第七話前編「彼岸花には何色が似合う?」

昨日輪廻さんに、手伝って欲しいと約束をされ、部屋の前まで来た。


(紅って……口紅の事だよね?)


口紅を作る…?一体どういう事だろう?彼女の事だから、

某有名ブランドの真っ赤な口紅を、買っていると思っていたのに。


とん、とん、と襖を叩く。

暫くして中から「はいってええよ」という声が聞こえた。


「失礼しまぁす…」


すすす、と襖を開き中に入る。

相変わらず質素な部屋だが、今回は少し違った。


「わっ……」


部屋の中央の机、大量に並べられているのは、

化粧道具の数々と、何か液体の入った瓶、様々な色の粉、

ボウルに給湯器…と、おおよそ化粧に、使うものではないものも置いてる。


机の奥には、輪廻さんがらくそうな態勢で座っていた。

相変わらず着物をはだけさせ、鎖骨や肩、つるりとした白い足を出している。


「……来はったな、桃華」

「はい……ってあれ?」


彼女の顔を見る。

相変わらず白くハリ艶のある肌、黒く綺麗な長髪が、

ひとまとめにされており、セクシーなうなじが露出している。

長く反ったまつ毛、紅いアイラインと、

目じりにある紅いアイシャドウが彼女の黒く美しい瞳を強調している。


__ここまでは変わりない。

だが、一つ。いつもと違う、いや無いものがあった。


口紅だ。あの真っ赤な彼女の特徴的と言える口紅が、塗られてないのだ。


「あの…化粧途中でしたか?」

「いんや、昨日ゆうたやろ?作ってくれって」


彼女はそう言って、にっこりと笑う。え、本当に私が彼女の口紅を?


「えっと…私で、いいんですか?」


確認するが彼女は、にっこりと笑って頷く。本当に作らせたい様だ。


「いやでも、作り方とか知らないですし…」

「ええよ、あてが教えちゃるから」


そう言って、近くに来いと手招きをした。

私はゆっくりと近づき、彼女の隣へ少し間を開けて座る。

それに不服だったのか、グイっと近づいて、

身体をぴったりと合わせて、座り込む。


「え、えっと…それで、何をすれば…?」

「まずは…せやねぇ、基本でもやりましょか」


そう言って彼女は、慣れた手つきで何個か、必要なものを取ってくる。

瓶に入った黄色っぽい液体、アーモンドオイルと書かれた瓶と、

白色の錠剤の様なものなどなど。様々な材料を手に取り、私の前に置いた。


「あとは…桃華、ぼうるにお湯入れて」

「わかりました」


ポットから、ボウルへお湯を落とす。

注いだ瞬間から湯気が立ち上る、かなり熱いようだ。

彼女はガラスコップに、計量器で計っている。


「まず、ひまし油とシアバター、そんから蜜蝋」


目の前にコップ、計量された油と、

固形のクリーム、白い錠剤の様なものが置かれる。


「ほら、見てへんで」

「あっ、はい、えっと…」


慣れない手つきで、渡されたものをコップに入れ込む。

とろとろと油を入れ、クリームを流し込み、蜜蝋を入れ込む。

入れ込んだのを確認したら、次にマドラーを渡してきた。


「お湯につけて、混ぜるんや。熱いさかい気ぃつけ」

「はいっ」


お湯にゆっくりと浸し待つ。ゆっくりと溶けていくのを、まじまじと見つめる。

温めている間に、彼女が話しかけてくる。


「桃華、こっちみ」

「?、わかりました」


彼女の指さした方を見れば、様々な色の粉が入った袋が、沢山並んでいる。

赤色…と言っても、単なる赤でなく、朱色、茜色、薄いピンクに深紅の赤、

そんな赤色だけでなく、ラメや青色、黄色など数十種類あり、

そのどれもが綺麗な色をしていた。


「こん中から選んでもらいはる、勿論組み合わせるのもええなぁ?」

「……え?わ、私が選ぶんですか!?」

「せや?あての唇に似合うもん、作ってや?」


色っぽく唇に指をあてて、にっこりと微笑む。

驚きで口が塞がらない、似合う色?彼女と言えばあの赤だが…

それ以外を求めているのだろうか?それとも……?


「なぁんでもええよ、それこそ、あんさんが好きな色でも」

「わ、わかりました……」


どうしようと考える。

何色にしようか…?これだけあれば、

どんな色でも作ることが出来る、数えきれないほどだろう。


(何が…何が似合うだろう……?)


彼女をもう一度見つめる。羨ましいほど美しく、カッコいい女性。

そんな誰もがうらやむ女性の唇に塗る……と考えると頭を悩ませる。

彼女はただ笑うだけで、何も言わない。私は再度、目線を下に向ける。




(一体、一体…何色がいいの……?)


そんな事を考えながら、溶けていく下地を眺めていた。

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