お題「テリヤキバーガーのわしづかみ」15分・完成

そんな行儀の悪いことをするんじゃない、と妹に叱られたのを覚えている。妹は私なんかよりずっとしっかりしていて、お行儀が良く、いい子だった。ハンバーガー屋で口の周りにベッタリとソースをつける私とは全く違う。隣で妹はそれでも本当に幸せそうに微笑んでいた。

階段を降りる時、手を繋いでいれば怖くないと彼女は言って私に縋り付くようにして恐る恐る一段ずつ確かめるように下る。そうしないと身動きが取れなくなるらしい。可愛らしいと思う反面、もう少し私の腕を鷲掴みにする手を緩めてくれと思う。

もう成人する彼女はどこか子供っぽいけれど私より遥かに大人で、自分が情けなくなることもある。その一方で私を無邪気に頼ってくれることもある。素直に嬉しい。

彼女はハンバーガーと私の区別がついていないらしい。ハンバーガーは姉で、姉はハンバーガーだと思っている。でも鷲掴みにされる腕の感覚は、それが姉とハンバーガーを区別していることを示している……妹はハンバーガーを鷲掴みにはしない。だって彼女はとっても行儀がいいんだから。

私は私であったし、ハンバーガーはハンバーガーであった。それは私にとってだけだ。彼女……妹にとっては違う。私はそれを認めるべきだ。

彼女が私の腕を齧ろうとする。手に持ったハンバーガーに「成人式の着付け、手伝ってよ」と話しかけている。私は妹を信じている。肉がえぐれる音が聞こえる。

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