飛行する天狗

たらこ飴

第一話

 幼い頃の私は夢見がちな子どもだった。近所の子どもたちの遊びの輪に入ることもせず一人で絵を描いたり本を読んだり、想像上の友達を作っては一人遊びばかりしていた。母はそんな私を案じていたけれど、当の私はどこ吹く風だった。


 昔から私の目には不思議なものが見えた。あれは五歳くらいの頃だったか。二階の両親の寝室のクローゼットの影から赤い小さな鬼の子が顔を覗かせていた。その鬼の子ももしくは私と同じ年の頃だったのかもしれない。額には小さな角が一本生え、ビクビクと恐ろしげにこちらを見ていた。目を逸らした隙にいつのまにか姿は消えていたけれど、あれは確かに夢ではなかった。


 また、私には四つ歳の離れた兄がいるのだが、小学生になったばかりのある夜のこと、真夜中にふと目を覚ますと、寝ている兄の枕元に赤い着物を着た髪の長い女の子が座って無表情で兄の顔を見下ろしている姿が目に入った。不思議と怖い気はしなかった。あとからそれを祖母に話したら、「そりゃあ座敷童じゃな。縁起の良いもんを見た」と教えられた。


 今でこそ見える機会は早々なくなったが、幼い頃は死者の姿も見えた。それはごく普通に生きている人の中に混じっていたりもするし、見るからにそれと分かる姿で一人ぽつんと田んぼや路肩などの場所に立っていたりもした。彼らの中には私と話したがる者もいた。助けを求めているのだと幼心に分かったがどうすることもできなかった。私が困っているのに気づくと彼らはすっと姿を消した。


 そんな私には、大人になった今でも忘れられない思い出がある。

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