【BL】友チョコ

星見守灯也

友チョコ

 バレンタインデーは好きな人にチョコレートを贈る日。

 そう決めたのはチョコレート会社のキャンペーンであるらしい。

 よかろう。

 それならばおおいに踊らされてやろうではないか。



 そこそこ高級なチョコレートが催事場にずらりと並ぶ。

 田舎の地方都市でこれだけの種類が置かれることは稀である。バレンタインデー様様だ。都会に行けば有名なショコラティエのものも手に入るのだろう。人出はもっと多いのだろうが、一度は行ってみたい。チョコ好きには天国のようなイベントだ。

「メアリーにグォティバとかデェメルは定番だな……あとはピエエルマルコとラメジョン」

 その向こうにはかっこいい丸い缶入りが陳列されている。あの缶のために欲しくなっちゃうんだよなー。

「オロゾフもいい……」

 ちょっと前は若い女性の買うものだったチョコレートは、いまや老若男女がこぞって買うものになった。男ひとりで列に並んでいてもジロジロ見られることがないのはいい。

 甘い物好きの同士よ、己がためにチョコを買い求めようではないか。味のわからぬものにあげるなど片腹痛い。美味いものは孤独に楽しむべきなのだ。



 ……思ったより買い過ぎた。チョコには魔力がある。見るたびにあれもこれもと欲しくなってしまった。

「よお! チョコもらったか?」

 あわてて両手の紙袋を後ろ手に隠す。友達……というかもう腐ってボロになってるはずの縁の男だ。そいつはゆかいそうに小さな包みをひとつ渡して来た。ブラックボルト。それはコンビニで数十円のチョコ菓子だった。

「これやるよ、友チョコだ友チョコ」

「おまえなあ……」

「なんだよ。チョコで友情が買えるなら安いもんだろ?」

 こいつはたまに人のいいことをするので憎めない。高いものを渡して見返りを期待したり縛りつけようとしたりの打算もない。

「おい」

「怒んなよ、ごめんて」

「お返しに美味いチョコ食わせてやる。ウチに来い」

「へ? いいよ、期待したわけじゃなし」

「3倍にして返してやるって言ってる」

 値段でいえば3倍じゃきかないが、こういうのは気持ちだ。相手に美味いものを食わせたいという気持ち。

 おれはチョコ菓子の包装を破ってかじりついた。チョコにコーティングされたビスケットとクッキーがザクザクいう。

「うまい」

「だよな、それうまいよな」



 そのあと、おれたちは舌が甘さを感じなくなるほどチョコレートを食べたのだった。

 そいつは酒のアテに甘いものも平気なようで、ビールに日本酒も出して食べ始めた。ろくろく外見の美しさを見もせずに食べるのは残念だったが、やつが言うには生チョコが一番美味かったそうだ。そうか、そんなら来年は生チョコをメインにいろいろ探してくるかな。

 誰かのために美味いものを探すというのもひとつ楽しいのかもしれなかった。

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