけ着て、化粧水を手に取り、顔を整える。


「でも、ほんとに肌艶よくなったわ」


化粧水を塗りながら、鏡越しに自分の肌を見つめる。

前に確認したときよりも、ハリ艶が増している。

それこそ……彼女に、輪廻さんに抱かれたあたりから……。


「い、いやいや!あり得ないし!」


そんな抱かれたからって、そんなことありえっこない。

ふるふると首を振りながら、鏡を見つめていると、風呂場の扉が開けられていく。

扉の方を見れば、奇異の目で見つめる猪狩が、そこには居た。


「朝風呂とは、いいご身分だな」

「ち、違います!昨日は、荒咲さんにその……」


と、昨日の行為を思い出し、

顔を赤らめていると…ドスの聞いた声が聞こえてくる。


「おい、お前…」


次の瞬間には、どすどすと足音を立て、私の目の前に立ち怨嗟の目で見下す。


「あ、あのぉ?」


ガっ、と肩を掴まれ、思いっきり力を入れ込まれる。

ぎりりと音が聞こえるくらいだ。


「ちょ!い、痛いです!何ですかもう!暴力に訴えて!」

「羨ましいなぁお前は!」

「……はい??」


猪狩の顔を見れば、

うるると目じりに涙が溜まっており、悔しそうな顔をしていた。

悔し涙を流しながら、大声で話し始める。


「お前本当に羨ましいぞ!あの人の口紅作れる奴なんて、片手で数える程なのに!」

「え……珍しいんです?」


ぐうぅぅと悔しそうな声を出しながら、猪狩がまた言う。


「そうだよ!作ったのは、あの蛇と……」

「そう!あたしが作ったんだぁ~」


猪狩の後ろから声が聞こえる。

そちらの方を見れば、あのあざとい腹黒、蛇ノ目が居た。

蛇ノ目はふふんと、自慢するかのような顔をしている。


「と~っても自慢できるもんねぇ?いがりちゃん!」

「うるへぇ!それにただ見ている後ろの奴は何なんだよ!」

「……後ろ?猪狩さん他にも誰か…?」


私が蛇ノ目の後ろを見ると、そこには鋭い目線で見つめる、

インテリクール鼠谷が居た。私達の事を、鋭く冷たい目線で見つめている。

そして冷たく声を出す。


「ふたり、さぼり」

「え…あっ!さ、さぼりじゃないです!私だって汗とかその他で汚れてて……」

「それも羨ましい!クソ兎!」


肩に力を入れられ、痛みが走る。

逃げようとするも逃げられず、ただ痛むしかない。


「いててっ!あの力を…」

「そのままでいいんじゃない?」

「うん、さぼりだから」


見ている二人も、猪狩の肩を持っており、やれよやれよと言っている。

逃げることは……出来なさそうだ。

あとどれだけ耐えればいいだろうか、そんな事を考えていたが。


「…ま、いいだろうこれくらいで」


パッ、と手を離された。


「さてと、それじゃあ、早速だが色々聞きたいんだ」

「き、聞きたいって……?」

「そりゃ勿論、なぁ二人とも」


猪狩は蛇ノ目と鼠谷の方を見る。二人は互いに見合って、にやりと笑った。


「ま、ここ皆ももかちゃんに、ぎゃふんと言われた仲だし?」

「うん、その通り」


三人して結託した様だ。

捉えられた兎、それが今の私に相応しい言葉だろう。


「さて…まずはここじゃ邪魔だからな」

「別な場所、そこで色々やろう」

「あ、あのっちょっとぉ!」


着物と腕を引っ張られると、そのままの姿で外に出された。


一体どうなるんだろうか?そんな不安しか、頭に残らなかった。


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