第三話後編「イカサマ対決!」

「わ、私の体…?」


両手を組みながら、背筋をぞっと凍らせる。

初日だってあんなこと、されたのに…。


「せや、そんくらいせんと、おもろない」

「でも、私の体そんなにですし、最初にも言いましたけど、顔だって……」

「あんさん自身の評価なんてどうでもええ」


彼女はそう力強く言うと、私の事を指さして。


「あんさんは、自身が思いはってる以上に、魅力的やで」


彼女の引き込まれそうな瞳が、私を覗く。

その瞳に私が魅力的に映っていると、言うのだ。

こんなにも、否定しているというのに…。


「ま、それは今はええ、さっさとはじめやひょ」

「…そ、それも、そうですね、はじめますか……」


まず初めにサイコロを握ったのは、私だった。

あのイカサマを知っていながら、先に私にサイコロを渡してきたのだ。


「……」

無論警戒する。彼女は両手を組み、肘をテーブルに当てているのだ。

また机の角度を変えられて、尚且つ、吹き飛ばされてしまう。


「どないしたん?あての肘、そんなに気になりはる?」


そう言うと彼女は、大げさに両肘を上げる、けらけらと笑いだす。

無論、その瞬間を見逃す私でもない。

すぐさまに、角度を決めふっと投げ、宣言する。


「丁!」


彼女は顔色一つ変えず、ただ一言、宣言する。


「なら、あては半やんねぇ?」


から、ころ、とサイコロが転がる。

私の読み通りの軌道を描き…ころんと音を立て静止した。

賽の目は……2、偶数つまり丁、私の勝ちだった。


「……勝ちは勝ちですよ、輪廻さん」

「せやね、勝ちは勝ちや」


ふっと軽く笑うと、そのまま帯に手をかけ、しゅるりと解く。

解いた帯を綺麗に畳むと、私の方へと置いてきた。


「な、なんで脱いだんです??」

「ん?あぁ、今回金があらへん、やからそんが金替わりの指標」

「指標……ですか…」


彼女の方をもう一度見る。

帯がほどかれ綺麗な肌が、少しばかり露出している。

あの肌を全て見せた時、私は帰ることが出来るのだ。


「……なら、加減はしませんし、卑怯な手だって使いますよ」

「勿論、それありき、やもんなぁ?」


まだまだといった表情を見せ、にっこりと微笑む。さぁ、試合続行だ。


次は彼女のターン。

彼女はカップから、サイコロを手に取り、手の上で転がす。

白く長い指を器用に動かしながら、何かを考えている様だ。


(…あの時は妨害されるだけだったけど…今度は……!)


私が下から机を揺らそうと、したときだった。

彼女の手の動きが、変わり、投げる体制になる。

ただ、その指の動きに、私は驚愕した。


〈私と、同じ動きなのだ〉


私が出目の操作をする時と

同じ動き、同じ力加減、同じ角度で、振りかぶりサイコロを投げる。

から、から、と音が鳴る中。


「あては、丁、あんさんは?」

「……あっ…わ、私は…!」


私が言い当てる前に、カランと音を立て、サイコロが止まる。

サイコロの目を確認すれば……4の目、つまり彼女の勝ちだった。


「おもろいなぁ?ようさん覚えはったわ、そないな技術」

「…も、もしかして!い、い、今覚えたんですか!?」

「せや、あんさんが教えてくれはったからなぁ?」


私が何週間もかけて身に着けた技術を……たった二度見ただけで?

信じられない、空いた口が塞がらず、妨害することも忘れてしまった。

何なのだ?この人は、まるで化け物を見ている様だ。


「桃華?どないしたん?ほら、帯脱ぎ」

「…あっ、すみません…」


帯を脱ぎながら、私は次の手を考える。

こんな規格外の怪物、どう倒せと言うのだ…?

どうにかして彼女の頭を上回らないと、思考する、考える。

自分が出来ることを。


カップから、サイコロを出して、震える指で思考する。

どうやれば、どう勝てば。


(カップ……これだ!)


カップを見ながら、名案を思い付く、これならきっと行けるはずだ。


「どないしたん?はよう――」

「半――出目は、5を出します」


先に堂々と、出す出目まで宣言する。

彼女は少し面を喰らった表情をして、ふふふと笑う。


「先にゆうてええん?邪魔しはるかもしれへんのに?」

「はい、勿論」

私は堂々と宣言する。彼女は関心したような表情をして、宣言する。


「なら、あては丁、出目は6や」


その言葉を皮切りに、私はサイコロを投げる。

からんころん、と音を立てて転がる、サイコロ、勿論私の思い通りの軌道だ。

縦横無人に、転がるサイコロは、あと少しで停止する。出目は――。

彼女が身じろぎをした途端、止まりかけたサイコロは上へと飛んだ。

ポーンと飛んだサイコロは、軌道を変え、からころ、と音を立てる。

彼女はそれを見て、にやりと笑った。

勿論同じ妨害をされるのは承知の上。


「……まだ、まだです!」

手でカップを掴むと、サイコロを巻き込み、口をひっくり返した。

からんと、サイコロが止まる音が聞こえる。


「…ほぉ?おもろい事考えたんやなぁ?」

「……これしか、方法、無かったんで」


軌道を修正するには、これしかない。

カップでサイコロの目をずらして、5の出目が出るはずだ……。

うまく行っていればの話だが。


「さてはて、どないなものか」

「見てみないと、わからないですよ」


手に力を入れ、ばっとカップを避ける……。


『数字は6』 私の負けだった。


「……な、どうして…?」

「ふっ、確認しないあんさんが悪いんやで?」


そう言って彼女は、サイコロ手に取り、私の前でよく見せてくる。


「……な!ぜ、全部偶数…!」

全て246の出目で、埋められたサイコロ、イカサマ用のサイコロだ。

いつの間に変えられたのだ?渡してきた時?訳がわからない。


「な……あっ……あっ……」


体中が脱力する、私の敗北を突き付けられ、絶望する。


「もうその体じゃ、出来へんなぁ?」

「っ!……ま、まだ出来ま…」

「自分、みてみぃ、震えと待っとらんよ?」


自分の手を、見てみる。見れば震えが止まっていない。

彼女の才能を見せつけられ、絶望してしまったのだ。


「……今日は、負けでいいです…それで、何をすれば…?」

「…もうええ、帯を締めてはよう部屋戻り」

「……ありがとうございました」


私は帯を締めて、その場を後にする。

悔しさと恐怖感が溢れる、一体彼女は何なのだろうか?

何故あそこまで強いのか、それがわからなかった。


****


廊下を歩いている途中

誰かとすれ違う、私は気にせず、その場を後にした。


「ふぅん、あの子が新人ちゃんねぇ……?」

ただ、そのすれ違った人物が、飴玉を舐めながら、

私の事をじっくりと見つめていることなど、知る由もない。

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